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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

診断

2011-11-30 | How to 馬医者修行

肺癌が疑われる男性にSusan が言う。

if there's one thing you learn  in my job, it's that nothing is certain.

Nothing that seems very bad and nothing that seems very good.

Nothing is certain.

Pa211545もし、私の仕事についてあなたが知っておくべきことがあるなら、確かなことは何もないということなのです。

とても良いと思われることもなければ、とても悪いと思われることもありません。

確かなことは何もないのです。

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内科医らしい言葉だ。

そして肺癌であろう患者に対する慰めでもある。

しかし、この姿勢が問題を引き起こすこともある。

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大動物臨床では断定的な診断や治療を下す人が好まれる傾向があるように思う。

「あ~○○だ。××すれば治る。」

それで治れば名獣医だ。

しかし、実際にはそうはいかないことも出てくる。

どんな治療でも併発症やcomplication こじれる場合についての記載がある。

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今日は、当歳馬の飛節のOCDの関節鏡手術。

午後は、競走馬の喉頭内視鏡検査を3頭。Pb301669

繁殖雌馬の副鼻腔炎の円鋸手術1頭。

ポニーの上眼瞼の外傷1頭。

夕方、繁殖雌馬の疝痛。

夜は臨床繁殖の大家Dr.LeBlancの講演。

繁殖障害の診断・治療は内科疾患以上に確定的なことがなく、試行錯誤が必要で、そして結果は妊娠するかしないかしかなく、難しいだろうなと感じた。


OLYMPUS

2011-11-29 | 日常

 私たちは長い間、Olympusの内視鏡を使って来た。内視鏡ではもっともシェアが高く、馬に使うという特殊な要望に応える太さや長さのバリエーションがあり、機能も優れていたからだ。

 しかし、Olympusというのは少し変わった社風なのだろうとは感じていた。技術力には自信があるのだろうが、保守や更新や、トラブルへの対応などのサーヴィスがよろしくない。

 内視鏡画像を撮影するカメラに入れたフィルムがどうも感光してしまうトラブルがあったときも、会社としてまったく対応しようとしない。終いには何本かフィルムを寄越しただけだった。

 10年経った器機はもう修理できません。と言ってくる。部品があるうちは大丈夫なんですよね。と聞いたら、部品は保管しないで捨てるんです。というのが返事だった。

 ヴィデオスコープにしても、関節鏡セットにしても高い器具なので予備を置いておくなどということはできないのだが、壊れると修理の間、代替品を動物の診療所には貸してくれない。これほどOlympusの製品をフルセットで使っているのに。

修理が終わってくるまでどこからか借りてこないと診療できなくなる。

Pb191652  蛋白電気泳動装置もOlympusの製品を使っていたが、その事業部門を丸ごと他社へ売ってしまった。社員ごと。そして、引き取った会社もその部門から撤退してしまった。

社員にとってもひどい話だ。「君の部門は分社化する」「今度あっちの会社と合併する」「君のいる事業部は閉鎖する」

その都度、「嫌なら辞めるか?」となるわけだ。

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 株式の上場停止や、企業丸ごとの買収の懸念もあるらしい。今、ようやく明るみにさらされようとしている企業経営の醜聞を耳にすると、かつてのいろいろは末端に現われた「症状」だったのかとも思う。

しかし、USAの馬病院でもよく使われているヴィデオスコープや関節鏡器具の会社だ。

「これが一番良いヴィデオスコープだ」とケンタッキーの馬外科医に言われたときは日本人として誇らしかった。

どんな形であれ生き残り、優秀な製品とサーヴィスを提供し続る企業として再生してもらいたいものだ。

 


人用LCPと馬用LCP

2011-11-28 | 整形外科

馬の内固定手術について Equine Surgery 1st ed.にあった言葉

The most important aspect of intraoperative and postoperative evaluation of a case is the development of a critical nature that enables the surgeon to recognize errors and to correct them before they become much worse.

症例についての手術中と手術後の評価において最も重要なことは、より悪化してしまう前に間違いを見つけ修正することを外科医ができるようになるための重要な資質を伸ばすことだ。

内固定手術中には何度もX線撮影をしてスクリューやプレートの角度や締まり具合や骨との関係を確かめることになる。

Pb281657_3 当然、どういう形状をしているのか正確に把握しておかないと判断をあやまることになる。

左はチタン製の人用LCP。

LHSを締めると、そのヘッドはプレートに埋まって横からは見えない。

X線撮影しても、ヘッドは写らない。

Pb281659 こちらはステンレス製の馬用LCP。

左のスクリューがステンレス製の馬用LHSだが、ヘッドが見えている。

チタン製とステンレス製のインプラントを混ぜて使ってはいけないとされているので、右のようにチタン製のスクリューをステンレス製のLCPに挿すことはないのだが、やってみるとこれもやはりヘッドが見える。

Pb281663 どうやら、LCPからLHSの頭が出るかどうかは、チタン製とステンレス製のプレートの厚さによるらしい。

ステンレス製の馬用のプレートの方が薄いのだ。

しかし、強度はステンレス製の方が強いので、馬にはステンレス製を使うべきだとDr.Richardsonはおっしゃっている。

このステンレス製馬用LCPとLHSの形状を知っていないと、手術中、手術後のX線像の評価を間違うかもしれない。

Pb281661ちなみに、LHSはチタン製とステンレス製で、使うスクリュードライバが6角と星型に分かれているが、その他にヘッドのねじ山部分も微妙に形状が違うようだ。

星型のネジ頭は、スタードライブと呼ばれたりしているが、本当はトルクスという商標登録された製品が始まりのようだ。

まあ、いずれにしてもややこしく、面倒な、マニアックな話。

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だんだんあつかましくなるエゾシカ。

ついに構内をうろつきだした。

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麻酔覚醒 ミネソタ大学のやり方

2011-11-27 | 麻酔学

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YouTube: How do you wake up a horse safely?

馬を安全に全身麻酔できるようになったことは、この30年の馬医療の大きな進歩の1つなのだが、まだまだ完全ではない。

とくに麻酔覚醒の起立時にはどうしようもない骨折や自損事故が起きることがある。

それを防いだり減らす方法はいろいろ考えられ実践もされているが、理想的な方法は確立されていない。

これは、ミネソタ大学のやり方。

覚醒室の床がエアマットになっていて、フワフワで馬が起きにくいようにしておいて、馬がしっかりしてきたら空気を抜いて立たす。

良さそうだが、ペンシルバニア大学のようにプールの中で覚醒させても暴れる馬もいるので、エアマットの上でも大暴れする馬がいないか聞いてみたいところだ。                   

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今日は、後肢の跛行診断とX線撮影。

午後は当歳馬の外傷と鼻梁骨折。

その他にも、当歳馬の前眼房の出血や、繁殖雌馬の肋骨骨折の相談。

雨降りで馬も暴れる日だったのだろうか?


tieback surgery

2011-11-26 | 呼吸器外科

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YouTube: Horse Roaring, this is Roaring Horse Tie Back Surgery

のど鳴り(喘鳴症)の馬の喉頭形成術のコマーシャルヴィデオだ。

のど鳴りは roaring と呼ばれる。

内視鏡検査が普及して、喉頭片麻痺 laryngeal hemiplegia (喉頭片側不全麻痺)と呼ばれることが多くなった。

しかし、さらに最近では、RLN recurrent laryngeal neuropathy と呼ぶほうが正確だということになってきたようだ。

hemiplegia 片側麻痺にしても、paralysis 麻痺にしても、完全に麻痺することを指すからだと言う。

が、「paresis 不全麻痺」という用語もあるのに使わないのは、迷走神経反回枝の喉頭支配枝の障害であることがはっきりしたからそう呼ぼう。ということのようだ。

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治療方法としては、このヴィデオのように喉頭形成術(この呼び名も無理があるように思う。俗称だがTiebackの方がピンと来る。)が行われることが多い。

しかし、麻痺あるいは不全麻痺に対して、麻痺を治す治療ではなく、開かない(外転しなし)披裂軟骨を引っ張って開きっぱなしにしようという手術なので、かなりの無理がある。

 このヴィデオではかなり大きく切開しているが、血管や神経が多い部分なので、外科侵襲を少なくすませることも大切だと思う。

使っている道具、糸の通し方、など私のやり方とはかなり違う。

喉頭切開して声嚢声帯切除しているのは私と同じ。

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