それで、両肺を乗せられるサイズの青い板を用意してあるのだが、さすがにこの結腸ははみ出してしまい乗せられない。
結腸捻転馬の結腸の色調はいろいろで、一番多いのは紫色になるタイプで、駄目なのがわかりやすい。
ついで多いのは、白っぽくなるタイプ。
浮腫性の肥厚ばかりが強いこともある。
それから乾燥したように赤くなるタイプ。これは意外に損傷がひどいように思う。
それらの色調は漿膜面から観たものなのだが、漿膜面の色調はさほど悪くなくても、骨盤曲の切開創から観た粘膜の色調がひどく悪いこともある。
腸管では粘膜の血流が最も血流が盛んで、酸素要求量も多いのだろう。
虚血におちいったときも粘膜が一番速く損傷を受け、壊死を起こす。
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この馬の結腸も外側の色調はひどくないが、粘膜は全長にわたって壊死している。
腹側結腸(写真の上側)はまだ赤みがあるが、背側結腸の粘膜はもう灰緑色をしている。
粘膜は腸内の細菌やエンドトキシンが体内に入ることを防ぐバリヤーでもあるので、大きな面積の粘膜が壊死した腸管を温存すると、術後経過は非常によろしくない。
発熱が続き、白血球数は減少し、馬は沈鬱で、いくら輸液しても脱水が改善されない。
その点でも、重症の結腸捻転では結腸を切除したほうが術後経過は良い。
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問題は虚血性損傷を起こした部分を全て摘出することはできないことだ。
結腸捻転ではたいてい結腸基部から盲腸と入れ替わるように捻じれていて、結腸の基部も虚血性損傷を起こしている。
しかし、結腸基部は術創外へ出せないので切除できない。
それで、上写真のように粘膜が壊死している部分で切除して吻合することになる。
残した部分が壊死せずにすむかどうかは、祈るしかない。
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この10年、結腸切除して助かった馬が今も何頭か生きているし、JRAで競馬出走した馬もいる。
小腸の虚血性損傷では「疑わしきは切除する」が原則となっている。
手術後に禍根を残さないように、怪しい部分は切除し、健康な部分同士を吻合する。
結腸も・・・温存することで予後が怪しくなるなら積極的に切除吻合すべきかもしれない。
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天を驚かし地を動じて
闇将軍の大刀を奪いえて手に入れるが如く
仏に逢うては仏を殺し
祖に逢うては祖を殺し
「無門関」第一則趙州狗子より。
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