電脳六義園通信所別室
僕の寄り道――電気山羊は電子の紙を食べるか
【風の便り】
2019年12月25日
【風の便り】
帰京した折に女ともだちが体調を崩しているという話を伝え聞いたけれど、伝え聞いた噂の真偽を本人に直接確認することなどちょっとできない。できないけれど気になるので手掛けた雑誌を送って「がんばれ」と書き添えた。郷里にはその友人と共通の男ともだちがいて春と秋にお茶とみかんが届く。今年もそのお礼に出来上がった雑誌を送ったので、一筆書き添えて聞いてみようかと思ったけれど、やはりちょっとそれもできない。
そうしたら病気が見つかったという噂の本人から荷物が届いて、大丈夫、心配したご主人が大袈裟に言っているだけだという。本人からそう聞いたのでひとまず安心したが、思いがけないことが文末に書かれていた。その友人と共通の男友ともだちが 9 月に亡くなられたという。ということは送った雑誌も添えたひとことも読んでもらえなかったわけだし、友の様子を尋ねたところで返事は聞けなかったわけだ。ちょっと不思議な偶然である。思えばこの人脈は母の介護をしていた 2005 年から不思議なつながりで細々と続いてきた。
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【すごいな】
2019年12月24日
【すごいな】
「すみません、返却日を1日過ぎてしまいました」
と言ったら
「あ、結構ですよ」
と言う。親切だ。
「おお、すごいな」
と声をかけられたので振り向いたら、若者が足早に歩み去っていく。どうもこころのかたちが定型でない青年に見える。
「おお、すごいな」
という声かけができること自体、人間ってすごいなと思って気持ちのよい朝である。
【胡椒】
2019年12月23日
【胡椒】
「今朝戻った」
と言って受け取りに来て土産物をもらった。
「山椒だね」
と言ったら
「ちがーう、胡椒!」
と言われて一本とられた。二つ上の頭が上がらない姉のような人である。しまった。
「ぜーんぜん違う!順位をつけて比べたりできないよ!」
と言う人がいれば大したものである、というかうるさい。
【ひかりのおか】
2019年12月21日
【ひかりのおか】
読書会の友人が加入しているオルフ祝祭合唱団クリスマスコンサートに行ってきた。西武池袋線練馬駅から地下鉄大江戸線を乗り継いで光が丘で下車すると、駅直結のビル内に会場の IMA ホールがある。前回光が丘を訪れたのは農文協『台所でつくるシャンパン風ドブロク』著者の山田陽一さんを訪ねた時で、発行が 1991年 10 月なので 30 年近く前になる。当然地下鉄大江戸線などなかった。どうやって訪ねたのか記憶にない。
ここはかつて成増陸軍飛行場で、戦争中は神風特攻隊の出撃基地となった。戦後 GHQ に接収され米軍家族住宅グラントハイツとなり、1973 年全面返還されて現在の地名光が丘になった。コンサート終了後、会場で落ち合った読書会仲間と三人で東武練馬までタクシーに乗り、『にしだ家』でいっぱい飲んで帰った。
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【蠅とゾンビと宝くじ】
2019年12月20日
【蠅とゾンビと宝くじ】
昨夜は今年最後になる哲学者永井均の読書会で新宿まで行ってきた。目の前にいる人に「実は私ゾンビなんです」と告白された時の対応の話がおかしくて個人的に気に入ってしまい、帰宅してベッドに入っても思い出しながらにやけて寝た。そうしたら冬だというのに丸々太ったおおきなハエが部屋の中を飛び回る夢を見た。新聞紙を丸めて叩き落とし、床に落ちたので「死んだな」と思って覗き込んだら、突然蘇生してこちらに飛んで来るので、寝ぼけて「ぎゃ〜」と叫んで妻に笑われた。ハエゾンビである。
妻は昨日銀座まで髪を切りに行き、日曜日一緒に高尾山に登る予定を立てて断念した友人が銀座で見たのと同じ宝くじ売り場の行列を横目で眺め、松屋前に出ている救世軍社会鍋に募金して帰ってきたという。毎年、新宿京王前に出る社会鍋に財布の中身をぶちまけてくるのを励行していたけれど、昨夜はゾンビの話でにやけながら新宿駅まで歩いたので忘れた。代行してもらえてよかった。
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【空気の見え方】
2019年12月19日
【空気の見え方】
芸術系の教育を受けると空気感という言葉に馴染みが深い。
「空気感が出てないね」
などと言うのを聞くたびにヘンな言葉だと改めて思う。思うけれど聞き慣れたせいか
「ああもうお正月の空気感だね」
などと、暮れも押し詰まるとついそんなふうに言ってしまう。十二月から一月にかけて風が吹いて乾燥した日は、空気が澄んで赤や青が目に染みるほど鮮やかに見える。そういう見え方に感動するからだろう。
最近、歳のせいか白内障の手術を受ける友人が多い。
「世界がこんなに鮮やかで明るく見えるとは思わなかった!」
と感動している人もいれば、
「別に見え方がどう変わったとも思わない」
という人もいるし、
「近くが見えにくくなって困る、やりなおしてもらいたい」
などと文句を言っている人もいる。見え方はさまざまである。
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【ピチカート】
2019年12月19日
【ピチカート】
録画しておいた NHK クラシック倶楽部「ヴィジョン弦楽四重奏団」の演奏を聴いてびっくりした。暗譜、立奏で演奏されたハイドン晩年の作が若若しく元気で感心したけれど、バイオリン、ビオラ、チェロという4本の楽器奏者全員が弓を置いてピチカート(最近はピッツィカートと書くらしい)だけで演奏するオリジナル曲には意表を突かれた。いいものを聴いた。演奏されたオリジナル三曲の作曲者でもある第一バイオリンのヤーコブ・エンケが傑出している。
2019 年 10 月 21 日、武蔵野市民文化会館小ホールで収録とのことで、案内をもらったはずなのだけれど生で聴き損ねた。惜しい。
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【パン屋の1ダース】
2019年12月18日
【パン屋の1ダース】
ミュリエル・スパーク著、永川玲二訳『死を忘れるな』(MEMENTO MORI)が届いたので読んでいたら「パン屋の1ダース(Baker's dozen)」という古い言葉が出てきた。かつて英国では小売商の余得となるようパン屋が「パン屋の1ダース」を慣習としていたそうで、「13」を表す英語表現になっている。
そういう「小売商の余得」的な慣習が日本にもあって「へ〜」と感心したことがある……ような気がするのだけれど何だったか思い出せない。
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【空の青】
2019年12月17日
【空の青】
「晴れた空が身に沁み込むように感ぜられる好い日和であった。」(漱石『こころ』)
冬空の鉛色に無聊をかこっていると青空が恋しくなる。師走の青空より、年が明けた三が日の晴れた空のほうが身に沁みこむように感じられるのは不思議だ。少しだけれど日が伸びて春が萌(きざ)していることもあるし、暮れのあたふたで心がささくれるせいかもしれない。
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【本とノート】
2019年12月17日
【本とノート】
朝日新聞の連載記事『(現場へ!)もうすぐ終わる紙の本』の第5回目「指が触れ「この私」が起動する」で英文学者の高宮利行がジョン・ミルトン(弁護士で政治家で作家だったナイルズか)の書き込みがあるシェークスピアの古書をひいて「本は書き込むためにある」と持論を述べていた。書き込みがあるシェークスピアの写真が添えられていたが美しい文字だった。
読書会に参加するようになって本を精読しながらノートをとっているけれどあまり役にたたない。考えたことと言及先とは隣り合っていたほうがいい。やっぱり本自体に書き込むようにメモの取り方を変更したところだったので、ほんとうにそうだなあと思う。
このところ数学者岡潔(おかきよし)を電子書籍で読んでいる。書き込みをしたくて困るので、紙の書籍を5冊まとめて注文したけれど残念ながら文庫本だ。ノートのように書き込みができる紙の本は終わらない、そう思うけれど、文字と版面(はんづら)が大きくなりすぎて行間と余白が少なくなりすぎた文庫本は、終わりたいかのように自らの首を締めていると思う。
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【東京五輪聖火リレー】
2019年12月17日
【東京五輪聖火リレー】
東京五輪聖火リレー全区間の出発地・到着地が発表されていた。見に行くことはないと思っても、やっぱりどこを走るのかが気になって馴染みの場所を探してしまう。
6月25日(木)は駿河湾フェリーから郷里清水駅前交差点へ、7月21日(火)はトヨタ自動車東京本社モニュメント前から母校跡教育の森公園自由広場まで聖火ランナーが走るという。教育の森が選ばれたのは嘉納治五郎がらみだろう。
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【朝乃月】
2019年12月16日
【朝乃月】
朝の空を見上げて月が出ていると気分がいい。過去に朝乃月なんていう四股名の力士がいたんじゃないかと調べてみたけれど見当たらない。
そもそも四股名に月の入る力士が非常に少ない。朝乃若(現年寄・若松)という力士がいたので、朝乃月がいても爽やかでいいんじゃないかと思う。
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【ファンタジア】
2019年12月15日
【ファンタジア】
1940年ディズニー製作によるアメリカのアニメーション映画『ファンタジア』(Fantasia)の DVD を図書館に借り出し予約した。指定した貸出館に届いたというメール連絡があったので受け取りに行ってきた。
地階受け取りカウンターに降りる階段に色付きガラス窓を透過した光が射し込んでいる。意外な場所で唐突に遭遇したこともあって幻想的に美しい。
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【ヴァレリー・アファナシエフ】
2019年12月14日
【ヴァレリー・アファナシエフ】
金曜日の朝、NHK BS プレミアムカフェ「漂泊のピアニスト アファナシエフ もののあはれを弾く」の再放送があるのを見つけたので録画しておいたものを、土曜日の夕食どきに飲みながら観た。多才で個性的な芸術の表現活動とは別に、過剰に合理性を追求することのできる人にある類型的な特性に興味をもった。
面白い人だなと思い、この人の「もののかんがえかたのかたち」をもっと知りたいと思い、Wikipedia で経歴を読んでいたら、講談社現代新書から『ピアニストは語る』ヴァレリー・アファナシエフが出ていた。ありがたいことに「もののかんがえかたのかたち」が本人によって語られている。すばらしい。電子書籍で購入した。
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