馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

那須研修2010冬 3日目

2010-01-31 | How to 馬医者修行

P12501283日目は乗馬の跛行診断。慢性化し、軽症化していて、複数肢の複数の問題を抱えていて診断は難しい。

並行して鼠径部陰睾の去勢。

鼠径輪が大きいので縫い縮めてもらった。

去勢は良く行われる手技だが、去勢後の腸管脱出は致命的な併発症だ。

去勢をする獣医師は、鼠径輪の縫縮法を知っておいた方が良いだろう。

                         -

午後は実習馬での開腹手術。

腹腔内探査、結腸切開、回腸切除、回腸盲腸吻合をやってもらった。

実習馬には痛い思いをさせるが、おかげでいつか助けてもらえる馬が増えるなら許してもらえると思っている。

「1頭でも多くの馬を助けられるようになりたい」と自己紹介されていた参加者の皆さんの言葉と熱意がこの研修のすべてだろうと思う。

                         -

P1260132夜は、第三中手骨・第一指骨粉砕骨折して安楽死された馬の肢でのDCPを用いた内固定手術の練習。

前肢だが、Barbaroの骨折と同じタイプの骨折だ。

Barbaroの手術のx線写真や手術の様子は、昨年の夏の研修の英語セミナーでも見せてもらった。

実際に真似事をしてみるとDr.Richardsonの苦労と、技術のP1260133すごさがわかる。

11時半までやって中断ということにした。

          -

整形外科的注釈をしておくなら・・・

第一指骨が粉砕骨折していて、球節から近位指骨間関節までつながっている骨片がないので、第一指骨で体重を受けさせることはできない。

だから、中手骨にシャフトを入れてウォーキングキャストを付けることで、免重させるか、あるいは、プレートを中手骨から第二指骨まで伸ばして、球節も、近位指骨間関節も関節固定するしかない。

その後者をやってみたわけだ。

第二指骨には少なくともプレートの孔2つからスクリューを入れたい。プレートは良い位置に当てられている。

プレートの左右からも第一指骨から第二指骨へできれば5.5mmスクリューを入れたい。

もちろん、関節面の軟骨はできるだけ削って第一・二指骨が骨癒合しやすいようにしておく。

球節も同様に、第三中手骨から圧迫スクリューを種子骨まで入れ、さらに第三中手骨から第一指骨にもスクリューを入れて、関節を不動化する。

粉砕した第一指骨はできるだけ再建したいところだが・・・


那須研修2010冬 2日目

2010-01-28 | How to 馬医者修行

2日目は午前中、喉頭片麻痺の馬のTieback&Ventriculocordectomy。

声嚢声帯切除は、左側をLaser、右側を電気メスで行った。P9110829

(右写真は別症例のレーザーによる声帯切除)

それぞれ扱い方や、出力の設定にコツがいるのだろうけど、

出血や焼け焦げが少なく、電極板が要らないのがlaserのメリット。

切開力が強く、止血にも使えるのが電気メスのメリット。といったところか。

いつも気管チューブを抜いてから声嚢声帯切除しているのだが、

「気管挿管したままでもできるんじゃないの?」と指摘され、やってみたらできた。

これなら自発呼吸が出る前に手早く終わらせようとする必要はない。

(ただし酸素で発火しないよう十分注意する必要があります。酸素でベンチレーションしながら電気メスやレーザーを使う手技を行って良いかどうかは検討の余地があります。吸入麻酔中の軟口蓋焼烙も同じ。)

勉強になった。

                        -

午後は、DDSPの Tieforward手術。

舌骨に開けた孔に糸を通して、甲状軟骨を舌骨へ引っ張るのだが、舌骨に糸を通すのがけっこう面倒だ。

細い針金を舌骨の孔に通して、裁縫道具の糸通しのやり方で糸を通せば良いのではないかと、良さそうな形状記憶の針金まで持ってきて下さった。

(T田先生、有難うございます!)

なかなか良いやり方のようだ。

                        -

レーザーによる軟口蓋の焼烙も併せてやってもらった。P4070490

(右写真は別症例)

レーザーの照射で焼烙していくと軟口蓋が収縮していくのが見える。

軟口蓋が縮み、瘢痕組織で硬くなり、陰圧でも盛り上がらなくなればDDSPを起しにくくなるだろう。

                        -

夜は、腸管縫合と眼球手術の練習。

腸管縫合は手っ取り早くできないと予後に関わってくる。練習あるのみ!

                       ---

P1280144 今日は、1歳馬の脛骨外果骨折の骨片摘出。

使い慣れた手術室で、何度もx線撮影してもらいながら手術する。

必要な道具はすぐ出してもらえる。

そのありがたみを感じた。


那須研修2010冬 初日

2010-01-27 | How to 馬医者修行

P1230119 朝4時半に家を出て・・・千歳周辺はマイナス10度。

それでも、道が乾いていたので助かった。

          -

P1230122_2 羽田上空からは富士山が良く見えた。

富士山が沖縄や北海道にあったり、他の山に邪魔されて東京から見えないのだったら、これほど日本のシンボルとして扱われなかっただろう。

                     -

P1230123_2 始発の飛行機で羽田について、モノレール、山手線、そして東北新幹線と遅れずに乗り継げば、昼前には那須塩原へ着ける。

   -

   -

   -

P1240125 P1240126 これが何で、

どうやって取り出したかは

研修に参加した方が知っているということにしておこう。

      -

夜は喉の手術のデモというか・・・雑談というか・・・

で、今年は初日からやってしまいました。

3時?いえいえ、2時40分にはお開きにしたと思います(笑)。

大勢の人に会い、慣れない所で手術をしたり、1日話し続けることは、私にとっては興奮を必要とする。

メラトニンくらいでは、早く眠れそうにないのです(←言い訳;笑)


ダブルヘッダー double header

2010-01-22 | 呼吸器外科

今日は、喉頭片麻痺P4150274

(右;運動中の左披裂軟骨・声帯の虚脱)の

Tieback&Ventriculocordectomy (喉頭形成・声嚢声帯切除) を2頭。

この手術も那須の研修でやる予定。

                        -

double-header ; two games that are played on the same day

                                                                 ---

数日、ブログ更新はお休みです。


分娩後の母子の検査

2010-01-21 | 新生児学・小児科

馬の獣医さん達のメーリングリストで、分娩後の母馬と仔馬の検査を頼まれたら、どんな項目を調べるかというのが話題になっていたことがあった。

そろそろ、繁殖シーズンへ向かうので、ある先生の意見を紹介しておく。

母馬

陰唇の腫脹、裂傷、出血・内出血を観る。

胎盤を、全部出ているか、厚さ・重さ、胎盤炎を調べる。

初乳が満足のいくものかどうか乳房を調べる。

心拍数粘膜の色元気食欲蠕動の有無排便をチェックする。

過量の血餅(ディナー皿の大きさ)が出ていたら、膣と子宮頚管を触診する。希釈したポピドンイオジンで子宮洗浄したり、トリメトプリムサルファで治療を始めることもある。

胎盤の一部が欠けていたら子宮洗浄、オキシトシン投与、トリメトプリムサルファと非ステロイド抗炎症剤で治療する。

心拍数が高く、粘膜が蒼白く、疝痛があったら、子宮広間膜出血を調べるために直腸検査する。

仔馬

先天性の白内障、眼瞼内反、角膜潰瘍、その他眼科検査

心臓と肺の聴診。

骨折がないか肋骨の触診

膀胱臍管が開残していないか、皮下出血がないか、ヘルニアがないか、臍の視診と触診

触れるなら、精巣とヘルニアを鼠径部を触診して調べる。

心拍・呼吸・体温

黄疸や点状出血がないか粘膜の評価

胎便が完全に出たか、哺乳は順調か、処置の必要がある筋骨格系の異常はないか調べる。

ヴィタミンEとセレニウムを筋肉内投与する。

血液検査とIgG

検査で必要と思われたら適切に処置する。

                           -

私たちはもう15年以上前に新生仔馬を獣医師がチェックし、採血して血液検査とIgGレベルを検査するベビーチェック事業を始めた。

移行抗体だけでなく、獣医師の目で新生仔馬と、できれば母馬の異常もチェックすることにも、ベビーチェック事業の意義があると考えている。

生産地の馬の死亡・廃用事故のかなりの部分を、新生仔馬の損耗と、分娩事故(分娩後に発症するものも含めて)が占めている。

新生仔馬と分娩後の母馬のチェックを頼まれたら、これこれこういう項目をチェックする。という項目を、生産地の獣医師には持っていてもらいたいものだ。

                          ---

今日は8ヶ月の黒毛和牛の中手骨遠位成長板損傷 S-HⅠ型、キャスト固定した。

Tieback手術後の再検査。

夕方から1歳馬の開腹手術。