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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

大動物の実践的輸液講習会

2014-10-31 | 講習会
きのうは地元獣医師会主催の産業動物講習会。
酪農学園大学鈴木一由先生に来ていただいて産業動物の実践的輸液について講演していただいた。
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その前に、ランチョンセミナーとして日本全薬工業の角田先生に高張食塩液について原理と症例の紹介をしていただいた。
牛の臨床では高張食塩液はずいぶん普及して使われている。
投与後に飲水させられる病態(急性乳房炎や起立不能などの消化器障害以外の症例)が多いことや、
ルーメンという貯水タンクを体内に持っていることから、高張食塩液の投与に向いている面があるのかもしれない。
しかし、馬も往診による治療の中では長時間かけた輸液は難しい。
それで、高張食塩液は馬の一次診療では使っても良い症例がかなりあるのではないか?
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ただし、鈴木先生は講習後の私との会話の中で、高張食塩液を使うことはほとんどない。と言っておられた。
大学で診療しておられる先生には、学生というマンパワーがあるので、高張食塩液ではなくもっとリスクが少なく、時間がかかるが、モニターしながら行える持続点滴が可能だからだ。
これは二次診療をしている私達の状況と重なる。
私たちもショックへの対応以外には馬に高張食塩液を使うことはあまりなかった。
ただ、高張食塩液を使うことにより持続点滴より安く済ませることができたり、
飼い主さんに長時間看護してもらわなくて済むので、最近はときどき利用している。
しかし、往診で時間や器具の面で持続点滴がでないときは馬にも高張食塩液を上手に使えば良いのかもしれない。
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鈴木先生の輸液の講義は、基礎から臨床的実践的側面まで、とても重要な内容だった。
しかし、内容は高度なもので、日頃経験的な補液に終始していると理解するのがたいへんだったかもしれない。
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そして好いなと思ったのは、
随所に動物の状態をしっかり診ること、観ること、の大切さが説かれていたことだった。
数字で計算したり、検査値を改善させようとするのではなく、私たちは病態を治し、動物の状態を良くしなければならない。
原理の理解は必要だが、すべてが計算どおりにいくわけではない。
そのとき本当の指針になるのは、動物の状態なのだ。
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鈴木先生の講義を聴いて、そして話を伺って、臨床への意欲と情熱に感心した。
まさに臨床研究であり、それは臨床家である私たちにとってとても嬉しく心強いものだった。
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オラ、結露した窓の外でなんかもらえるの待ってる
早くバナナか牛乳くれないと吠えちゃうゾ

修行じゃなくて何て言う?

2014-10-27 | How to 馬医者修行
自分を高めるための努力やその過程、あるいは他者を教え導くための方法を何と呼ぶ?
education 教育はまさしく「教え、育てる」ことだろう。
しかし、ちょっとおこがましいし、堅苦しい。
もっといろいろな表現があっても良いはずだ。
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訓練?
これは軍隊っぽい。
                  -
演習?
これも違う。
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研修?
これは事業としての呼び方だろう。
                  -
育成?
これはかなり感覚的にはいいかもしれない。
ただ、育てる側からの呼び方であって、育てられるほうにとっては受身でしかない。
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成長?
これは目標だが、能動的な意味あいに欠ける。
放っておいても伸びて成長する者も物もあるから。
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こうして考えると、「教育」以外には、そういった教え育(はぐく)むことを呼ぶ言葉がないことに驚く。
これは英語でもそのように思う。
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周囲にその意欲があって、環境が整っていて、何かを犠牲にしなければならないのでなければ、
修行とは呼ばない。
だから、馬医者「修行」なのさ;笑。
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今日は、
黒毛和牛の肩関節OCDの手術の予定だったが、歩きがよくなっている。
手術してかえって悪くなったり、良くならない可能性があるならやりたくない。とのことで手術中止。
そのまま肥育できるなら無理に手術する必要はないだろう。
午後は3歳競走馬の種子骨骨折の関節鏡手術。
脛骨近位成長板を損傷した当歳馬は剖検。
手術はしなくて済むならやらないにこしたことはない。
しかし、やらなければならないなら躊躇せずやらなければならない。
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今年はどの山も林も赤みが強いようだ。

チベットを馬で行く

2014-10-25 | 図書室
チベットを馬で行く (文春文庫)
渡辺 一枝
文藝春秋

この1ヶ月、この本を読んできた。
amazonで購入する前は、有名な作家椎名誠の奥さんが書いた旅行記だと思っていた。
写真が多くて、それほど厚くはない本だろうとなんとなく考えていた。
甘かった。
あとがきまで実に668ページある。
写真どころか挿絵すらひとつもない。
すべてが言葉で表現されている。
チベットを馬で1周する4000kmを超える旅。
そのどこもが富士山より標高が高い。
「もう10歳若く体力があれば・・・」という50歳になった女性がした旅。
もし旅の途中で死んだら、チベットの風習にならって鳥葬にして欲しいと夫に頼んででかけた旅。
本の内容は旅日記なのだが、その中に作者の人となりが表れ、日本やチベットや中国の社会問題が語られ、
チベットの自然が描かれ、家族への思いが書き留められている。
旅が終わるに近づくと、早く旅を終えたい気持ちと、旅が終わる寂しさとがあふれている。
本を読む側もその気持ちに同調することができた。
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私は自分にはモンゴル系の血が流れているのかなと思うことがあった。
馬に魅かれるB型だし;笑。
でも、チベットかもしれない・・・・山好きだし。
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今朝、電柱にノスリを見かけた。
いつも冬に停まっている柏の樹はまだ葉を落としていない。

歴史的な馬手術 英王立獣医科大学資料から 1927-1937

2014-10-24 | How to 馬医者修行
興味深いヴィデオをyoutubeで見ることができる。
Historic Equine Surgery taken from the archives of The Royal Veterinary College. 1927-1937.

行われているのは声嚢声帯切除だ。
喘鳴症の外科治療として行われるこの手術が、第二次世界大戦前に行われていたことにびっくりする。
しかし、馬を倒す方法や、馬を押さえつけるやり方には感心しない。
クロロホルムを嗅がせて麻酔を維持している。
とても馬も人も危なそうだ。
手術手技はとても大胆。
この時代は喉を観察できる内視鏡はあったのだろうか??
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80年ほど後世にいる私達がこの先輩達を笑うことはたやすいが、
先輩達の努力があるからこそ私達が今の有様であることは間違いない。
そしてその80年のうちの30年には私は責任がある。
さらに数十年後、笑われないで、感謝されるように努力しなければなるまい。
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そういうと今週、声帯切除手術をやった。
プロポフォールで麻酔し、エアマットの上で仰臥にし、laserで声帯を切除した。
80年の進歩はありがたいことだ。
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今日は、
競走馬の屈腱炎の超音波画像診断というか経過観察とリハビリ指導。
当歳馬の腰痿のX線撮影。
今年はどういうわけか当歳馬の腰痿がとても多い。
昼夜放牧がこたえるのだろうか?
飛び入りで繁殖雌馬の疝痛。
治まって帰っていった。脱水は強かったので輸液。
午後は血液検査に、
hysteroscopy
競走馬の喉内視鏡検査。
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晩秋の朝。
真面目な顔したってダメだよ。
エサのことしか考えてないベ。

足根骨・中足骨部の崩壊のプレート固定手術

2014-10-22 | 整形外科
Veterinary Surgeryの最新号に飛節の下で骨折や脱臼をしてしまった馬のプレート内固定手術5例が報告されている。
このタイプの事故はかつて有名な種雄馬ヌレイエフが発症した。
ケンタッキーの有名な診療所の中にヌレイエフ用の馬房が建築され、長期間の治療とリハビリのあとでヌレイエフは種付けにも復帰した。
ただ、ヌレイエフが受けたのはスクリュー固定手術で、実際には患部をしっかり固定する力はなかったと思われる。
私も1例、種雄馬が飛節の下でブラブラになってしまったのを診せられたことがある。
その馬はヌレイエフよりもひどい状態で、あきらめざるを得なかった。
もし治療するとしたらプレート固定術だろうと考えていた。
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Plate Fixation for Management of Plantar Instability of the Distal Tarsus/Proximal Metatarsus in 5 Horses
5頭の馬での遠位足根骨/近位中足骨の底側不安定の治療のためのプレート固定

Veterinary Surgery 43(2014)425-429

目的:近位足根関節と足根中足関節の底側不安定となる外傷性損傷の治療のためのプレート固定を報告すること。
研究のデザイン:症例。
材料および方法:遠位足根部の内固定を受けた馬の診療記録(1988年10月から2007年8月)を調査した。
踵骨近位から中足骨の近位1/3に伸びる足根部底外側にブロードのDCPかブロードのLCPを入れられた馬がいた。
特徴、臨床症状、x線画像所見、手術までの時間、インプラントのタイプ、術後管理、および併発症を記録した。
長期間(1年以上)の予後が4頭について得られた。
結果:5頭が治療され、4頭はDCP固定、1頭はLCP固定であった。
3頭では近位足根関節の亜脱臼で、2頭は遠位足根骨あるいは中足骨近位の骨折があった。
周術期の併発症としては第三腓骨筋の断裂(2頭)や術後感染があった。
4頭は退院し、手術1年後は放牧地で良好と考えられ;3頭は制限された騎乗運動には充分耐えられた。
結論:足根部と近位中足骨の底側不安定を引き起こす事故の治療を成功させるのに、プレート固定は適切な強度と安定性を作り出す。
 
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こうなると飛節の下で肢はグラグラあるいはブラブラしてしまう。
しかし、開放骨折ではないことが多いのでなんとか助ける方法がないかということになる。
ただ、後肢のボッキリ骨折の治療はとくに成馬では難しい面がある。
寝起きのときに捻れの力が加わるので、内固定が崩壊しやすい。
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こちらはブロードDCPによる内固定。
X線画像だと簡単に見えるが、実際には飛節の後をとても長く切開し、骨にプレートを沿わせるだけでたいへんだ。
骨にしっかりプレートを密着させないとDCPは強度が出ない。
5頭ではいずれも手術後にフルリムキャストが併用されている。
その期間は48、42、31、18、14日間。
徐々に短くなっているのが面白い。
そして、最初の1頭だけが安楽殺されている。
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これはブロードLCPによる固定。
LCPはDCPほど厳密に骨に密着させる必要はないが、この部分では浮いていたのでは皮膚が寄らなくなる。
しかし、屈腱もあるのでプレートの位置と角度を決めるのは難しいだろう。
LCPではプレートの位置が決まるとLHSの角度と方向も決まってしまう。
踵骨は厚さがないので、しっかり中心部にスクリューが入るようにしなければならない。
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生存した4頭のうち3頭で軽い騎乗運動ができたというのには驚く。
固定することになる関節がもともと可動性がほとんどない関節だからだろうが、それにしてもプレートも入ったままだ。
関節を固定している靭帯の強さと再生能力に感心するべきだろうか。
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今日は、
2歳競走馬の腕節のchip fractureの関節鏡手術。
腕節の関節鏡手術はこれで1343頭目。
当歳馬や1歳馬の飛節の関節鏡手術は今まで1344頭やってきた。
しかし、競走馬の手術が徐々に増え、来週には頭数は並ぶ。
まあ、それだけのことなのだが・・・・
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続いて当歳馬の前肢の跛行。
ひどい跛行に見えたが、橈骨神経麻痺のようだった。
患肢の腕節を押さえたり、後踏みさせると患肢に負重できるのだ。
上腕三頭筋を充分に使えなくなっていることが跛行の原因なのだろう。
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午後は喉鳴りする競走馬の声帯切除術。
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あ~あ
今日は好い天気
日向ぼっこしてるとオラにはまだ暑いけどナ