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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

当歳馬の橈尺骨骨折はS-H3型損傷を含んでいた

2024-11-29 | 整形外科

出勤したら、午前中は当歳馬の尺骨骨折のプレート固定をやるとのこと。

来院したら、その当歳馬はまともに歩けない。

人に押されて、やっと横へ横へ動く。

尺骨骨折にしてはおかしい。痛みが強すぎる。

fragments がある尺骨骨折だが、肘関節へ到る部位ではない・・・

橈骨近位成長板も損傷したのだ。

この部位は Salter-Harris 損傷の1型か2型であることが多い。

この症例では、骨端部(成長板より関節側)が関節腔へと割れてしまっている。

だから・・・・3型だ。

割れて開いているのは外側。内側成長板は潰れているか・・・

だから外側にプレートを当てて、成長板がそれ以上開かないようにするとともに、割れた部分を押しつけて関節面に段差ができないように固定したい。

そして尺骨骨折も固定するが、それは尺骨を骨癒合させるだけでなく、尺骨頭部を橈骨と尺骨遠位部に固定することで、橈骨骨折を固定するようにしたい。

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DCPのcontour はたいせつ。

橈骨の近位骨端部に入れるscrewの位置と角度はとてもたいせつ。

そしてlag screw として入れる。

これだけでも大手術なのだが、尺骨もプレート固定しなければならない。

尾側からアプローチする。

月齢から判断して、尺骨遠位部を橈骨へしっかり固定してもかまわないはず。

しかし、橈骨頭側皮質まで貫通させる必要はないだろう。

これで橈尺骨骨折を、互いに垂直の位置になるダブルプレートで固定したことになる。

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手術後、この当歳馬の歩様はかなり良くなった。

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カシワの落ち葉が溜まっている。

六花亭の店舗の大きなドア一面にカシワの落ち葉のレリーフが彫刻してある。

 


unicortical fracture of MC3 第三中手骨外顆単一皮質骨折

2024-11-06 | 整形外科

現役競走馬3歳。

トレセンで跛行し、MRIで第三中手骨外顆の単一皮質骨折 unicortical fracture が見つかった。

休養のために戻って来て跛行もなくなった。

骨折線はX線撮影で見えるようになった。

ただし、球節をわずかに屈曲させた射ち上げ撮影で

screw固定した方が、今後の競走馬としての予後のために良いだろう、ということになった。

           ー

外顆の掌側皮質だけが亀裂骨折している。

狙って狙って掌側よりに4.5mm皮質骨screwをlag screwとして入れた。

500kgを超える牡の大型馬。

側副靱帯を分けるようにしておいてカウンターシンクしてある。

screw長は56mmを選んだ。

増し締めしようとしたが、もう締まらなかった。

わずかに見えていた骨折線が、ほとんど見えなくなった。

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中手骨、中足骨の顆骨折の7%は、unicortical fracture だと報告されている。

日本ではそんな率では見つけられていない。

今後、発見率が向上していくか?

私は、馬の骨折にscrewを入れて治すなんてこれが最後かな。

あとは後輩たちに託したいと思う。

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40年。長かった。

想い出がいっぱい。

それもボケて忘れていくだろうけど、それもまた良し。

 

 

 


尺骨骨折のminimally invasive plate removal

2024-07-21 | 整形外科

尺骨骨折をプレート固定した当歳馬が順調に治ったようなのでプレートを抜く。

発症と手術から7週間後。

プレート固定手術後、1週間前後は痛みと橈骨神経麻痺様の跛行があった。

骨折線はプレート固定でほとんど見えなくなっていたが、3週間後のX線画像ではまた見えるようになっていた。

骨折部には吸収が起きた後、骨形成される。自然な治癒経過だ。

尺骨頭部はともかく、遠位へいくほど筋肉の下になる。

それでも、大きく切開せずminimally invasively にプレート抜去したい。

穿刺切開でプレートスクリューを抜いていく。

スクリュードライバーが金属に当たる感触、スクリュードライバーがスクリューヘッドにハマる感触。

必要なときにはゲルピー開創器で傷を広げてスクリューヘッドを見る。

スクリューが刺さっている方向の記憶と勘もだいじ。

抜けました。

固定部が脱灰していることに注意。

曲っていた一番近位のスクリューが折れないか心配したが、大丈夫だった。

頭-尾方向も問題なし。

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いまだにこの自在鉤の仕組みが理解できない。

生活の中の物理学。

お魚は重くなきゃだめなのか?

何キロの鍋まで耐えられる?

整形外科医に必要な能力なんだけど;笑

 

 

 


unicortical condylar fracture on the MC3 単一皮質顆骨折

2024-06-15 | 整形外科

単一皮質顆骨折

中手骨、中足骨の顆は縦に割れるが、掌側だけ、あるいは底側だけに亀裂が入ることがある。

この2歳牝馬は、跛行と球節の腫脹を示し、休養と再発を繰り返した。

発症から3週間あまり経って、Xrayで第三中手骨掌側に骨折線が判明した。

球節を屈曲させての「射ち上げ」撮影でしか写らない。

顆骨折の7%はこのunicortical fracture だとされているが、日本ではそんなに見つかっていない。

見逃している可能性がある。

球節不調の調教馬では、掌側・底側皮質のX線撮影をルーティンに加えることと、

数週間経っての再撮影を行うことだ。

          ー

狙って、掌側寄り、遠位寄り、に4.5mm cortical screw をlag fashion で入れた。

掌寄りに入れたので、screw head は側副靱帯の中心部からはずれている。

counter sink してある。

大きくない2歳牝馬だが、54mmを選んだ。

screw先は対側の側副靱帯に届いていない。

思いっきり締めても、screwより遠位の骨折線は消えない。

亀裂が入ってから1ヶ月。

出血が吸収され、線維芽細胞が遊走し、破骨細胞が活動し、骨折部で吸収と再構築が行われているはず。

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術後は麻酔覚醒のためにhalf limb cast を巻いた。

翌日には外してもらって構わない。

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この辺りのクマ騒動はまだ終わってない。

6/13にもクマが見かけられたらしい。

6/14は午前中「〇〇牧場内でクマが見られた」と広報車とパトカーでアナウンス。

午後は、「住宅地でクマが見られたので、不要の外出は避けて下さい」とお知らせ。

山に帰れず、さまよっているのだろう。

食べる物もそうそうあるまい。

無事に山へ帰ってくれると良いのだが。

 

 

 

 


子馬の尺骨骨折 発症当日にDCP固定

2024-06-03 | 整形外科

夜間放牧明けの子馬が左前肢のひどい跛行で、どこが痛いかわからないので診て欲しい、との連絡。

午前中の手術が終わった隙間時間に診たら、肘の下が腫れて、触ると痛い。

X線撮影したら、骨折線は開いている。

跛行もひどいので、「手術した方が良いです」

午後の手術予定を2件延期してもらって、器具の滅菌が終わったら手術することにする。

尺骨骨折を発症当日に手術するのは珍しい・・・

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上のX画像で2本の骨折線が見えているが、これは外側皮質と内側皮質の骨折線がそれぞれ見えているから。

きれいに真横に折れているのではないことは、内固定手術をする上でも注意が必要。

私は尺骨骨折プレート固定手術も仰臥位でやるのを好む。

これは教科書には反している。

尺骨頭側は成長板がプレート近位端を置く場所になる。

骨折線より近位にスクリュー2本しか効かせられる長さがないことは、この骨折の問題。

だから最近位のスクリューは成長板ギリギリにキメた。

6.5mmを使おうかと考えていたが、高いネジ山が成長板を傷つけそうなので4.5mm皮質骨スクリューにした。

compression が働くように遠位から2番目のスクリュー孔にドリリング。

ところがcompression を働かせると、尺骨が「へ」字に曲るのを指で感じる。

それで、

先に近位側2番目のスクリューを入れて、

遠位側から4番目のスクリューをニュートラルポジション(compression をかけない)で入れてから、

最近位のスクリューと遠位から2番目のスクリューを締めた。

それぞれ1mm DCPを押すので、2mm骨折線を圧迫したことになる。

遠位側の骨折線は見えなくなった。

残りのスクリューを入れてプレート固定は完成。

7ヶ月未満の子馬では、橈骨と尺骨の別々の成長を妨げないように、スクリューは橈骨には届かさない方が良い。

近位側から3番目のスクリューを最後に入れた。

わざと斜めに入れてある。骨折面を貫いていたら固定の強度を増してくれる。lag screwにはしなかった。

間違っても肘関節へ出ていないことは十分な注意が必要。

尺骨骨折をプレート固定したら、手術の終わりに肘関節を動かしてみて、違和感がないことを確認した方が良い。

スクリューが尺骨の内外へはみ出していないことを確認するための頭-尾方向撮影も大事。

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LCP/LHSを使う方法もある。

その方が強度を作り出せる

固定強度が必要な成馬ならLCPを選択すべきかもしれない。

しかし、LHSはLCPに垂直にしか入らないので、本症例を含めて子馬の尺骨骨折では、

DCP固定の方がスクリューを入れる方向に自由度があり、スクリューが尺骨からはみ出す失敗もしにくい

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compression もかかって骨折線も圧迫固定できたし、発症当日に手術できたので、骨癒合は早いはず。

お母さん馬はとても気性が激しい(たぶん子馬を蹴った)ので馬房へ閉じ込めるとイラつくだろう。

6週間ほどでプレート・スクリューは抜きたい。

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朝の散歩コースにクマが出たらしい。

温泉の駐車場で見かけられた、のだとか。

看板が立てられ、林の際に柵が置かれ、

発電機が焚かれ、照明具が設置されていた。

ヒグマの姿が見かけられたと言っても、人や牛を襲ったとか、ゴミをあさってしまったとかではない。

温泉の朝風呂もいつもどおり営業している。

このくらいが正しい対応なのだろう。

私もいつもどおり散歩。

ポケットにクマ除けスプレーを持っていったけど;笑