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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

気分上々

2021-10-30 | 図書室

 

図書館で借りたのは、文庫ではなく。

相変わらず、うまいな~と感心させられる短編集。

「ウェルカムの小部屋」は、まあご挨拶。

「彼女の彼の特別な日」「彼の彼女の特別な日」はごく短いラブコメ風。

「17レボリューション」は女子高生が主人公で”あたし”の語りなんだが、疾走感があって面白い。冷静な友人の古風な手紙といい、筆達者ぶりを堪能できる。

「本物の恋」はどんでん返しがあるのだが、策に溺れた感じ。

「東の果つるところ」もちょっと仕掛けすぎか。

「本が失われた日、の翌日」は、締め切りに追われる苦悩ゆえの遊び。

「ブレノワール」は、フランスのブルトン人が主人公だが、徐々に感情移入できる。秀逸。

「ヨハネスブルクのマフィア」は、大人の恋愛小説。

「気分上々」は中二男子の忙しい一晩を描く。なかなか好い男の子なんだ、これが。

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朝、出勤したら疝痛馬が来ると言う。

繁殖雌馬、未経産、受胎したが消えてしまった。

外傷の当歳馬も来た。

開腹手術を始めておいて、当歳馬の外傷を縫合する。

外傷縫合が終わって、腸管手術を手伝う。

空腸回腸纏絡だった。

それが終わったら、今度は当歳馬の疝痛が来ると言う。

今度は結腸捻転だった。

私は血液検査業務。

午後は、2歳競走馬の腐骨摘出。

当歳馬の喉嚢真菌症の経過観察と治療。

 


5ヶ月齢の尺骨骨折のDCP固定

2021-10-29 | 整形外科

5ヶ月齢の当歳馬が、収牧時に他の親馬に蹴られたらしい。

跛行は負重できないほどで、肘周囲も腫れてきた。

それで翌々日、X線撮影したら、尺骨骨折していた。

と画像が送られてきた。

尺骨頭部が変位していたし、もう200kg以上あるので内固定が必要だと判断した。

                   -

私は尺骨骨折の手術も仰臥でやるのを好む。

世界的には患肢を上にした横臥でやる馬外科医が多い。

それだと術中X線撮影がやりにくく、プレートを落っことし易く、上になる外側にプレートを当ててしまい易い。

                  -

無理に患肢を引張らなければ、変位はひどくない。

斜めに折れていることには注意が必要。

斜め骨折であることを利用して、骨鉗子で挟んだら骨折線を整復できた。

8孔ナローDCPを当てて、まず尺骨頭側にscrewを効かせる。

コンプレッションをかけるべく、load positionにしておいて、遠位側にもscrewを入れてそれぞれのscrewを締めたら・・・

コンプレッションが強すぎて、斜骨折がずれる。

それで尺骨頭側のscrewはうちなおした。

斜骨折ではありがちなことだ。

骨折部のplate screw は、骨折線をまたぐように遠位に向けて入れる。

残りのplate screws も入れて・・・

5ヶ月齢なので、遠位部のscrewは橈骨まで伸ばさない方が良いと判断した。

近位から2本目のscrewは外側へはみ出したので、少し内向けて入れ直し、6.5mm cancellus screw を入れた。

LCPを使う方法もあったと思うが、LCPを使うならLHSを使わないと意味がない。

ネジ山が小さいLHSが、特に引き抜かれる方向に力が働くであろう尺骨頭部でどれくらい有効か懸念した。

 そしてLHSはLCPに垂直でないと効かない。

薄い尺骨では使いづらい。

さらに、LCP/LHSは値段が高い。3倍ほど。

積極的な理由がないならLCP/LHSを使う必要はないと判断した。           

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裏山の秋。


子牛の感染症対策、牛伝染性リンパ腫対策のセミナー

2021-10-27 | 講習会

症例報告を再投稿する期限が迫ってきているので、朝5時から修正稿に取り組んだ。

なんとか、再投稿することができた。

            ー

今週は検査当番なので、細菌検査もやっておく。

2件、スマホで撮影し、培地の状態と、それだから有意な菌だと思えない、というショートメールを担当獣医師に送った。

有意な菌だと思わなくても、いくつかコロニーが発育したら”±”と報告する。

すると、担当獣医師は原因菌として可能性があるととらえてしまいがちだろう。

気持ちはわかる。

原因菌を捕まえたくて細菌検査しているのだから。

しかし、単一、あるいは2種までの細菌がある程度の菌量生えてこないなら、原因菌だとは思えない。

感染し、炎症を起こしているのだ。

数コロニーしか生えないことは考えにくい。

すでに抗生剤投与しているから、とかは採材時の状況で考えてもらうしかない。

            ー

休みの今日。

投票日は所用があるので、不在者投票に出かけた。

一票なんか無力かもしれないけど、投票しなければ文句を言う権利も、愚痴をこぼす権利もない。

モリ・カケ・サクラの時代はもうウンザリだ。

            ー

午後、企業さんのセミナー on line.

・子牛の病気は腸炎と肺炎がほとんど。

予防するためにはどうする?

どうすれば丈夫な子牛を育てられる?

というお話。

たいへん興味深かった。

どこかで、じゃあ子馬はどうなんだろう?と思いながら聴いたりもした。

・牛伝染性リンパ腫の話もたいへん興味深かった。

いまさら牛白血病か、と思われがちかもしれない。

国を挙げて清浄化を目指さないなら、個人や地域ではどうしようもない、と思われがちかもしれない。

伝染性リンパ腫対策が必要だ、と言うと異常に反発する牛の獣医さんが居ることも知っている。

しかし、できることはあるはずだ。

研究だけでなく、普及や社会活動と言ってもよい近内先生の姿勢に感動した。

 youtube で今月中は観れるらしいよ。

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この秋はカシワの黄葉も美しい。

こちらはヤマモミジの黄葉、と秋を楽しむヤツ。


乗馬の側頭骨舌骨関節症、と停留精巣

2021-10-27 | 馬神経病学

本州から側頭骨舌骨関節症の治療のために送られてきた17歳の乗馬サラブレッド。

平衡感覚障害は軽度

右の耳の麻痺も軽度

右眼瞼の麻痺は中程度

乾燥性角膜炎中程度

右顔面麻痺は重度。口は開いていて、下唇も麻痺。

舌の麻痺は軽度。

サク癖はひどい。たぶんTHOの要因になった。

                -

右の角舌骨を摘出した。

この馬、ひどくサク癖するせいで頚の筋肉が異常に発達していて、手術台で仰臥にしても頚が完全に伸びない。

それで、底舌骨と角舌骨の関節の位置が、ふつうより尾側にあった。

なるほど、サク癖は舌骨を胸の方向へ強く引張る行動でもあるので、無理な力が舌骨にかかるのだろう。

この馬の角舌骨は太くなり、両端の関節も腫大していた。

茎状舌骨も全体に太くなっていた。

左も側頭骨舌骨関節が大きくなっていた。

                   -

この馬、「いんこう」で去勢も頼まれていた。

健康手帳には何の記載もない。

しかし、17歳の乗馬にしては”ウルサイ”馬で、雄行動もあったのだろう。

AMHも高いので精巣が残っているのは間違いなさそう、とのこと。

手術台上で仰臥にしたら、陰嚢があった辺りに手術痕らしきものがある。

左は間違いなさそう。右も??

北米馬外科専門医の先生が、右は腹腔内から停留精巣を、

左も腹腔内から精巣上体を探し出して摘出した。

おそらく左は以前に体外へ出せた精巣だけを切除したのだ。

獣医師でない人が去勢しようとしたか、完全な去勢でないので、健康手帳にも書かなかった。

獣医師でない人が自分の馬を去勢しても構わないが、健康手帳には記載できないし、

人の馬を去勢して料金をもらったら獣医師法違反だし、

記録を残しておかないと、たいへん面倒なことになる。

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「いんこう」は、「陰睾」だと思っていたら、古い外科の教科書には「隠睾」とある。

cryptorchid は「潜在睾丸」とステッドマン医学英和にはある。

retained testicle とも言う。これは、「停留精巣」かな。

もっとも「陰睾」も間違いではないらしい。けっこう使われているようだ。

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今年は、雑木林の色づきが美しいように思う。

夏は渇水の時期があったが、それ以降は雨が十分に降ったことや、

潮を含んだ風が吹かなかったおかげだろうか。

 

 

 


敷き料による回腸閉塞

2021-10-26 | 急性腹症

前夜も疝痛だったが、落ち着いた、という1歳馬が翌朝はかなり痛く、来院。

超音波で小腸の完全膨満を確認。

留置された胃チューブからは胃液が出続けている。

開腹したら小腸閉塞で、回腸に硬いものが詰まっているのに触れた。

ヘイキューブ?

ビートの塊?

自分の便?

土のついた草の根?

いずれも触感が違うので、牧場の人に訊いたら「リナボックス」という敷料だろう、とのこと。

腹が減ると馬は食べてしまうらしい。

詰まっている部分は回腸自体も傷んでしまっている。

しかし、この部分を切除・吻合するとなると大掛かりな手技となり、かなりのリスクがある。

もみほぐして、液体で膨満した上位の空腸の内容も盲腸へ送りこんだ。

空腸にもリナボックスらしきものが入っている部分があった。

詰まっていたものがなくなったら、その部分を術創外へ出すことも見ることもできなくなった。

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敷料には、

稲ワラ、麦ワラ、牧草、オガ粉、さまざまな植物性繊維質、裁断された新聞紙、などが使われる。

食べても構わないのは牧草だけで、麦ワラ、稲ワラ、は便秘の原因になる。

何が使われているかわからない植物繊維でできた敷料は、馬の口粘膜に刺激があったり、腸閉塞を起こしたりすることがあるので食べるとよろしくない。

食べてしまう馬には使えない。

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熊撃ちの久保俊治さんの、狩猟とアウトドア活動のHow to が書かれた本。

今は狩猟技術を教える活動もしておられるそうだ。

久保俊治さんによれば、ヒグマは肉食を好む動物ではない、とのこと。

それはどうかな、と思う。

久保さんがフィールドとする道東でさえも、ヒグマは自由にサケもシカも捕らえられなくなっているのだろうから。

撃ち殺した獲物は、解体し何も残さないように数回に分けて人力で担いで運び出す。

マナーであり、ルールであろうが、そんなハンターはそうそう居ないのではないかと思う。