【アブセンス・オブ・マインド】

【アブセンス・オブ・マインド】

青空文庫の本棚をごそごそ探し物していたら西田幾多郎の『アブセンス・オブ・マインド』があったので読んでみた。30 字詰で表示して 2 ページほどの小品である。

「多少のアブセンス・オブ・マインドというのは、誰にもあることである。あるのが普通といってよかろう」(西田幾多郎)

absence of mind と綴って、ぼんやりしていること、放心状態、うわの空であることを言う。

2022/11/29 神田すずらん通り
DATA : PENTAX Optio RZ10 1 : 1 format

小学生時代よくそういうことがあった。学校がひけて校門 A 地点を出た記憶はあるのだけれど、自宅の玄関前 C 地点で我に返ると、その間にあったはずの経過 B の記憶がまったくない。

学校から帰ってひとり部屋の中にいて、ふと薄暗さに気づいて外を見ると夕闇が窓辺まで忍び寄っている。なにかをして過ごした数時間のあいだの記憶がまったくない。気づいた瞬間以前の記憶がひと塊り抜け落ちているのだ。

そういうときは気味が悪く「自分がいなかった」または「時間が落っこちた」という言葉が思い浮かんだ。そのあいだだけ死んでいたような気がしたのだ。数十分から数時間程度にすぎない自分や時間の消失ならいいけれど、齢をとって人生的なスケールでそれが起きたら恐ろしい。

コメント ( 0 ) | Trackback ( )

【雨滴】

【雨滴】

般若心経講話を読みながら、なるほどあのお経はこんな哲学を説いていたのかと感心しつつ、郷里の寺で聞く読経を思い出した。

ああいう節回しをつけての読経を読謡といい、木魚を叩きながら同じリズムの節回しで読む。あの節回しを雨滴曲というらしい。

雨滴曲を検索したら中国の「百度百科」がヒットしたので読んでみたら、中文名雨滴は肖邦作曲の前奏曲で、雨滴は雨だれ、肖邦はショパンだった。

そうだ、心経(しんぎょう)の教義を思い浮かべながら、ショパンの雨だれを弾いているようなつもりになって素直に唱和すればいいんだなと思う。

2022/11/26 内村鑑三記念今井館
DATA : PENTAX Optio RZ10 1 : 1 format

空襲で戦争孤児になった海老名香葉子を育て親となる三遊亭金馬に結びつけた人が『般若心経講話』を書いた友松円諦(ともまつえんたい)だったというので驚いた。

そんなこともあってか、鶴見俊輔『夢野久作』を古書で取り寄せて読んだら「あとがき」のところで泣いてしまった。本を読んで泣くのは久しぶりだ。

コメント ( 0 ) | Trackback ( )

【行住座臥】

【行住座臥】

常住坐臥(じょうじゅうざが)は行住座臥(ぎょうじゅうざが)の誤用が定着してしまった言葉で、正しいほうの行住座臥は行と住と坐と臥が一緒になっている。

行(ぎょう)はあるく、住(じゅう)はとまる、座(ざ)はすわる、臥(が)はふせることで、行住座臥は習慣、性質、行為など日常の立ち居振る舞いについて、自分が自分に折り目正しくあるためのかまえといったところだ。

2022/11/26 内村鑑三記念今井館
DATA : PENTAX Optio RZ10 1 : 1 format

とらわれのないこころであることを願って、人として正しいあり方を自分自身に問う戒(かい)であり、律(りつ)として課されるのではないあくまでも自発的なものだ。

コメント ( 0 ) | Trackback ( )

【国産クオリティ】

【国産クオリティ】

「これ、うちで使ってるやつよりいいの?」
と外で借り物を手にした妻が言うので、
「うちのは聞いたことのない名前の中国製だけど、これは国内メーカーのものだからきっと値段もいいんだろう」
と言ったら、
「Japan Quality の下に小さく Made in China って書いてあるわよ」
と妻が言う。ほんとだ!

2022/11/26 内村鑑三記念今井館
DATA : PENTAX Optio RZ10 1 : 1 format

そういえば先日スーパーで見た冷凍食品のパッケージ正面に「国産素材」と大きく書いてある冷凍フライの裏面を見たら、製造国中国と書かれていた。

コメント ( 0 ) | Trackback ( )

【きつかばい】

【きつかばい】

丸い地球の表面を歩く六本脚の甲虫は簡単に転んでひっくり返ったりしない。フラクタルとかマンデルブロとかは難しくてよくわからないけれど、平らに見える地面も丸い地球の一部としてミクロの果てまで丸いのだ。

コンクリート製のベランダ上を歩くセミやカメムシやカナブンが仰向けにひっくり返って哀れにもがいているのは、人造建造物のベランダが丸い地球の定義から逸脱して反自然的に平らだからだ。

2022/11/25 文京区本駒込
DATA : PENTAX Optio RZ10 1 : 1 format

リンレイ滑り止め床用コーティング剤のCMで、「犬のこと考えた床じゃなからんばきつかばい」と九州ことばで訴えるお股の痛い愛犬のように、防水コートされた人工地面は甲虫にとって六本脚で踏ん張っても「立っているのがきつかばい」なのだろう。

コメント ( 0 ) | Trackback ( )

【メンコとベランダ】

【メンコとベランダ】

ベランダのサンダルはなぜひっくり返るのか。朝の植木水やりに出てベランダ用のサンダルがひっくり返っていると、昨夜はずいぶん強い風が吹いたんだなと思う。

サンダル以外にひっくり返りやすいのが樹脂製の植木鉢皿で、使わなくなったものを置いておくと離れた場所でひっくり返っている。樹脂製の小さなジョロは置いた場所に平然とあるのに、身を伏せてへばりつくようにしていた皿がなぜか飛ばされてひっくり返っているのがおもしろい。

2022/11/17 豊島区立駒込東公園
DATA : PENTAX Optio RZ10 1 : 1 format

子どもの頃、メンコの達人たちはみな空気の扱いがうまくて、平らな地面とメンコのあいだに風を送り込み、空気の圧力をジャッキにしてじょうずにひっくり返しては巻き上げていた。

打ちつけるメンコの侵入角度、打ちつけるときの手のひらの面、振り抜く腕のフォロースルーが大切なのだという得意げな説明をおもしろく聞いた。空気の使い方がうまいガキ大将はみな野球もうまかった。

コメント ( 0 ) | Trackback ( )

【神智とシンチ】

【神智とシンチ】

一九世紀に西洋で起こった神智学について辞書を引いたらとなりの項目にシンチカメラがあった。シンチのカメラってなんだ?と意味を掘り進んだら正式にはシンチレーションカメラで放射線カメラのことだという。

シンチレーションは scintillation と書いて、放射線が蛍光物質に衝突したとき短時間発光する現象をいう。その短時間の発光という現象からシンチレーションには星のまたたきという意味もある。

DATA : PENTAX Optio RZ10 1 : 1 format

星がまたたくのは放射線が蛍光物質に衝突するからではなく大気による光の屈折現象なのだけれど、シンチラはラテン語源で火花( scintilla )やきらめき( scintillate )を意味する。夜空でまたたくキラキラ星はシンチラ星なのである。

コメント ( 0 ) | Trackback ( )

【折り目】

【折り目】

折り目正しくありたい。折り目正しいとは物事へのけじめがついていることだ。

けじめがついているとは、節度があるということだ。

節度あるとは適度でちょうどよくほどほどであるということだ。

世界はほどほどで黒白(こくびゃく)がつかない物事の関係でできている。

関係を無理に区別してけじめをつけると差別になる。差別されることを古くは「けじめを食う」といった。

折り目正しさとはしきい値のとり方であり、折り目とはその人にそなわった「閾(いき)」のことなのである。

DATA : PENTAX Optio RZ10 1 : 1 format

コメント ( 0 ) | Trackback ( )

【短絡】

【短絡】

週一回のピンポン練習に行くため、着換え、上履き、タオル、卓球用具などをバッグにまとめる夢が途中から、妻とふたりで銭湯に行く夢になっていた。

DATA : PENTAX Optio RZ10 1 : 1 format

ふたりで道具をかかえてどこかへ通うなどということが、新婚当時の銭湯通い以来だからだろう。自宅から体育館に向かって流れるはずの脳内電流が銭湯へと短絡したのだ。

コメント ( 0 ) | Trackback ( )

【オンデマンド】

【オンデマンド】

注文があるたびにその都度印刷・製本するオンデマンドによる本づくりをいま手伝っている。
大型の製本機能付きカラーレーザープリンタによる簡便な製本なのだろうと思っていたので、オンデマンドによる既刊出版物を見せてもらってその出来栄えにびっくりした。たぶん一般読者には従来のオフセット印刷による書籍と見分けがつかないだろう。高くなるという価格も、価格相応の内容があれば問題にならない範囲だと思う。

2022/11/19 JR駒込駅のオンデマンド記念スタンプ
DATA : PENTAX Optio RZ10 1 : 1 format

現在熟読中の友松圓諦(ともまつ・えんたい)『般若心経講話』大法輪閣も Amazon で O/D(オンデマンド)¥4,682 の値段がついている。現状を知らなかったので敬遠して古書を注文したら、あれこれあった結果タダでもらってしまった。それはそれでよかったのだけれど、現在のオンデマンド出版のクオリティがわかったので、製本状態のほころびを補修しながら読んでいるこの本がボロボロになったら、オンデマンド版を買い直してもいいかなと思っている。

コメント ( 0 ) | Trackback ( )

【人間機関説】

【人間機関説】

毎週木曜の昼休み2時間、近所の体育館で卓球遊びしている。今週は木曜日に妻の女子会があったので金曜日に変更した。

12時半に行ったら無人の貸切状態なのでチンタラ遊んでいたら、七十代後半とおぼしき女性の一団がドヤドヤとやってきて更衣室でガヤガヤと着換えゾロゾロ出てきたら全員半ズボンのユニホーム姿なので驚いた。眩しいシルバーガールズ卓球団である。

一台の卓球台を4人で使い対角線で打ち合ってダブルスの練習を始めたらロボットのように正確でひどく上手い。卓球をする生き神様である。シワシワのナマアシが眩しすぎて直視できない。

2022/11/18

神さま仏さまが人間という 〈 かんがえるひと 〉 にとって究極の意味をもつというなら、〈 神仏の意味を発生させる絡繰(からくり)〉 である 〈 かんがえるひと 〉 こそが 〈 究極の意味 〉 だろう。神仏とは 〈 かんがえるひと 〉 がつくり出す絡繰(からくり)である。

絡繰(からくり)とは禅宗の仏語でいう「機関」すなわち 〈 叱咤!・叫声!・喝!という巧妙な心への一打 〉 のことである。

巧妙な 〈 一打 〉 という絡繰(からくり)の連打が 〈 人間 〉 というかたちあるものになっている。人間発動機。だから道元も『正法眼蔵(しょうぼうげんぞう)』で「いまの生はこの機関にあり、この機関はいまの生にあり」と言っている。

コメント ( 0 ) | Trackback ( )

【記憶のリフト】

【記憶のリフト】

静岡のテレビ局からブログに掲載した賤機山リフトの写真を放送で使いたいという問い合わせがあった。掲載した写真自体についてはもちろん覚えているのだけれど、その写真をどのようにしてハーフサイズ・モノクロのネガフィルムからデータ化したかの記憶がない。

2022/11/17 有楽町線新富町駅2番出口
DATA : iPhone 5c

軽いデータはちゃんとブログ上にあるのだけれど、送ってあげたいもっとサイズの大きな元データが見つからない。仕事場に来てバックアップデータを手当たり次第に検索したけれど見つけられないので、探し物の坑道を出てその由メールに書いて送信した。

コメント ( 0 ) | Trackback ( )

【ちょっと東銀座】

【ちょっと東銀座】

雑誌『季刊清水』2014 年 47 号の表紙油絵作者である戸田吉三郎の回顧展が銀座で開かれていると教えていただいたので見に行ってきた。昼前の時間帯をねらって出かけたのだけれど、うっかり 13 時開場というのを見落としていて中に入って見ることができなかった。

2022/11/17
DATA : PENTAX Optio RZ10 1 : 1 format

あきらめて東銀座方向に歩いたら大変な行列ができている。行列の先頭にある白い暖簾はなんの店だろうと見に行ったら『八五』というラーメン屋だった。行列に外国人が多いのでミシュランガイドブックにでも載ったのだろうと検索したらやはりそうだった。

2022/11/17
DATA : PENTAX Optio RZ10 1 : 1 format

岩手県のアンテナショップで買い物をして有楽町まで歩いたらちょうど正午になり、有楽町マリオンクロック前でたくさんのひとがクリスマスバージョンになったからくり人形を見上げていた。

2022/11/17
DATA : PENTAX Optio RZ10 1 : 1 format

コメント ( 0 ) | Trackback ( )

【数字に過ぎないこと】

【数字に過ぎないこと】

大相撲秋場所で優勝した玉鷲関は、年 6 場所制になってから最年長 37 歳 10 か月での優勝だった。一年納めの九州場所初日のインタビューで、また年齢の質問かとうんざりした表情で「年齢は数字に過ぎないから関係ない」という意味の答えをしていた。「年齢は数字に過ぎない」、最近とくにそう思う。

本を読んでいてわからないこと、深く知りたいことがあると検索して、言説が確かそうな著者の本を選んで注文して読む。著者紹介を見ると自分が高校生の頃に生まれた年齢であることが多く、いまその世代が円熟し働き盛りになってよい本をどんどん書いている。

自分が大学生のころに幼児だった人の講義を今こうしてうける気持はどうかと聞かれたら、年齢なんて数字に過ぎないから関係ないと答えるだろう。玉鷲関は「若い力士がどんどん上がってくるので初顔合わせが楽しい」と言っていた。相撲自体が好きなのだ。

新潟在住で同い年の友人が干したという柿

同様に、明治の世に生まれてまだ現代的書き言葉がない時代、新しい文体と語彙をつくりながら本を残してくれた先人たちの書いたものが、いまでも古びることなく新鮮に読めることにも感心する。その後いっぱい学者が出て新しい知見も加わっているのにどうしてむかしの本など読むのかと問うことも意味がない。時代の新旧などで測れるものもまた数字的な壁面に過ぎないからだ。

コメント ( 0 ) | Trackback ( )

【音楽の泉】

【音楽の泉】

高神覚昇(たかがみ・かくしょう)の著書を読んだらとても面白く、ともにラジオで活躍した友松円諦(ともまつ・えんたい)も読んでみたくなった。そのきっかけは坂本慎一『ラジオの戦争責任』 PHP 新書を読んだからで、「第二章 時代の寵児 友松圓諦」に続いて「第五章 玉音放送の仕掛け人 下村宏」を読んで下村海南(宏)『終戦秘史』講談社学術文庫を注文した。今月末発売の『季刊清水』にラジオにまつわる原稿を書かせていただいたこともあり、昭和という時代におけるラジオのあり方について認識を新たにしている。

2022年11月13日
DATA : PENTAX Optio RZ10 1 : 1 format

11 月 13 日日曜日の朝、仕事場に来て窓際に置いたラジオのスイッチを入れたら、シューベルト作曲「楽興の時第 3 番ヘ短調( D.780-3 )」が流れ、この曲を聴くたびに記憶の底から懐かしさが込み上げるのは、そうか NHK 第一放送の音楽番組『音楽の泉』のテーマ曲だったのかと気づいた。放送は日曜日なので、テレビがやってくる前の幼いころ、休日に家でゴロゴロしているとラジオからこのメロディが聞こえたのだろう。放送が開始されたのは 昭和 24 年 9 月 11 日だという。

コメント ( 2 ) | Trackback ( )
« 前ページ