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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

子牛の中手骨近位骨幹端粉砕骨折

2017-09-29 | 牛、ウシ、丑

豆作先生のリクエストにお応えして、子牛の中手骨骨折キャスト固定のX線画像をお見せしておこう。

その牛は、完璧な応急処置をして連れて来られた。

綿包帯が巻かれ、添え木が当てられ、さらにその上を巻いて固定されている。

添え木は蹄尖より先に出ており、肢にはほとんど荷重がかからない。

肢を引張りながらグラスファイバーキャストを巻いた。

中手骨近位骨幹端の横骨折だが、粉砕している。

肢を引張って巻いたのだが、腕節は屈曲しようとするし、近位骨幹端の骨折なので腕節を伸ばすのが難しい。

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2週間後、現場の先生が往診先でキャスト交換した。その前のX線撮影像。

骨癒合が起こり始めているが、まだまだだ。

キャストは肢に沿っている。腕節と球節で浮いて見えるのはその部分にはエバウールシートを巻いているせいだ。

中手骨遠位の骨端板(成長板)が広がって見える。負重しないせいか、あるいは・・・・

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キャスト交換から約1ヶ月。骨折から1.5ヶ月。キャストは往診先ではずされた。

十分に骨癒合している。

中手骨近位部が粉砕していたので、遠位部が近位部に陥入したような癒合の仕方になった。

少し短くなったか?

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その後、骨折肢の遠位部が腫れる、ということでまたX線撮影された。

はっきりした異常はない。

しかし、中手骨遠位骨端板のようすはヘンだ。

それと肢の腫れの因果関係はわからない。

1.5ヶ月キャストで巻かれて、動かせず、負重もしていなかったのだ。

腫れても不思議ではない。

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キャスト固定で治せる骨折を、プレート固定する必要はない。

キャスト固定で治せるかどうか、その見極めもたいせつだ。

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25年前、USAへ研修に出してもらった。

馬の外科のレジデントに、「日本にもアルパカが居るか?」と訊かれて、

「日本には居ないし、診たことはない」と答えたら、

「おまえは幸せだ」と言われた。

牛や羊より、ラクダに近いのか?

とくに骨折すると治りにくいとも思えないけど・・・・

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シカの骨折は難しいらしい。

シカは跳ねるからね~

ヤギも高い台に飛び乗ったりできる。羊より山間部の岩山で生きていける反芻獣なのだろう。

だから”山”羊。

その分、骨折は治り難いかも。

いや、長野でヤギのキャスト固定の質問が出たんですよ・・・・

 


信州行 牛の骨折内固定講習

2017-09-29 | 講習会

長野県へ牛の骨折プレート固定の講習に行って来た。

26日千歳から松本空港へ。

FDAって?知らなかったがフジドリームエアラインだそうだ。

この日の宿泊はNOSAI長野の本部がある長野市。

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翌朝は、白むのを待って善光寺参り。

東日本で一番大きなお寺だそうだ。

まったくの暗闇を進む”お戒壇めぐり”はすごかったぞ。

長野市は長野県のかなり北寄りにある。

それで、講習会の会場は、県のあちこちからのアクセスが良い安曇野で開かれるのだそうだ。

この日は、まず県の研究発表会。

6題の発表があり、どれも興味深い内容だった。

そして、講習。

この日は講義だけ。

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翌日は雨。

山が見えることを楽しみにしていたが、結局信州から日本アルプスを観ることはかなわなかった。

この日は、骨折のプレート固定の症例を紹介して、

解剖体で脛骨骨折のプレート固定のデモを見ていただいた。

プレートスクリューを入れるのは数名の方には体験していただいた。

しっかりプレート固定できれば術後はキャストをする必要もない。

成長板をまたぐ固定をしていなければ、プレートを除去する必要もない。

子牛は成長が遅れることもなく、肢が曲がることもなく、二次的な事故や病気のリスクも少ない。

そのことを実感していただけたと思う。

私にとってもたいへん勉強になった出張だった。

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松本駅に送ってもらって、

”あずさ”16号で・・・・新宿へ、そして神田へ、で浜松町へ、羽田から帰ってきた。

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北海道は冷え込んでいて驚いた。

今日は、

咳をする繁殖雌馬の検査。

2歳競走馬の腕節骨折の関節鏡手術。

1歳馬の食道梗塞?と疝痛?の急患。

 


結腸右背側変位

2017-09-23 | 急性腹症

昼1時から疝痛だった馬が、夕方になってひどくなり、来院するとの連絡。

6時半に到着。

倒着。馬運車の中で横臥し、苦悶していた。

なんとか起こして診察室へ入れて、鎮静剤を投与したら、立っていられるようなので、超音波検査。

右腹部で肥厚した結腸壁が見えたので、開腹を決断。

PCV44%、乳酸値は6を超えている。

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開腹したら、結腸の水腫性の肥厚がひどい。

しかし、膨満の程度はひどくない。

骨盤曲は頭側へ行っている。

右背側変位のようだが、成書に載っているどちらの図とも違っていた。

術創を切り広げ、結腸を引っ張り出した。

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いつものように骨盤曲を切開し、内容を棄てる。

あとは結腸をおなかの中へ戻し、盲腸との位置関係を正しくして確かめる。

私が考案した方法で胸骨近くへcolopexyした。

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麻酔を切ったのが、8:55

15歳なので吊起帯を着けた。

私は入院厩舎へ輸液を準備しに行った。

覚醒室へ戻ったのが9:40

起きようとしない馬を刺激して立たせたのが10時過ぎ。

馬がしっかりするのを待って、入院厩舎へよろよろ歩いて、すべて終わったのが10:30

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麻酔の研修に来ていた3名の獣医さんはそれから山を越えて帰って行った。

今朝、入院馬は順調。

この夏、最後の実習生2人はバスで帰って行った。

夕方、大学から研修に来ていた獣医さんも帰って行った。

秋だな。

                    


消化管破裂の確定診断には腹腔穿刺

2017-09-22 | 急性腹症

朝、外傷で腸管破裂したらしい、との1歳馬が来院。

右腹部にひどい外傷があり、腹腔内が見え、腸内容が漏れている。

そして、全身状態も悪い。

これでは助ける方法はない。

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午前中、1歳馬の脛骨外果骨折の摘出手術。

てこずる。

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午後、2歳競走馬の去勢。

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死体肢で研修の先生たちが関節穿刺の練習。

他所のNOSAIの先生が3名、大学の先生が1名、学生が2名、千”客”万来状態なのだ。

わたしもしげしげと馬の解剖を勉強しなおしたり、人が関節穿刺をするのを観ることはなかなかない。

教えることで、一番学ぶのは、教えている者だ。

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そこへ朝から具合が悪かった当歳馬の来院。

心拍140、チアノーゼと脱水、白血球5000/μl。

超音波で腹水増量確認。

あとは消化管破裂による腹膜炎を確定診断するためには腹水の採取と検査だ。

これも研修の先生にやってもらう。

これは腹水をEDTA管に受けているところ。

針を刺すときは、もっと顔は逃げておいたほうがいい。

腹水の白血球増加、複数腫の細菌、白血球の細菌貪食像、腹水の蛋白増加を確認して、予後不良の最終判断をした。

剖検では、空腸の穿孔が見つかった。

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来週は長野へ出張だ。

散歩できないのは1日だな。

イイ子で留守番してるんだゾ

 

 


当歳馬の頬の嚢胞状腫瘤の摘出

2017-09-21 | その他外科

「当歳馬の頬に腫瘤ができて、

最初切開したら”膿”が出て、しばらくするとまた腫れてきて、今度は穿刺したら”漿液”が抜けて、凹んだがまた腫れてきた。」

とのことで、来院した。

超音波で観ると、内腔があり、内部はわずかにエコージェニックな微細な粒状物を含んだ液で満たされていた。

押しても口からも何もでない。凹まない。

つまりどことも連絡していない。

唾液腺やその導管によるものかと考えていたのだが、この状態だと丸ごと摘出するしかないし、丸ごと摘出して良いだろう、と判断した。

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手術台で横臥にし、吸入麻酔で維持してもらう。

ちょうど麻酔の研修にほかのNOSAIから獣医さんが3名来ている。

腫脹部を曲切開し、腫瘤を破らないように周りの組織をはがしていく。

頬の静脈叢は一部切らざるを得なかったが、結紮止血した。

破らないで摘出できた。

それは吸入麻酔をかけて、無影灯の下で落ち着いて手術できるからだ。

静脈麻酔で、暗いところで、急いで手術していたらこうはいかない。

何か分泌する組織が閉じ込められているのだろう。

最初はアテローム(粥腫)だったのかもしれない。

病理組織検査に出す。

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これが脳の中にあったらもっともっと難しいし危ないだろうな。

脳外科医マーシュの告白
栗木 さつき
NHK出版

多くの患者さんが、脳腫瘍に苦しみ、脳外科手術に救いを求め、ときには完治し、ときには命を落とし、ときには小康を得るが再発する。

マーシュ先生はロボットのように手術を重ねるのではなく、患者さんのことを考え苦悩しながら脳外科医としてのキャリアを積んで来たようだ。

「つらい仕事だよ、脳外科医は。ならないほうがいい」

レジストラー(専門医研修生)に言った言葉は本気だったのかどうか・・・・・

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日が短くなった。

日暮れ前に散歩したり遊べる季節はもう終わりだな。