【グッド・モーニング】

【グッド・モーニング】

 

『電脳六義園通信所』アーカイブに加筆訂正した 2005 年 7 月 3 日の日記再掲)

駒込駅午前 4 時 49 分発の山手線外回りに乗り東京駅で下車したら、5 時 20 分発静岡行き普通列車の発車ホームは意外に近くて走らなくても落ち着いて乗車できた。

土曜日であるせいか思ったより混雑していて、東海1号より遙かに席が埋まっている。東京駅ホームを離れ車内放送が始まった途端、有楽町あたりで車両がガタンと止まり、けたたましいブザー音が鳴りっぱなしになり、緊急停止信号を受信したという。

新橋駅ホームで人身事故発生の一報が入り、それが京浜東北線下りホームであると続報が入り、並行して走る各線に影響がないか確認中だと言い、東海道本線の運行に支障無いことの確認がとれて発車となるまで、絶対に線路に下りて歩くなと繰り返しアナウンスがある。

運転再開後、不通となった京浜東北線の乗客を途中駅で拾いながらの運行となり、20 分ほどの遅れが出て、横浜あたりでは座れず通路に立つ乗客もいた。

 

Data:RICOH Caplio R1

週末の介護帰省で利用する東海1号と同型の列車のようなので1号から4号のピストン輸送余剰での使い回しかと思ったら、JR の車両はもっと複雑なローテーションで休み無く運行されていることを教えていただいた。

考えてみたら利用率を上げることで車両コストが下がるわけで、そういうものなんだろうなと再認識する。

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早朝から長旅に適した立派な座席の車両を普通列車におごることで、JR は行楽客の利用も当て込んでいるようで、座席背面の網製ラックには『身延線沿線トレッキングガイド』という立派な小冊子が入れられている。東海道新幹線グリーン車の座席に『 Wedge 』と『ひととき』が入れられているのに似ている。

車内広告もすべて身延線に関する広告であり、この列車は「富士駅で身延線に乗り換えて遊びに行きましょうよ」と誘っている。

介護規制を待つ親がいるので誘いには乗れないけれど、身延線沿線で下車してのトレッキングコース地図を見ていると、甲斐武田氏の歴史と関係の深い清水っ子の興味をそそるものがある。おそらくご先祖ゆかりの人々や物や文化が山と海を結んで行き交った道である。

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各駅停車だと、特急列車で通過する車窓では見えない細部が驚くほど見えるのにも驚く。

大好きな「根府川駅」も「函南駅」もただひっそりと鄙びてだけいるわけではなく、駅前に観光客を誘う情報という血が通っているさまが見えて嬉しくなり、思わず寄り道したくなる。高速での通過は本の斜め読みに似ていて目で見る情報に欠落するものがある。

写真を撮影することもまた景色の斜め読みに似ている気がして、手のひらのコンピュータでスケッチしてみる。東京・清水 2 時間 54 分の旅ならではの心境かもしれない。

湯河原を通過する際、海側の車窓に大きな老人福祉施設とおぼしき建物が川沿いに山を背にして建っているのが見え、あれは有料老人ホームかな、それともケアつきマンションかな、建物の日当たりはどうかな、居心地はいいのかな、良いケアがなされているのかな……などと通過する度に気になり、眺めながら描いてみる。

熱海駅では眠気もさめるような黒塗り蒸気船を擬した車両(『黒船号』)が停車しており、山側は普通の座席、海側は全席窓向きのベンチ式になっており「富士駅で乗り換えて山に行かないなら、熱海駅で乗り換えて海に行こうよ」と誘っている。

あとで見ると、自分が何を描きたかったか生々しくよみがえるのに、他人に見せるときには相当の注釈をつけないと何が描いてあるか理解が得られそうになく、注釈とどうしても結びつかない奇っ怪な抽象絵画風のものもある。が、絵はそもそも自分だけがわかれば良いのであり、そのために下手な絵には暗号化機能が備わっているともいえる。他人への伝達を意識した瞬間から絵はイラストレーションへと向かう。

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三島駅でぞろぞろと学生が乗り込んで空席に座り、沼津駅で立ち上がってぞろぞろと下車して行った。東京・清水 2 時間 54 分の旅で、この区間の学生達が特に朝の通学の足として都合がよい時間帯に巡りあっているのだろう。

【朝を食べる】

学生時代、泊まり込みのバイト先に友人にいて、朝一緒になると「モーニングを食おうぜ」とよく誘われた。


格安の「モーニングサービス」がある店をよく知っており、彼はエッグスタンドに立てられた半熟卵上部の殻を割り、食塩を振ってスプーンで掬って食べると必ず「リッチだなぁ」と嬉しそうにしていた。

Data:RICOH Caplio R1

清水駅に 8 時 14 分に着くこと自体がリッチな気がしたので、駅前近くでモーニングが食べられる店に寄ってみる。
 
大好きな『かっぱ』でモーニングが食べられる事は知っていたけれど、駅前銀座のパン屋『ボンヌール』2 階で食べるモーニングが気になったので入ってみる。


駅前銀座の土曜生ゴミ収集は入江地区などよりはるかに早朝にあるようで、商業地区のゴミ回収が優先的に行われるのかもしれなくて、眼下を作業員が走り、ゴミ収集車が追いかけて走る。

もぞもぞと動き始めた商店街を見下ろしながら生まれ故郷の「モーニング」を食べる。

 
 
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【夏を旅する】

【夏を旅する】
 
 
 

(『電脳六義園通信所』アーカイブに加筆訂正した 2005 年 7 月 2 日の日記再掲)

夏が近づくと旅をする子どもたちの姿を見て心が和む。

Data:RICOH Caplio R1

子どもに限らず大人もまた旅をするのだけれど、大人の旅は人生そのものが無限の時の流れの中で与えられた一度限りの旅に過ぎないことを知ってしまっているので、旅の中にあるもうひとつの擬似的な旅に見えて子どもほど旅らしくない。

Data:RICOH Caplio R1

いい年をしている癖に子どものように無垢な旅人に見える大人も稀におり、それはいかにも優等生的で嬉々としている発射前の宇宙飛行士たちである。旅をする子どもたちもまた宇宙飛行士に似ており、誰もみな希望で胸をいっぱいにして未知の世界を旅しているように輝いている。
 
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営団地下鉄南北線駒込駅。六義園染井門前の地下に通じる階段で倒れている男性がおり、「(大変だ、病人だ!)」とギクッとしたけれど、よく見たら階段に仰向けに寝ころんで文庫本を読んでいるおっさんであり、エアコンの効いた地下駅と明るい日ざしに満ちた地上との中間で、斜めになって頭を上にして仰向けに寝ころび、気持ち良さそうに読書をしているのだった。よく石の階段の凸凹で背中が痛くないものだと感心する。

港区赤坂7丁目。青山通りに面した高橋是清記念公園の木陰に倒れている人がおり、「(大変だ、病人だ!)」とギクッとしたが、よく見たら昼寝をしているおっさんだった。口元に耳を寄せたら心地よい寝息が聞こえてきそうであり、真夏のような炎天下で未舗装の土の上に寝ころぶのは意外に気持ちが良いのだろう。

地下鉄の階段に寝ているおっさんも、公園の木陰に寝ているおっさんも、彼らは外で寝なくてはいけないことと引き替えに、いい年になっても輝きを失わない夏の旅人である。人は家を持ち、家庭を持ち、仕事を持ち、定収入を持つことで一度限りの旅の楽しみを放棄するのかもしれなくて、戸外に横たわる人々は、宇宙飛行士よりもっと広い視点で眺めればみな自由な旅人である。

【旅の工夫】

たびたび郷里の母を見舞って下さる友人から、東京駅午前 5 時 20 分発静岡行き普通列車の存在を教えてもらった。

この電車は面白い。特急ワイドビュー東海号の車両を使用しているようで、普通列車なので白い座席カバーがつかず、清水駅 8 時 14 分着という所要時間 2 時間 54 分の鈍行であることを除いたら非常に快適だという。

8 時 26 分に静岡駅に着いたこの列車が、折り返し静岡駅 8 時 56 分発の特急ワイドビュー東海 2 号になるのではないかと友人は言う。

ということは静岡から東京まで普通列車として運行される特急ワイドビュー東海号の車両もあるのではないかと調べたら、清水駅 19 時 46 分発、東京駅 22 時 39 分着の普通列車がある。この電車は 18 時 17 分静岡駅着の特急ワイドビュー東海 3 号が白い座席カバーを外したものではないかと思え、だとしたらやはりお得な気がする。

特急ワイドビュー東海号の座席は東海道新幹線普通車の座席より遙かに座り心地がよいのである。

所要時間 2 時間 54 分がありがたい!移動書斎でのんびりとやりたいことができる!と考えられるなら、人生の旅が楽しめそうな気がするので、今日は鈍行列車の旅にしてみようかと思う。

東京駅 5 時 20 分発に間に合うためには駒込駅 4 時 49 分発山手線外回りに乗り 4 分で東京駅のホーム間を疾走する必要がある。このところ走ると良く転ぶので、安全を見て駒込駅 4 時 33 分の始発にする手もあり、そちらの方がゆったりした人生の旅に少しだけ近い気もする。

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【天の川を渡る】

【天の川を渡る】
 
 

(『電脳六義園通信所』アーカイブに加筆訂正した 2005 年 7 月 1 日の日記再掲)

静岡県清水。国道 149 号線が JR 東海道本線を跨ぐ清水橋の架け替えが半分終わり、残り半分の橋脚も姿を現し始めた。新しい清水橋の西側に歩行者用の跨線橋も設けられ、障害を持つ人の利用も考慮されて昇降用エレベーターも備えられている。

若い女性がエレベーターのボタンをポン!と押してドアが開き、透明な箱に入ってスッと上がっていくので、いつの間にか利用可能になっていることに気づいた。

Data:RICOH Caplio R1

織姫と彦星はカササギが架けた橋によって天の川を渡って会いに行くことができる。これを「鵲(かささぎ)の橋」という。

Data:RICOH Caplio R1

海側の角にある大田青果店は同級生の家で気だての良い娘さんがいた。名前は忘れたけれど銭湯があり、清水橋脇には鯛焼き屋があった。「 ♪ 笹の葉さーらさらー……」などと口ずさみながら清水橋歩道橋を渡り、右に折れ踏切を渡って清水銀座に戻る。

七夕の夜、織姫と彦星は跨線橋と踏切のどちらを渡るだろう。辛抱強い彦星は「踏切」と答え、その理由は踏切を通過する列車を見るのが好きだからで、遮断機が上がって焦れた心のバネを反動としてポン!と飛び出す感覚が嫌いではないだろう。

織姫はエレベーターのボタンをポン!と押してドアが開き、透明な箱に入ってスッと上がっていくのが好きなので跨線橋を選び、ふたりは清水七夕まつりで、なかなか巡り会えない。

Data:RICOH Caplio R1

【清水七夕まつり】

7 月 7 日(木)から 10 日(日)までは、清水駅前銀座、清水銀座、清水中央銀座協賛による第 53 回『清水七夕まつり』である。清水駅構内に一足早く七夕飾りが揺れていた。

Data:RICOH Caplio R1

岡小学校正門前、山本文具店の軒端(のきば)にもまた小さな七夕飾りがサラサラと揺れていた。

Data:RICOH Caplio R1

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