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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

口蓋裂(軟口蓋+硬口蓋) 馬面じゃなかったら・・・

2024-05-10 | 新生児学・小児科

新生子馬が乳を飲むと、鼻から乳が出る、というときは軟口蓋裂を疑う必要がある。

内視鏡検査で確定診断することになる。

気を付けなければいけないのは、鼻から乳が出るからといって必ず軟口蓋裂だとは限らない。

形態には以上がなくて、喉の機能が未熟なだけだったり、親の乳の出方が多すぎたりすることがある。

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この子馬は生後数日で鼻から乳が出ることに気付いたそうだ。

内視鏡検査で「軟口蓋裂ですね」としてあきらめることになったが、軟口蓋裂だけではなく硬口蓋も形成不全だった。

これは珍しい。

新生子馬の軟口蓋裂は、5000頭に1~2頭の発症率ではないかと推測している。

人だと口唇裂が多いからだろう、口唇裂・口蓋裂の発症はもっと多いようだ。

手術方法もさまざまな方法が検討・実践されていて、とてもうまく治せる。

ヒトは、大きく開口させると軟口蓋まで手術できるから・・ね。

馬が馬面じゃなかったら、治してやれるかも知れないのに。

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もし内視鏡がない地域なら、子馬を強く鎮静するか麻酔して、大きく開口させると軟口蓋まで見ることはできる。

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コルリ・・かな。

窓にぶつかったらしい。

カラスに追われるのかも。

穴を掘って埋めた。

 

 

 


新生子馬の肋骨骨折の内固定

2024-04-12 | 新生児学・小児科

3日齢の子馬が肋骨骨折と胸腔内出血があるとのことで来院。

早期胎盤剥離だったので、急いで引っ張り出した、とのこと。

それ自体は仕方がないことだ。

子馬は貧血もしているので、輸血をしてから肋骨の整復と固定手術をすることにした。

私は15年前に1頭経験がある。その時は結束帯で固定した。

新生子馬を診たら、肋骨が折れていないか左右で1本1本よく触ってみなさい、

ということになっている。

肋骨骨折がある子馬にはときどき遭遇するが、手術しましょう、となることは少なかった。

手術しなくてもそれなりに治っていくし、

子馬の状態がよろしくないと、全身麻酔で手術するにはリスクがあるからだ。

X線画像では診断しにくい。

超音波画像と触診の方がわかりやすいかも。

この子馬は周囲の腫れがひどい。

肋骨が4本折れて、腹側の骨折端が内側へ落ち込み、over ride していた。

今回は、肋骨の骨折端それぞれに2つずつ孔を開けて、2 の吸収糸を通して結紮で固定した。

ワイヤーで縛ろうとすると肋骨が割れてしまいがち、

プレートとスクリューだと抜かなければならないかもしれず、化膿したらやっかいだ。

結束帯より丈夫な縫合糸の方が遊びなく結紮できる、かも。

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これは別な日、多発性細菌性関節炎と骨髄炎であきらめた2週間早く生まれてしまった新生子馬。

肋骨骨折もあった。

もう3週齢を超えていて、肋骨骨折も固まっているので触診ではわからない。

この子馬も4本折れていたようだ。そして、1本は変位がひどかった。

しかし、肺には傷ついた痕はないし、胸腔内出血の痕もなかった。

手術した子馬より肋骨骨折自体は軽症だったのだろう。

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ことしも庭に現れた福寿草。

植えたものじゃない。

増やしたいけど、いじればかえって消えてしまうかも・・・・

手を出すか、温存でいくか、その判断が難しい。

 


臍静脈の血流は肝臓にひろがっているか?

2023-08-11 | 新生児学・小児科

先日は、北海道NOSAIのみなみ統括室管内の内部発表会だった。

1例報告が多かったが、若い獣医さんが日ごろの症例をまとめていて、勉強になった。

その中で、子牛の感染症の報告が多かったのだが、臍から感染し、肝臓に感染が及んでいる場合に・・・というのも課題であった。

私たちも経験があるが、臍静脈から感染すると、肝臓にポツポツと膿瘍がいくつもできていたりする。

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臍静脈の血流は、肝臓でまた毛細血管に入って拡散されるのだったか・・・・

まっすぐ後大静脈に入って心臓へ戻るのではなくて・・・

だとしたら、臍静脈の血流、あるいは血管として内腔が残っている出生間もない時期に臍から細菌、たいていは

Trueperella pyogenes が侵入した証拠になるだろう。

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臍静脈は、胎仔にしかなく、子牛、子馬にしか残っていない構造なので、解剖学の教科書には載っていない。

馬のNeonetology 新生仔学の教科書を開くと、最初の章に図がある。

よく見る図なのだが、しげしげと臍静脈と肝臓の血流について理解しながら見たことはなかった。

左が胎仔。

左下の胎盤でガス交換し、栄養をもらった血液は、臍静脈から入り、肝臓で末梢に分かれ、それから心臓へ戻る。

右が出生後。

消化管で栄養を吸収した血液は、肝臓へ入って分散し、栄養を肝細胞へわたして心臓へ戻る。

この2つの毛細血管網を結ぶ特殊な血管は(肝)門脈と呼ばれている。

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なるほど、臍静脈は胎盤と肝臓を結んでいる点では門脈でもあるわけだ。

臍静脈へ細菌が侵入すると、肝臓に広がってしまうことがあるのはそのためだ。

・・・・・Trueperella pyogenes 感染が出ている農場では、出生後の子牛の臍を消毒しましょう。

あるいは、分娩房が汚染されているのかもしれない。清掃・消毒しましょう。

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暑い。

不快指数高い。

すっかりエアコンがないと仕事できない体になってしまった;笑

夜も寝苦しい。

地球温暖化は終わって沸騰し始めている、という指摘もあるらしい。

 


新生子馬の不眠症 insomnia

2022-05-11 | 新生児学・小児科

生まれて翌日の子馬が新生仔不適応症候群 Neonatal Malajustment Syndrome で入院していた。

一時、ちゃんと親から飲乳していたのが、母馬のところへ行かなくなってしまった、とのこと。

新生仔不適応症候群には、

寝たきり Dummy foal

馬とは思えないような声で吠える Barker

歩き回る Wanderer

(wonderer だと、好奇心が強い人、になって意味がちがってしまう)

のタイプがある。

起きるとなかなか自分で寝ない、という症状もあったりするが、

今回の子馬はまったく寝ようとせず、無理に倒して寝かせてもすぐに起きてしまう。

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いつまでも起きていると消耗するし、四肢に良くない。

2日目を担当した私は、精神安定剤を投与してみた。

2回やってみたが、2回ともすぐに起きてしまった。

夜になって、睡眠誘導剤を投与してみた。

すると1時間半ほど寝ていたが、起きるとやはり寝ようとしない。

しかし、プロペシアの効果か少し顔つきや目つきは良くなった気がしていた。

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しかし、母馬の乳が搾乳しても出なくなったのも問題だった。

子馬が飲まないせいで、乳が「上がってしまう」。

オキシトシンを投与して乳を搾ったらいくらかは出た。

しかし、あと1日で乳はあがってしまいそうだった。

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他の診療所に連絡して、スルピリドを借りてきた。

乳量が少ない母馬に効果があるのだそうだ

この情報はとても助かった。

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3日目の夕方、子馬の表情はいちばん良かった。

目つきも正常に感じる。

鼻に留置したチューブを外そうかと考えたが、それでは入院したときのように脱水してしまいそうだった。

しかし、夜になって鼻にチューブをつけたまま母馬の乳房から飲乳できるようになった。

相変わらず自分では寝ようとしなかったが、寝かせてやるといくらか寝るようになった。

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翌日、母子は退院していった。

新生子馬の不眠症。

こんなに寝ない赤ちゃん馬ははじめてだった。

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花もいいが、新緑もすばらしい。

いい季節になった。

 

 

 

 

 

 

 


子馬の細菌性心嚢炎 剖検

2022-05-01 | 新生児学・小児科

剖検写真が出てきます。

見たくない方は閲覧ご遠慮ください。

心臓を包む心嚢全体が大きくなっていた。

肺は大理石模様。

心嚢の中はまだたっぷり液が残っていた。

前日に、抜けるだけは抜いたつもりだったのだが、フィブリンが邪魔をするのだろう。

心臓の表面(心膜)はフィブリンで覆われていた。

この子馬は敗血症なのだろうが、原発感染巣がどこなのかわからなかった。

臍周辺に感染の所見はなかった。

肺炎はあるが、肺膿瘍はなかった。

肺には充血・鬱血があったが、心機能の低下の影響もあっただろうと思う。

腸管の色はまだらで、腸間膜リンパ節は水腫性に大きくなっていた。

肺も、腸も、致命的だとは断定できないので、起きたのが心嚢炎でなければ治せたかもしれないのに、と思う。

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心嚢液の培養では有意と断定できる細菌は分離されなかった。

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長期研修に来ているU先生が数えていたら、17日間で14回、夜に呼ばれたそうだ。

そのあともあったから19日間で16回かな。

しかし、例年よりはおだやかな4月だった;笑

庭のスイセンが満開。

これも私が植えたものじゃない;笑

花が終わると雑草と一緒に草刈りしてしまったりするんだけど、翌年も咲いてくれる。

でも、馬にも人にも毒があるらしいよ。