かつては街中に「●○消化器外科」などという看板の小病院がよくあった。
そういう小さい外科病院で行われていたのは虫垂炎の開腹手術と、胃潰瘍の入院治療、あるいは開腹手術だったようだ。
しかし、「モーチョー」と呼ばれていた虫垂炎の患者の多くは虫垂炎ではないか、あるいは今なら内科治療で抑え込めるような症例だったようだ。
そういわれると、昔はクラスに一人や二人は「盲腸」で手術を受けた子供がいたようだが、今はほとんど話も聞かない。
その辺の話は大鐘稔彦著「外科医と「盲腸」」に詳しい。
もうひとつの収入源、胃潰瘍の治療はH2ブロッカーと呼ばれる胃酸分泌を抑える薬が開発されて外科手術の対象ではなくなった。
H2ブロッカーは今は薬局でも手に入るようになった。
ガスター10はファモチジンである。
今はさらにプロトンポンプインヒビターと呼ばれるさらに完全に胃酸を抑制できる薬が使われている。
「酸なきところに消化性潰瘍なし」
胃酸を抑えることができれば胃十二指腸潰瘍は治っていく。
-
前置きが長くなった。
その馬用プロポンポンプインヒビターが馬の胃潰瘍の予防にも使えるか。
それも治療のための投与量より少ない量で予防できるか。の試験を手伝ったことがある。
予防効果を野外試験で証明するのはとても難しい。
投与群と非投与群に分け、投与群では胃潰瘍にならなかったが、非投与群では胃潰瘍になった。という結果が起こる設定をしなければならない。
投与前の内視鏡検査では胃潰瘍が無く、投与試験後の内視鏡検査では胃潰瘍になっている馬がかなり出ないと、予防効果を証明できない。
では、馬はいつ胃潰瘍になるのか?
-
これは海外でもほとんど成績がない。
現役の競走馬だと8割前後の馬はすでに胃潰瘍があるので、治療試験にはなっても予防試験の対象にはならない。
それで、調教がだんだんきつくなっていく育成馬を対象にすることになった。
しかし、育成馬の調教のどの段階で胃潰瘍が起こってくるのか誰にもわからないことだった。
「育成馬に胃潰瘍ができるような調教をするのが間違えている。うちの馬ではそんなことはない。」
と言う人も居た。
-
実際に調べてみると育成馬でも調教が強くなり、
ハロン20秒を超えるスピードの調教を始めると胃潰瘍ができる馬が出始め、
ハロン18秒を超えるとさらに増える。ようだった。
おそらく「15-15」と呼ばれるような調教をするようになると、馬の胃潰瘍の保有状況も現役競走馬と変わらなくなるのだろう。
-
育成馬でも中には飼い喰いがおちているとか、イライラしているとか、神経質そうだとか、いつも扱っている人が「この馬は胃潰瘍があるんじゃないか」と疑うような馬もいたが、実際の胃潰瘍の有無とそれほど当たってはいなかった。
そういう点では、育成馬の胃潰瘍程度だと軽症なので、コンディションの悪化にもつながっていないのかも知れない。
しかし・・・・・
---
解剖してみると十二指腸が穿孔している。
ズボンッと開いた穴だ。
十二指腸は全体にわたって発赤と偽膜の付着があり、十二指腸炎とでも呼ぶべき状態だったのだろう。
おそらくその中で一箇所だけ深い十二指腸潰瘍ができて穿孔したのだ。
胃の襞状縁(白い無腺部と赤い腺部の境界部分で、胃潰瘍の頻発部位)にも胃潰瘍が並んでいる。
面積は広くはないし、無腺部全体には病変はほとんどないが、襞状縁の潰瘍はかなり深く、上皮が完全に無くなって筋層が露出している部分もあった。
子馬の胃十二指腸潰瘍以外は、馬の胃十二指腸潰瘍が致死的経過を辿ることは少ない。
この育成馬だけがどうして十二指腸穿孔を起こしてしまったのかはわからないが、残念なことだ。
////////
今年は震災・津波・原発事故で記憶される年になるのでしょう。
世界経済の危機や、アラブ社会の革新や、中国の台頭や、TPPや、不安要素が山積みで、
日本の財政逼迫ももう待ったなしのようです。
V字回復とはいかないでしょうが、あり方を根本から考え直し見つめなおすことが必要なように思います。
面を上げて、しっかり前を向いて進んでいくことが大事なのではないでしょうか。
多くのものを失っただけではなく、日本人や日本の社会の良さや、ふるさと、地域社会、家族のつながりの大切さを教えられた年でもありました。
-
みなさんにとって来年がより良い年でありますように。