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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

上瞼のSarcoid

2009-11-28 | その他外科

Dsc_0679 仔馬が調子悪くて診ていたら、母馬の上眼瞼に腫瘤があるのに気づいた。

上瞼も馬類肉腫 Equine Sarcoid の好発部位だ。

「大きくなるようだと治療しなければいけないかな」

と話していたら、突然こんなになってしまった。

Dsc_0694どうやら擦るか、ぶつけるかして、内出血してしまったらしい。

全身麻酔して手術することにした。

血腫にもなっているのだが、上眼瞼の中には白い腫瘍塊もある。

できるだけ完全に摘出する。

Dsc_0703 Sarcoid は牛パピローマウィルスが感染することで起こるとされていて、たいへん再発が多いことも知られている。

それで、自家移植免疫療法も併用することにした。

摘出した腫瘍塊をフリーズスプレーで凍らせておいて(左下)、

Dsc_0687頚の皮膚を数箇所切開したところへ埋め込む(左下)。

腫瘍と牛パピローマウィルスに対する免疫を促進させるというのがねらいだ。

どのくらいその効果があったかを客観的に評価するのは難しいが、再発しなければ良しとしよう。

Dsc_0697血腫になってしまっていたので、瞼の腫れは残ったが、Sarcoidとしての再発はないようだ。

Sarcoidができる場所にもよるが、あまり大きくなるまで放置しない方が良いように思う。

大きくなりすぎると、摘出・切除手術するにもてこずるし、完全な切除・摘出が難しくなる。 

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明日から東京行き。

JRA調査研究発表会とウマ科学会

12月1日はウマ科学会獣医師ワーキンググループによる症例検討会。

クイズ形式?による会場参加型の研修会になる予定だ。

私にも初めての経験だ。

参加される方、東京で会いましょう!


脛骨外果の骨折 手術

2009-11-27 | 整形外科

Pb240006_2 脛骨外果の骨折の治療について書こうとして、すっかり話が逸れてしまった。

古い文献には、温存、すなわち手術しないでおくと、予後は良くないと書かれているものもある。

しかし、手術しなかった症例も、ほとんどの症例は競走馬になっている。

Pb240005 ただ、起こったことは単なる骨折ではなく、「骨折を伴うひどい捻挫」なので、手術して骨片を取っても、手術せずにおいても、完全にすっきりした飛節にはならない。

最近は、セリでも、育成牧場でも、競馬場でも、x線撮影されることが増えたので、関節の周りに骨片があるとたいへん気にされる。

それで、「取れるものなら取ってくれ」と言われることが多い。

Us x線撮影だけだと、骨片の正確な位置を把握しにくいことがある。

超音波検査すると、距骨(ピンク)、骨片(黄色)、骨折線(赤)、脛骨外果(薄緑)が描出される。

ちょうど、この上を外側趾伸腱が通っているので、それを避けて切開する。

骨片には靭帯がしっかり付いているので、それを切り剥がして骨片だけを摘出する。

関節鏡手術で摘出するのを好む馬外科医も海外には居るようだが、関節鏡をふつうの位置から入れたのでは観察しづらいし、関節の中から靭帯を切らないと摘出できないようだ。

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P4150288骨片がたいへん大きい症例では、スクリュー固定することもある。

それに使うのは malleolus screw。

左の真ん中のやつ。

先が尖っていて、靭帯付着部に差し込みやすいようになっている。

根元の方にはねじ山がないので、ネジを締めれば、骨片が離断母床に圧着されるようになっている。

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2009_2 12月19日20日は札幌で獣医麻酔外科学会・獣医循環器学会の合同学会が行われる。

http://www.w-post.jp/autumn2009/

せっかく北海道で行われるので、牛・馬のプログラムも組まれている。

12月も押し迫っての北海道は「秋」じゃないだろう!とか

師走!忘年会シーズンまっさかり!暇な奴なんかいるか!とか、突っ込まずに、

馬医者の皆さんも札幌へお集まりください。

ついでにススキノで忘年会をするも良し、大通りでホワイトイルミネーションを観るも良し。

お得な事前登録が12月5日まで延長されたそうだ。

私もまだ登録していないんだった。


脛骨外果の骨折 用語

2009-11-26 | 整形外科

Pb240006 当歳馬や1歳馬に多いのだが、脛骨外果を骨折している。

この部分は lateral malleolus とされるので、外「果」というのが正しい。

骨嚢包ができることが多い大腿骨内顆や、

縦骨折することが多い第三中手骨外顆は、顆 condyle である。

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以前は、OCD離断性骨軟骨症と間違える人が多かったが、この部分の骨折は捻挫に伴って、靭帯によって引きちぎられる捻除骨折 avulsion fracture である。

実は、avulsion fracture の訳語はステッドマン医学大辞典では「剥離骨折」となっている。

「捻挫や脱臼を生じさせるような、あるいは筋力に抗した強い収縮が働いた場合、

関節包、靭帯、筋付着部が骨から引き離される形の骨折。

軟組織が骨から引き離されるときに骨片とともにちぎれる。」とある。

脛骨外果骨折もまさに「剥離骨折」なのだが、馬医療では「剥離骨折」は、腕節や球節の関節内の chip fracture 小片骨折を指す用語としてあまりに普及しすぎている。

で、私はavulsion fractureは捻除骨折と呼ぶことにしている。

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飛節は人でいうと足首にあたる。

脛骨外果の骨折はサッカー選手にも多い。

1人のサッカー選手の足首の骨折に、日本中のサッカーファンの夢がかかっていたことがあった。

故障を抱えながら、痛み止めの注射をしながら試合に出続ける。

この本を読むと、スポーツとは体に良いもの、などというのとは別な一面を味わえる。

狂気の左サイドバック

Photo If you win or lose

It's a question of honour

And the way that you choose

It's a question of honour

-

I can't tell what's worng or right

if black is white or day is night

I know when two men collide

It's a question of honour

  -

誇りと狂気。接点があるのかもしれない。

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宙を舞うより、代表ユニフォームを着て歌ったほうがうけると思うんだけど。

長日周期・短日周期

2009-11-25 | 日常

馬は季節性繁殖動物で、春から夏にしか発情が来ない。

日照時間が長い季節に繁殖するということで、長日周期と呼ばれている。

学生のとき以来、少しずつ日が長くなることで発情が来ると思っていたが、どうもそうではないらしい。

最近のライトコントロールの研究でも、日没後一定の時間明るくしてやればそれでいいようだ。

                          -

私は若い頃から秋が好きではない。学生の頃も、夏バテはしないのに、秋になると体重が減っていた。

北海道へ来てからはとくに秋は短いし、どんどん寒くなるし、日は短くなるし(北海道の日暮れはとくに早い!)、かと言ってまだスキーもできないし・・・・

秋季・冬季うつ病というのもあるそうだ。

秋・冬になって日照時間が短くなり、寒くなって外へ出なくなり、光を浴びなくなると精神的に不調になるということがあるようだ。

最近は、1日数時間強い光を浴びる光療法というのが治療に成果をあげているらしい。

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今週は予定の手術と、急患でけっこう忙しい。

といっても春に比べればたいしたことはないのだが・・・・・テンションをあげられない感じ。

日向ぼっこでもして、光を浴びた方がいいかしら??Dsc_0116

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きのうは当歳馬の脛骨外果骨折の骨片摘出。

2歳馬の去勢後の漿液腫の切開・切除。

1歳馬の結腸左背側変位の開腹手術。

今日は、競走馬の腕節の剥離骨折の関節鏡手術が2頭。

Tieback後の再検査、レポジトリーに準じた当歳馬の検査。   


緊急処置?の・・ハンドブックorテキスト

2009-11-23 | 図書室

Emergencies USAのテレビドラマERや、日本でもノンフィクションの取材番組があったりして、救急救命治療が知られるようになった。

交通事故をはじめとする外傷や、心臓病、脳出血、重症かつ急性の内科疾患でも、初期の処置が重要で、それにより救命率も大きくかわる。

だいたい、救急車で運ばれて来た患者を、ゆっくり診察して担当する科を選んでいる暇はない。

それで、診察をしながら、緊急処置をして、状態を安定させて、必要なら各分野の専門医にわたす。

                           -

馬の診療では往診に周っている獣医師は、もともとこの緊急処置の技術と知識を要求されている。

また、二次診療を受ける診療施設も、緊急処置が要求される場面はしばしばある。

生産地の馬の死亡・廃用の原因は、骨折、疝痛、分娩事故、新生仔馬の死亡、腰痿、だ。

ほとんどが緊急事故。

だから、人医療と同じく救命救急の需要がある。

的確な緊急処置ができれば、救命できる馬はまだ増やせるだろう。

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ただ、馬の救命救急が専門分野として確立される下地があるかどうか・・・

そもそも扱う分野が広すぎる。骨折の緊急処置もだし、難産もだし、疝痛もだし、心臓発作もだし、眼科もだし、etc.

それぞれについて、広く浅くは良いけれど、少なくとも日本では、そのあとを頼む馬の専門医はいない。

だから、緊急処置としてはここまで。という線引きがしにくい。

                         -

二次診療施設へも、患者さんが救急車で搬送されてくることはない。

意識が無くなったり、立てなくなったら、運べないのが大動物の宿命なのだ。

現実には一番必要とされる緊急処置は安楽死かもしれない。

                         -

しかし、往診車に積んでおいたり、診療室においておくハンドブックとしてはこの本は良いかもしれない。

ペーパーバックで、1万円あまりで買える。

What to do と What not to do (すべきこと・してはいけないこと) が簡潔に書かれているのも良いかもしれない。

本当の、馬の救命救急がいつか専門分野として確立されるかどうかはわからないが、少なくとも必要性はあるわけだから。

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Pb230004_2 緊急処置器具。TV電話機能付き携帯電話。

緊急廃用には、TV電話による申請が必要になった。

カルテを用意しておいて、TV電話をかけることになっている。

先に書いたように馬の廃用は、かなりを緊急事故が占めている。

初診のカルテさえない場合がほとんどだと思うのだが・・・