馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

EBMとEBS

2007-07-31 | 人医療と馬医療

 Evidence Based Medicine 根拠に基づいた治療の考え方を、外科にも応用しようと提唱している人もいる。

学術誌「Veterinary Surgery」 にもEvidence Based Surgery を唱えた提案がなされている。

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 nemobabaさんに教えていただいた整形外科医寺山和雄先生のHP http://www2.ocn.ne.jp/~orthopub/

長年、整形外科の第一線におられた経験に基づいた見識は、馬の手術をしているわれわれにもたいへん参考になる。

その中にEvidence Baced Surgery について懸念を述べられた一文もある。

http://www2.ocn.ne.jp/~orthopub/kaiho/kh108ebmgimon.doc

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 私も同様の懸念を感じる。

内科治療なら、投与量、投与経路を統一すれば、2群に分けた対照試験が可能だろう。しかし、外科手術でそれをするのはかなり難しい。

同じ器具を使い、同じ手技を用い、同じ手術をしたつもりでも、「同じ」と言えるかどうか。

同じ手技の手術でも、毎回うまくやろうと努力が必要で、そしてうまくできたかどうかは毎回違うのが手術というものだ。

そして、他所や他の外科医が出したevidence と同じ手術ができるかどうかもまた難しい。

外科手技には文章にできないコツが限りなくある。

外科医の技術は、最後はその外科医本人の指先にかかっているのだ。

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Evidence Based Surgery の確立を目指そうとする意見に反論するわけではない。

それどころか、もし可能であるなら素晴らしいことだし、実現に向けて臨床の中で努力していくことも、そしてevidence となる研究報告を出していくことも大切だと思う。

しかし、外科を科学的根拠だけに基づいて行っていくことは、困難なことだし、限界があることだと思う。


高速トレッドミルによる内視鏡検査研修

2007-07-30 | How to 馬医者修行

朝は、入院馬2頭のようすを診て、手術の準備をする。

午前中は第二中手骨の骨折片の摘出。その後、喉の内視鏡検査。P7300505

午後はJBBA研修センターで、トレッドミルを用いた喉の内視鏡検査のデモンストレーション(右)。

講師はケンタッキーHagyard-Davidson-McGeeのDr.Rodgerson。

トレッドミル検査を行う上での実践的な工夫もされていて、興味深かった。

P7300508 蹄鉄をつけたまま検査する時に、トレッドミルの後に立っていると、落鉄した蹄鉄が飛んで来て危ない。とか

スコープを鼻に固定するのにスコープをチューブに通し、そのチューブを頭絡とスコープそれぞれにベルクロテープで止める。とか

慣れた人が二人いればトレッドミルで馬を走行させられる。とか

経験、それも危ない場面も含めた経験から来る示唆に富んでいる。

P7300504以前このブログでも紹介したことがある喘鳴音の周波数分析が行われるようになって、トレッドミル検査の数は減っている。という話などは、まさにリアルタイムな情報だった。

われわれの診療所で トレッドミルを導入する予定はないし、トレッドミル検査も見たことがあるし・・・・・・と思って行ったが、どうして喉の障害についての講義には、手術方法についての話もあり、セリにおける喉の評価という現実的な話もあり、たいへん勉強になった(左)。

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 私は昨夜、というか今朝は子馬の開腹手術が終わって寝たのは3時、前の晩は1時。この1週間は、ほかに2時になった夜と、3時になった夜と・・・・・・・

それでも興味深い話を聞けることは楽しいことだ。眠たくても眠りはしない。

頭は働いていて、聞いたことは反芻し、記憶に残っていく。

大事なことは好きな道を見つけることかな?

そして、好きな道で精一杯やれたら、それは幸せなことだ。


馬医療におけるEBM

2007-07-29 | 人医療と馬医療

 EBM Evidence Based Medicine と言う用語を最近よく聞くようになった。「根拠に基づく医療」などと翻訳されている。

私には詳しく正確に説明することはできないので、興味のある方はウェブ検索してもらいたい。

今、注目されているのでたくさん出てくる。1例を挙げておく。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A0%B9%E6%8B%A0%E3%81%AB%E5%9F%BA%E3%81%A5%E3%81%84%E3%81%9F%E5%8C%BB%E7%99%82

 以前に、恩師一条先生に、「ドグマに陥ってはいけない」と教わったことを書いた。

EBMはまさしく、理論上の推測や、経験や、権威者の教義・嘘・思い込み(Dogma)ではなく、科学的に立証された根拠に基づいて治療を行うことを指している。

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 科学的に立証された根拠として用いられるのは、論文として学術誌に発表された報告であることが多い。

しかし、論文の評価もなかなか厳しい。

レベルI:RCT randomized control trial (無作為抽出による対照試験)とその系統的レビュー

レベルII:前向きコホート研究、追跡率80%以下のような低質のRCTとそれらの系統的レビュー

レベルIII:ケース・コントロール研究、後ろ向きコホート研究とそれらの系統的レビュー

レベルIV:対照群のない症例シリーズ報告

レベルV:エキスパートの見解

と分類されている。

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 科学的な根拠に基づいて診療を行おうとする EBM の考え方に異論はない。

われわれ大動物臨床獣医師、馬臨床家も、「俺はこう思う」とか、「こうしてみたい」ではなく、教科書を調べ、文献を検索し、科学的に「正しい」治療をするべきなのだ。

ただ、実践するのはなかなか難しい。

人医療ならともかく、馬の臨床に役に立つ論文はなかなかない。

根拠になるべき論文がないとなると、古い治療法しかできなくなる。

せめて教科書を調べ、レベルⅣの症例報告や、レベルⅤのエキスパートの見解くらいは読んでから治療を行いたいものだ。

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注射針の太さ

2007-07-28 | How to 馬医者修行

P7010467 昔は、大動物獣医師は18Gの注射針ばかり使っていたような気がする。

私は、マイシリンのような懸濁液も、粘度のある注射液も、18Gで注射することはない。

針は少しでも細い方が痛くないに決まっている。

マイシリンだと19Gを使うことが多い。

他の薬は20Gで注射することが多いが、量が少ない注射のときは22Gも良く使うようになった。

注射するときに馬が嫌がることも減るように思う。P7010468

馬の注射はゆっくり針を刺した方が良いと思っている。

頚を触らせる馬ならまず問題なく注射できる。

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私が獣医師になった頃、まだガラスの注射器も使っていたし、留置針はなかった(使っていなかっただけか?)。

今は点滴も、針が抜けるのを心配せずに行うことができる。

便利になったもんだ。

留置針も太さ、長さ、いろいろそろっている。

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ただ、まだ18Gの針しかおいてない診療室を見ることがある。

細い針、使ってみませんか?


講義 馬の臨床

2007-07-27 | How to 馬医者修行

P7270494 夏の緑を走り抜けて、

平原の国へ。

馬の臨床についての講義をしに行ってきた。

今回は5年生が対象。

P7270499 今年は趣向を変えた。

本当の Problem Based Learning とはいかないのだが、臨床例の写真を示して、それについての質問を学生にして答えてもらうクイズ番組式にした。

まあ、指名して強制的に答えてもらったので、午前中は寝ている学生はあまりいなかった。

さて、眠くなる午後。

午後の講義は、クイズ番組風PBL方式に変更する準備ができなかった。

それでも、何度か指名して答えてもらったのだが、1/3くらいが寝ていたか?

寝ている数を評価基準にすると、クイズ形式の方が良いようだ。

本当は、多くの知識を系統立てて紹介できるのは、テキストやスライドに沿った純粋な講義なのだが、多くが寝ているんじゃあしょうがない。

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P7270496 私が学生のころ、細くて低かった木々が大きくなっていた。

20年あまりの年月を思う。

年いくはずだ。P7270498