馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

高血圧患者の日常

2017-05-30 | 急性腹症

もうお産関係の事故もなくなり、slowな日になる予定だった。

午前中は、仔馬の肢軸異常のscrew抜去だけ・・・・・が最中に疝痛の来院。

「聞いてないけど・・・」

種付けへ行く途中に疝痛を起こし、そのまま連れて来た、とのこと。

入院厩舎へ入れるが、やはり痛い。発汗いちじるしい。

フルニキシンをうってもまだ痛い。

PCV52%、乳酸1.2%。

診療室が空いたので、枠場に入れて直腸検査。

深い緑の軟らかい便。青草の便だ。

触知できる大結腸は厚さを感じる。

超音波検査でも右下腹部で腸壁が肥厚している。

「結腸捻転だね」

しかし、高齢でもあり、飼い主さんはあきらめることにした。

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午後、今週わたしは血液検査。

そこへ先週からの疝痛の相談。

「もう来て開腹手術した方がいいね」

子牛の陰睾を手術中の手術室へ連絡に行く。

しかし、そこへ別な繁殖雌馬の疝痛の依頼。

どうやらそちらが先に来そうだし、緊急度が高いようだ。

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繁殖雌馬が来院して、血液検査PCV45%。超音波で右下腹部に肥厚した大結腸が観えた。

すぐやりましょ。

自分でやることにした。私がやるのが一番速いから。

でも慎重にやる。

終わって5時。

順番待ちしていた次の馬を始める。

もう診察する必要はない。

「開けてみましょうね」

先週からの疝痛だ。

結腸便秘していて、電解質液を飲ませると通過する。しかし、腸内容の排出はよろしくない。

ただし、超音波検査で左の腎臓を観察することができた。

痛み止めが切れると痛くなる。しかしひどくはない。

結腸左背側変位の可能性は否定できないが・・・と思っていたが、やはり結腸左背側変位だった。

ただし、骨盤曲近くだけが腎臓と脾臓の間にひっかかっていた。

そして、ひどい腹側結腸の便秘。

重くて、破れそうで術創から出せない。

仕方がないので、骨盤曲を馬の右側へ出して、切開して、そこから水を入れて、少しずつもみほぐして便秘内容を排泄した。

ほとんど出しつくしたつもりで、切開部位を縫って閉じた。

しかし、いつものように尾側へ結腸全体を引張り出したら右腹側結腸にまだ便秘している。

それで、別な箇所を切開して、大結腸を完全に空にした。

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さらに、当歳馬の外傷の来院。

肘の下を親に蹴られたらしい。

終わって夜8時。

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翌朝、相棒と散歩していたら、夜中に来た疝痛馬が「やはり痛い。もう開けた方が良い。」とのこと。

朝6時から開腹。

癒着疝だった。

5年前に内股を開腹手術して顆粒膜細胞腫になった右卵巣を摘出した馬。

その術創に小腸が癒着していた。

小腸が膨満しているので、1ヶ所切開して内容を排泄してから、癒着を切って剥がした。

小腸の一部が漿膜を失い、腸間膜も破れたので、その部分を切除吻合した。

あとは閉腹。

終わって朝8時半。

さあ、きょうは病院へ血圧の薬をもらいに行こう!;笑

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おめ~は肉食でも血管年齢若そうだな

 

 

 

 


第一指骨骨折のスクリュー固定

2017-05-28 | 整形外科

2歳馬が第一指骨を縦骨折した。

骨折線はかなり開いてしまっている。

正中がまっすぐ縦に割れた骨折ではない。

外へ向かって開いているのが、背側か掌側かによってスクリューを入れる方向を変えなければならない。

少し内側から撮ってみると外へ向かっている骨折線が外側へ寄る。背側が外へ向かって割れているようだ。

種子骨が関節面に重なってもいいから、第一指骨に垂直に撮ってみる。開きが大きいのは背側骨折線のようだ。

それで、こういう固定のしかたにした。

関節面近くを2本でしっかりとめて、

その遠位は少し掌側からスクリューを入れて、

さらに遠位は掌側から背側へスクリューを入れた。

近位から5番目のスクリューは2mm短いものに差し替えた。

近位から3番目の5.5mmスクリューは2mm長いものに差し替えた。

一番近位にあけたドリル孔は縦溝部分で関節面をかすめたようなのであけなおした。

骨折線はほとんど見えなくなった。

あとは3-4週間はキャスト固定してもらう。

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お~雨上がり、元気があまってもめてるね。

お~おめ~も元気あまってるね。

 


子牛の股関節脱臼

2017-05-27 | 牛、ウシ、丑

3ヶ月齢の子牛が左後肢を使えなくなって、そのうち股関節脱臼ではないか、ということで来院した。

もう発症から1週間経ってしまっていた。

左後肢が短く、外へ向いていて、股関節があるはずの辺りの背側にへんなでっぱりがある。

X線撮影して確かめた。

背・頭側へ大腿骨頭が脱臼している。

男4人で渾身の力で引張ってみたが整復できない。だいたい動きもしない。

飼い主さんもこのままあきらめるのはしのびない、ということで手術することになった。

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準備に1週間かかった。

大腿骨頭と大転子の上を切開し、できるだけ鈍性に開いて・・・

それでひっぱってみてもびくともしないので、整復はあきらめて、大腿骨頭を切断した。

この位置のまま、偽関節ができるので、痛みがなくなれば歩けるようになる、はず。

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新ひだか町では、死亡獣畜焼却場を担当してくれる嘱託職員を募集している。

馬や牛を飼っていると、死体の処理はつきものだ。

死因を確かめることは獣医師に必要なことも多い。

軽種馬生産や、肉牛生産が盛んなこの地域ではたいせつな業務なのだ。

 

 

 


爽やかな季節の日曜日

2017-05-22 | 牛、ウシ、丑

日曜日。

前日の調教で、第一指骨を縦骨折した2歳馬。

ほとんど負重できない。

スクリュー3本で内固定した。

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午後、予定していた黒毛子牛の化膿した臍帯の切除手術。

腹腔内へはつながっていなかった。

生まれたときには20kgない早産仔だったらしい。

親は脂肪壊死症だったのだそうだ。

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続いて、200kgの黒毛子牛の尿石症。

手術台で右横臥にして尿道形成手術。

途中で、心拍がとまりそうになった。

尿毒症による高カリウムが主因だろう。

ブドウ糖、カルシウムの点滴で心拍は安定した。

腹腔尿症にもなっており、開腹も必要かと考えていたがやめた。

膀胱破裂があっても自然に閉じることを期待する。

手術前も膀胱は膨らんでいたし、尿道カテーテルから空気を入れても膨らむのが確認できた。

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夜、当歳馬の空回腸纏絡。

上位の空腸もパンパンに膨らんでいた。

膨らみすぎて、動けなくなって、腸間膜を軸に捻れていた。

急いで腸間膜を軸にした捻転を直し、纏をほどいて、腸間膜の血管を結紮しておいて回腸で切断した。

壊死した小腸を廃液ホースに使って、膨満した空腸の内容を捨てた。

回腸を盲端にし、空腸を盲腸へ端側吻合した。

問題なく通過すること、漏れがないことを確認し、腸間膜の穴を閉じた。

腹腔を洗浄して・・・・私はそこでエネルギー切れ。

閉腹を頼んで、入院厩舎に輸液を準備しに行った。

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のんびり外で朝ごはんを食べられる君たちがうらやましいよ。


またまた大結腸奇形に悪戦苦闘する

2017-05-17 | 急性腹症

昼前、競走馬の喉頭内視鏡検査。

終わったら、分娩後の繁殖雌馬の不調の相談。子宮穿孔、消化管損傷、動脈破裂、などが疑われるが・・・

午後、2歳馬の球節chip fracture の関節鏡手術。

その前に、2歳馬の疝痛診察の依頼。

しかし、関節鏡手術が終わっても、すぐには来院しないことになった。

1ヶ月齢の仔馬の疝痛も連れて来たい、とのこと。

先に来る、重症馬から対応するしかない。

2歳馬が先に来院。

診察して手術適応だと判断したが、仔馬も来院。

仔馬はもう立てない。こちらが先だ。

仔馬は空腸捻転だった。

大きなループが腸間膜を軸に捻転し、その先はすっかり変色していた。

捻れを戻して、1.8m空腸を切除し、空腸空腸で端端吻合した。

終わってすぐ2歳馬の開腹。

結腸左背側変位を一番の推定診断に考えていたが、左背側変位はしていない。

大結腸はほとんど厚くなっていない。

右背側結腸には大量の内容が入っているが、ひどい便秘というほど固くない。

結腸を引っ張り出そうとするが、出てこない。

破れそうでとても危ない。

術創を切り広げたが、雄馬でペニスがあるので、それ以上は尾側には切り広げられない。

この30年、日本で最も多く馬の大結腸を引っ張り出してきた私が手こずるのだ;笑

仕方がないので、引張り出せた部分を切開し、水を入れてもみほぐして内容を少しずつ棄てていった。

それでも結腸壁の筋層が裂けたので、途中で縫合した。

なんとか大結腸を空にした。

あらためて引っ張り出して、盲腸との位置関係を確認した。

大結腸は・・・・ハート型をしている。

本当の骨盤曲は、腹側結腸の紐が終わる辺り。

大結腸が奇形なので、便秘しやすく、今回はそれに変位も加わったのだろう。

3時間がかりの大手術になった。

その前の仔馬の開腹も合わせると5時間超。

片づけをしていたら、2歳馬のオーナーさんが、

「思い切って切り取ってしまえばよかったんじゃないか」と言う。

楽しいおじさんだ;笑

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タウリン、カフェイン、ヴィタミンB群、さて効果はあったか・・・・・

一番元気が出るのは、きのう手術した馬が今日好調なことだ。