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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

11頭の若い馬の血管肉腫 文献

2022-09-26 | 学問

Journal of Veterinary Internal Medicine 2005、19(4) 564-570 に

Hemangiosarcoma in 11 young horses

若い馬11頭の血管肉腫

という学術報告が載っている。

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要約

血管肉腫は馬ではまれな腫瘍で、若い馬の血管肉腫は年齢がいった馬の血管肉腫とは異なった経過を示すかもしれない。

この調査の目的は、3歳以下の馬の血管肉腫の特徴を明らかにすることである。

1982年から2004年までの診療記録を調査し、組織病理学的に血管肉腫と診断された3歳以下の馬を抽出した。

11頭が確認された。

サラブレッドとサラブレッド系がほとんどであった。

9日齢から3歳齢であった。

すべての馬は、皮下あるいは肢の腫れ、または関節の腫脹で診療を受けていた。

診察所見では、心拍数増加、発熱、沈鬱であった。

検査所見の異常は、貧血(5/11)、高フィブリノーゲン血症(4/11)、低フィブリノーゲン血症(3/11)、血小板減少症(2/11)、そして好中球増加症(1/11)であった。

いずれの症例でも超音波画像診断とX線画像診断では診断されていなかった。

生前の組織病理診断は10例で行われていた。

11頭のうち6頭は安楽殺されていた。

外科的切除は5頭で行われ、うち2頭はのちに安楽殺されていた。

診断は、安楽殺された全例で死後の組織病理検査で確認された。

2例は自然治癒した。

腫瘍塊が局所に限定されていて、外科的切除が可能であるなら、早期の組織学的診断が治癒につながるかもしれない。

馬が内科的に安定していて、腫瘍塊が生活の質を害しない症例では、観察期間をおけるかもしれない。

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ペンシルヴァニア大学からの報告。

あのRichardson教授も報告者に名を連ねている。

私も何度か馬の血管肉腫に遭遇してきたが、良い記憶はない。

臨床家の常として、治った症例は忘れ、ダメになった症例を覚えているからかもしれない。

若い馬の肢にできることがほとんどだったが、摘出・切除しようとしても血管がとぐろを巻いていて、出血が多く、厄介なことが多い。

手を出す前に超音波でわかっていることが多い。

この文献にある超音波画像診断が役に立たない、というのは意外だが、確定診断ではない、という意味かもしれない。

血管肉腫は、馬と犬ではその発症の仕方や経過が異なるようだ。

犬で腹腔・胸腔臓器にできるタイプは、馬の肢にできる血管肉腫より致命的であることが多い。

犬なら、肢にできたのなら切除できるだろうし・・・・

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相棒が、血管肉腫と診断されたときに、PubMedで検索したのだった。

相棒が逝って半年たった。

病気の発見や、手術の判断や、抗腫瘍剤治療するかしないかの選択について、何も後悔はない。

自分が臨床獣医師でよかったとも思っている。

ただ、ただ、もう一度、相棒に会いたい、だけ。

          

 

 

 


重症の結腸捻転は結腸亜全摘しても・・・

2022-09-25 | 急性腹症

朝、出勤して、事務所でパソコンを立ち上げて・・・・・

手術室に物音がするので覗いたら、

ひどい結腸捻転の手術の最中だった。

これはダメだね。

「結腸切除する?」

やります、ということなので、手洗いして助手をする。

しかし、結腸を切断する部位でも、粘膜は完全壊死の状態だし、そもそも漿膜面からみても色が悪い。

しかし、この重症馬は重賞馬。

やるだけのことをやるしかない。

術前PCV59%。

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死なずに手術を終えられるか関門だったが、生きて手術を終えられた。

麻酔覚醒して立ち上がれるかも関門だった。

時間がかかったが、昼には立ちあがっった。

入院厩舎で輸液を続け、排尿もあり、いくらか食思を見せることもあり、

しかし、翌朝も心拍100以上で・・・・

翌日も輸液を続け、水も飲み・・・・

夜中に、死んだ連絡が来た。

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切除できない部分が完全に壊死。

粘膜が壊死すると、腸内の細菌も毒素もフリーパスで体内循環に流れ込む。

生きてはいられない。

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連休、この日だけ休みだったが、あいにくの雨。

コキアを観にいくために親子6人そろっていたが、中止。

JUNdivinoへランチしに行った。

おいしゅうございました。

 

 

 


また空腸上位腸間膜ヘルニア 結腸を空にして縫合する

2022-09-22 | 急性腹症

夜、疝痛で呼ばれる。

6歳繁殖牝馬が立っていられないほど痛い。

2週間に1回は疝痛を起こす常習馬。

開腹して、盲腸を出して、盲腸背側紐を辿って、回腸から吻側へと引っ張り出すが、すぐに素直には出てこなくなった。

その先がどこかへ入り込んでいるのを感じる。

少しずつ力をいれて引っ張り出すが、出てくる空腸は水腫を起こして厚くなっている。

内容を何度か盲腸へ推送しながら、空腸上部(近位部)まで引っ張り出したが、まだ最上位部であることを触知できない。

空腸の最上位部は回腸のように両側に腸間膜が付いている。

それは見えないのだが、手で感じることで確認できる。

そのうち、腸間膜に孔が開いているのがわかった。

また、空腸上位腸間膜ヘルニアだ。

             ー

とても大きな孔で、奥深い。

結腸を切開して空にし、腹腔内にスペースを造った。

女子学生が助手をしてくれていたのだが、彼女では腸間膜裂孔の全貌を術者に見せることはできない。

S先生、手洗いして参加。

それでも、孔が奥深くて見えない。

もう一人、助手に入ってもらって、腹腔内へ落ち込む小腸、小結腸を抑えてもらう。

腹腔内に溜まる腹水を吸引して、ようやっとヘルニア輪の最奥が見えた。

長柄の把針器で縫合する。

             ー

White先生は、「縫えないときは孔を大きくしておく」と言っておられた。

この馬は、孔が大きい状態だったわけだ。

頻回に小腸が入り込むが、絞扼されにくい。

しかし、それが良い状態ではないので、孔を大きくして良しとするのはどうかと思う。

Dr.Spiritoは、「開腹手術創を大きくして、助手が左右に思いっきり広げれば縫える」と言っていた。

彼らの成績は素晴らしいものだが、縫えなかった症例があることも報告されている。

我々は結腸を空にすることで、90%以上の症例で縫えることを証明した。

縫えなかったのは妊娠末期1~2ヶ月の症例だけ。

             ー

小腸の手術で、結腸を切開して空にしよう、となかなか思いつかない。

私たちがどうして思いついたか忘れたが、たぶん結腸もひどく膨満している症例で空腸上位腸間膜裂孔を縫えた症例があったのだ。

英語で学術報告にする価値があると思うが、私にはもう気力も時間もない;笑

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日帰りで出かけた帯広での1枚。

日高に暮らして残念なのは、エゾリスが居ないことだ。

雪が少なくて越冬に支障があるから?

カラマツの林が少ないから?

どうしてなんだろう?

 

                

 

 


結腸亜全摘surviverの空腸腸間膜ヘルニア

2022-09-15 | 急性腹症

7月にグルグルの結腸捻転で結腸亜全摘をした馬がまた疝痛。

腹腔が汚染する可能性がどうしてもある手術なので癒着か?と思った。

超音波でひどく浮腫んだ小腸が見えた。

何かに締められているのだろう。

飼い主さんもあきらめ気味だったが、可能性があるならやってみましょう、ということで。

大結腸はない。

当たり前。

でもちゃんとつながっていて、内容も通過している。

盲腸も結腸も膨満していない。

この馬は結局、空腸上位の腸間膜ヘルニアだった。

前回の結腸捻転のときも、腸間膜には孔が開いていたのだろうが、

とても触知したり、縫合できるような状態ではなかった。

この馬、腸間膜の孔を完全には閉鎖できなかった。

結腸切開して内容を捨てて、腹腔内にスペースを造ることで空腸上位の腸間膜裂孔を縫合できる、のだが、

もともと結腸がないと、厳しいのかもしれない。

そして腕力のある助手が二人要る。

小腸はかなり水腫性肥厚を起こしていたので、いつまでも術創から出していると生存性が怪しくなる。

縫い残した部分は成馬の小腸の径よりは小さいのでよしとした。

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オプタテシケ山。

一度しか登ったことはないが、

この山も思い出の山だ。

 

 

 

 

 


PCV33%の結腸捻転 そういうと牛の帝王切開もやったのだった

2022-09-14 | 急性腹症

午前中、黒毛和牛の帝王切開。

バングラデシュからの研修の先生と私でやる。

バングラデシュからの先生は5,6回しか帝王切開をやったことがなく、いずれも手遅れでひどいことになった、と言う。

今回も、子牛はもう死んでいて、予定日より13日も遅れている難産だったが、なんとか当たり前に終わった。

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夕方6時半、5歳の繁殖牝馬の疝痛の依頼。

昼から痛いが、ひどくはない。

しかし、フルニキシンでも治まらず、鎮静しても再発する、とのこと。

超音波検査で、右で結腸動脈が見える。

直腸検査では、膨満が著しい。

胃tubeを入れても逆流はない。 

             ー

実習生2人、研修の獣医さん2人を呼んで来院を待つ。

             ー

来院しても疝痛ははっきりしない。

枠場で検査できる。

PCV33%、しかし乳酸値は5.9mmol/l。

超音波検査で右で結腸動脈が見えるが、結腸壁は厚くない。

これなら朝まで様子を見れるか・・・・・

と思いながら直腸検査したら、盲腸・結腸のひどい膨満。

「手術しましょう。

昼からの疝痛だし、こんなにガスが抜けないのはヘ結腸の変位を疑います」

             ー

開腹したら盲腸が飛び出すほどの気脹。補液管を刺して減圧する。

結腸も膨満している。補液管を刺して減圧するが、引っ張りだしにくい。

なんとか引っ張り出した結腸は動脈周囲に黄色くむくみがあるが、結腸壁は厚くない。

骨盤曲を切開したが、粘膜はベージュ色で正常。

しかし、程度は軽かったとは言え結腸捻転なのだろう。

再発防止のためにcolopexyした。

            ーー

術後は輸液はしなかった。

翌朝、さすがにまだ元気がない。

PCV40%。

それでも口元に青草を持っていくとモソモソ食べる。

徐々に回復するだろう。

            -

この日、なんだか疲れを感じた。

寝不足でもないし、昨夜の手術は1時間ほどで終わったのに・・・・・

そういうと、午前中に牛の帝王切開をやったのだった。

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生産地の馬医者を引退したら、全国の桜を観て回りたい。

南から桜前線を追って北上するのも好いね。