【焚暦】

2020年11月30日

【焚暦】

家事の場である住まいには、連れ合いの希望により台所やトイレに小さなカレンダーがかかっている。台所のカレンダーはマグネットで冷蔵庫に貼られており、食品の賞味期限を見ながら献立の予定を立てるのだという。男にとって台所はともかく、トイレのカレンダーは確かにあると便利なもので、狭い個室に閉じこもる経験下でしか持ち得ない感慨で、あらためて暦を見わたすことができる。日曜日始まりの小さなカレンダーが 11 月の晦(つごもり)となり、12 月が 11 月 29 日から始まっているので、一日早く 12 月をひらいた。

最後のページになった。今年はたいへんな一年だった。
クルーズ船ダイアモンドプリンセス号が横浜港に帰港したのが 2 月 3 日、その前、1 月 25 日に香港で下船した乗客が新型コロナウイルス陽性であることが確認されたのも 2 月 3 日、その後、あれよあれよという間に感染が世界中に広がってパンデミックになった。安倍晋三首相が、改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく初の「緊急事態宣言」を発令したのが 4 月 7 日で、国内で感染者が確認されてからすでに 3 カ月たった後のことだった。

焚書(ふんしょ)があるのだから、家々からその年の暦を持ち寄って焚き上げる、焚暦(ふんれき)の行事があってもいいのではないかと調べたけれど見当たらない。暦を燃やしても逝ってしまった人々は帰らないという意味で、起きてしまったことを無かったことにはできないわけで、あったことを無かったことにしたい権力者が参列する政治色の強いものになるかもしれない。

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【るる】

2020年11月29日

【るる】

著名な理学療法士 M 氏は「一番好きなハンバーガーはドムドム」、「一番好きな風邪薬はルル」だと言う。最近テレビを見ていたらドムドムのハンバーガーに熱烈なファンがいると知ったので理解したことにして、なんでルルが一番好きなのかはわからない。

子守唄ララバイは「Lullaby」と書き、Lull は落ち着かせたり、あやしたりすることなので、ずばり Lull で「ルル」なのだろう。なーるほど、いい名前だ。

家人と飲んで酔っ払うと「読めるけど書けない文字」を書きあって大笑いする。翌朝、酔いが覚めて落書きを見ると、とんでもない図形が書かれているのでもっと笑える。

読んでいる本に縷言が出てきて、縷々が「るる」と読めるので「るげん」と読めるけれど、たぶん書けない。「いとへんにハエみたいな字」とか言いながらとんでもない字を書きそうなので今度出題してみる。

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【神様のゴミ袋】

2020年11月28日

【神様のゴミ袋】

マンションのゴミ集積場に捨てられるポリ袋入りのゴミ。分別方法が守られていないと、清掃作業員さんから注意喚起の張り紙が掲示される。

住民側からも、分別規則の解釈に迷うと「サザエとアワビとカキの貝殻です。燃える?燃えない?」などと油性インクで書かれた袋が置かれる。作業中の怪我がないよう「割れた陶磁器です」とか「ガラス破片につき注意」とか気づかいのメッセージが書かれている。

今朝ゴミ出ししたら「神様のゴミ袋」と大書された袋が出されていた。腕組みして「うーーーん」と考えたが答えが見つからない。清掃作業員さんにはどういうメッセージが伝わるだろう。

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【おわりのし】

2020年11月28日

【おわりのし】

保育現場の保育事例を読んでいたら、言い争いをする園児のようすがいきいきと保育士の日記にあり、最近の園児はこんなにしっかりした意見を言うのかと感心した。

園児の語調にしっかり地域性がでていて、関西方面のその事例では終助詞として「し」を使って「ちがうし」などと言う。関西では現代っ子もそういうことばづかいをするのだな、とほっこりした。

並列をあらわす「し」、たとえば「寒いし、眠いし、気力はないし…」といった使い方ではなく、文末に「し」がつけられた「ちがうし」は「ちがうよ。」と主張をしめくくっている。終助詞の「し」は煮え切らない感じのする「し」とはちがうのだ。それでしっかりした園児だな、と感じたのだろう。

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【こまごめこがもめこげたまご】

2020年11月27日

【こまごめこがもめこげたまご】

「したつづみ」を「したづつみ」、「ちゃがま」を「ちゃまが」と言ってしまう現象を音位転換とか語音転倒、メタセシス(Metathesis)という。そういう現象の例として「こまごめ」と「こがもめ」があげられていて笑ってしまう。「g 」と「m」の音変換の例にちょうどよいのだろう。地元なのでくすぐったい。

駒込駅まで歩くときは「こまごめこまむぎこまたまご」と自作の早口言葉を転がして遊んでいるけれど、「こまごめこがもめこげたまご」も加えよう。「こがもめ」の転倒は「小カモメ」や「子カモメ」の呼び名に親しいと起こりやすいかもしれない。

子どもの頃は甘い卵焼きが好きで、卵をとくとき砂糖を入れるので、焼いているうちにすぐに焦げた。最近はもっぱら酒のつまみのだし巻き卵なので「こげたまご」をつくらなくなった。友人夫婦を清水の古い寿司屋に連れて行ったら、奥さんが焦げた卵焼きを見て「うなぎですか?」と言った事件を、最近ご亭主と思い出して笑った。

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【レストランと数字】

2020年11月26日

【レストランと数字】

語源について検索していたら、「語源を楽しむ」と題して、たいへんおもしろいことを書かれている方がいて J-STAGE(科学技術情報発信・流通総合システム)に公開されていた。

「語源を楽しむ」

レストランの語源の話では「ストレス」と「食事」の関係から、「孤立へのひきこもり」と「群衆へのひきこもり」、「収束」と「拡散」、「stay home」と「go to」、鏡像的同義のようなことを脱線して考えた。

数記号の謎解きでは、古代中国で「無限は角のない正方形である」と言うことを思い出し、角の「ある」「なし」で論ずるなら、角のない数記号だから「0」なのか!と膝を打った。ゼロを加えるとインドっぽい。朝からおもしろい。

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【インド空軍飛行隊】

2020年11月25日

【インド空軍飛行隊】

8 階仕事場の窓辺で仕事をしていると、上空から現れた鳥たちがみごとな編隊飛行で、降下しながら前方の森に吸い込まれていく後ろ姿を見る。

ハトより大きくカラスより小さいその鳥は、長い尾羽を持ち、鮮やかな黄緑色をし、聴き慣れない怪しい声で鳴き、統制のとれた蒼い矢のように、颯爽と都会の冬空を飛行する。インド原産のワカケホンセイインコという鳥で、ペットとして持ち込まれたものが野生化しているらしい。

四半世紀前に暮らしていた文京区千駄木で、怪しい鳴き声に驚いて外を見たら、いかにも南方系のこの鳥が木の梢にとまって鳴いており、かわいそうに日本の寒さの中にとび出て長くは生きられまいと思った。

それが今では数百羽の群れに分かれ、東京近郊のあちこちで生息しているという。犬や猫より長命で三十年も生きるそうなので、四半世紀前に千駄木で見かけた個体が長老となって群れを率い、六義園にねぐらを移してきた可能性もあるわけだ。

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【カーチーフ】

2020年11月24日

【カーチーフ】

知らないことに出会うと嬉しい。そんなことも知らなかったの? と他人に言われて恥ずかしく思うこともなくなった。そんなことも知らなかったの? と言われると、そんなことも知らずに生きてこられた奇跡をただただ喜んでいる。

広瀬正を読んでいたら
「いいものを使ってあるので紺の地色はあせていなかったが、赤いカーチーフが黄色に変色していた」
と書かれており、そうか、ハンカチーフという言葉を分解するとハンドとカーチーフというものが別個にあるのだなと初めて知った。新たな洞窟発見。

そのカーチーフってなんだろうと辞書を引いたら
「主に頭を覆うのに使われる、正方形の大きな布。主にヨーロッパの女性が使い、農民の民族衣装によく現れる。語源は cover chief(頭を覆う)に相当するノルマン語の courchef で、この場合の chief (chef)は現代英語とは違い『頭』を意味する。」
と書かれていた。頭ではなく、手だとハンカチーフ(handkerchief)、首だとネッカチーフ (neckerchief)になるわけだ。なるほど。

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【同姓同名】

2020年11月24日

【同姓同名】

録画しておいた『NHKスペシャル ドラマ こもりびと』を観た。よい番組だった。

未明に目が覚めて、ちょっと本を読んだら「同姓同名」の文字が妙に懐かしく見えた。

自分の子ども時代は、学年にひと組ぐらいは同姓同名さんがいた。出生率が低下し、子どもの名前に読めない奇抜な文字づかいが増えたので、「同姓同名」はいずれ死語になるのかもしれない。

奇抜な名前が増え、奇抜なハンドルネームが増え、奇抜さの裏側に暗黒の匿名性、いつでもどこでも名無しさんの虚空が広がっている。過剰な個性を装って自分を覆い隠す無個性。多くの人間が責任の問えない匿名の宇宙に引きこもっていて、引きこもっているのは、じっと耐えている「こもりびと」ではなく社会自体の方であるような気がする。

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【あずき味の飴】

2020年11月23日

【あずき味の飴】

調剤薬局で血圧の薬が用意されるのを待っていたらレジ脇に『機能性表示食品 特濃ミルク8.2 あずきミルク』という飴があり、「血圧が高めの方に」と大書されている。あずきに血圧降下作用があるのかと驚き、買ってきて舐めたらおいしい。血圧はともかく、あずきの飴が妙においしい。

世の中には他にもあずきの飴があるのだろうかと調べたら、同じ UHA 味覚糖に『北海道産大納言あずきを使用したほっこり和風キャンディ 塩あずき』というのがある。はて奇妙な。

血圧降下作用のあるあずき飴に塩など加えたら、血圧降下と血圧上昇の効果が相殺されてしまうのではないかと不思議に思って『機能性表示食品 特濃ミルク8.2 あずきミルク』の能書きをよく読んだら、配合された GABA(ギャバ=ガンマ-アミノ酪酸  Gamma-AminButyric Acid )に降圧作用があるらしい。GABA(ギャバ)を配合することにより文字表示で機能性がうたえるということなのだろう。

とはいえネット上には、発芽あずきは白米の 57 倍もの GABA(ギャバ)を含むなどという記事もある。ともかくあずきは GABA(ギャバ)を含むわけで、ノーベル製菓に『これぞ納得 濃いあずき味 俺のミルク 北海道あずき』というのがあるので買って舐めてみたらこれもおいしい。血圧のことはもうどうでもよくて、ともかくあずき味の飴はみんなおいしい。

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【勤労感謝の日と段ボールふた箱】

2020年11月23日

【勤労感謝の日と段ボールふた箱】

ドイツの精神医学の研究家クルト・シュナイダー(Kurt Schneider 1887 - 1967 )は、
「人間がしばしば不安を持つことよりも、むしろ人間が大部分不安を持たずに過ごすことのほうが説明を要する」
と言った。

日本の精神科神経科医森田正馬(もりた まさたけ 1874 - 1938 )は、
「人間の心は、風船玉のように、いつもふわふわただよっているのが自然であると思う。空中をただよっている方が風船玉にとっては安定である。風が吹いても、風の吹くままに流されているからなかなか破れない」
と言った。

どちらも実にうまく大事なことについて言っている。なんども読み返している。


読んでしまって再読はしないだろうと思う本、買ってみたものの途中で投げ出してしまった本、読んでみるべきだとは思うけれどそういう時間の余裕はないだろうと思う本、別な人が書いた本を読んだあとでは読む気がしなくなった本、もらったものの始末に困る本、誰か読みたい人がいるんじゃないかと思うマイナーな本、などなどを整理したら本棚が片付きそうなので、段ボール箱にまとめるとふた箱になった。もうすぐ業者が取りに来る。

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【新しい Mac OS で読めなくなった古い CD-ROM を読む】

2020年11月22日

【新しい Mac OS で読めなくなった古い CD-ROM を読む】

仕事で使用している mac のシステムは macOS  11.0.1 Big Sur になっていて、古いデータを入れた CD-R で読めないものがある。古い Mac で焼いたずいぶん昔のものなので、メディアが希薄化して読み取り不能になったのだろうと思い、寿命なら仕方ないと諦めていた。ところがもっと新しい 2005 年発売の書籍に付属している市販 CD-ROM にも読めないものがあるので、おかしいなと思って調べてみた。

その書籍の版元にも問い合わせがあったようで
「2016年にリリースされたMac用OS『macOS 10.12 Sierra』では、『Mac OS標準フォーマット(HFS)』のサポートを終了したため、そのままでは『Mac標準(HFS)』形式のディスクが読み込めなくなりました」
と書かれている。なるほど。

本棚で埃をかぶっている MacBook Pro は CD ドライブ内蔵の古い機種なので、電源を入れて起動してみたらシステムは OS  10.13.6 High Sierra になっている。ということは版元の情報にある macOS 10.12 Sierra 以降のバージョンなので、当然ダメかと試したらちゃんとマウントされて読むことができる。ということは macOS 10.12 Sierra は macOS  10.13.6 High Sierra になる時点で、Mac OS 標準フォーマット(HFS)のパーティションで作成された CD-ROM が読めるように修正されたのだろうか。

そう思って、つれあいが使っている mac に読めない CD-ROM を入れてみるとやはりマウントできないので読めなくて、バージョンは不思議なことに macOS 10.13.6 High Sierra になっている。ということは、CD ドライブ内蔵の mac は、なぜか macOS 10.12 Sierra 以降も HFS パーティションで作成された CD-ROM を読めるということだろうか。そうかもしれん。よくわからないけれど助かった、という腰砕けのメモ。

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【アップデート前に帰る方法】

2020年11月22日

【アップデート前に帰る方法】

使い方に癖があってとっつきにくく、しかも不具合が多くて騙し騙し使わなくてはいけないような道具、そういう道具に親しんでしまうとなかなか離れられなくなる。子どもと玩具の関係にもそういうところがある。人と物との共依存。

Android で仕事の必需品になっているアプリがひとつある。某京都大学名誉教授にもその道具を使って「ささっ」と雑誌連載原稿の挿絵を描いてさしあげている。手足の一部のように親しんだもので仕事をするのは苦にならないので、ずっと楽しんでやっている。

ひじょうにクセのあるアプリだけれど、使いこなしに習熟してしまったので、それなしの作業は考えられず、ソフト名を「Inker」という。めずらしく数年ぶりにアップデートがあったので実行したら、描いた絵を SVG や EPS のベクトルデータで保存することができなくなった。アップデートで新たな不具合を孕んでしまったのだろう。これは困る。それなしでは仕事のできない身体になっている。

代替になるソフトが考えられないくらい好きなので、落胆して考え込んでいたら、古い Android タブレットに使わなくなった日のまま、旧バージョンがインストールしてあったのを思い出し、APK で抜き出して再インストールした。復元成功。手足が元の身体に戻ったような気がし、今月号の挿絵も描き終え、ほっと胸を撫で下ろす姿を他人が見たらひどくおかしいだろう。

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【友と友の間】

2020年11月21日

【友と友の間】

午後の散歩で寄った田端文士村記念館企画展『文士たちのアオハル~芥川龍之介と田端の雑誌~』の展示で菊池寛が面白くて、写真を見たら意外にもピンポンが好きだったらしい。

彼の書いた『友と友の間』という本を初めて知った。読んでみたくなったので検索したら、書き込みのあるボロボロの古書を複写したものが国立国会図書館のアーカイブとして公開されている。ダウンロードして読み始めた。

誰が所蔵していた原本か知らないけれど、要所要所に書き込みがあり、実名を避けた箇所にわざわざタネ明かしがされていて、おやおやと思いながらもありがたい。読みにくいこと甚だしいのでちびちび読んでいるけれど、こういう夏目漱石観は初めて読んだ。菊池寛も好きになるかもしれない。漱石を通じて虚子や三重吉を好きになったように。

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【赤字のこころ】

2020年11月21日

【赤字のこころ】

午後の散歩で田端文士村記念館に行き、企画展『文士たちのアオハル~芥川龍之介と田端の雑誌~』の展示を見てきた。

児童雑誌『赤い鳥』を創刊した鈴木三重吉は、誰の原稿にもどんどん手を入れる人だったそうで、赤字の入った芥川龍之介『蜘蛛の糸』の原稿展示がとくに面白かった。

子どものころ、『杜子春』とともに読んで感動した『蜘蛛の糸』はまさに三重吉の赤字が入ったほうの文章だったように思え、その「かなづかい」と「丁寧体」が、おだやかで聖なる諦観に満ちた世界を創り出し、子どもだった自分のこころに忘れえぬ記憶を残したのだった。新美南吉も小川未明も、話の内容より、そういうやさしい語り口が聞きたくて好きだったのだ。

kindle 版や青空文庫で読める『蜘蛛の糸』は三重吉の赤字が入らない原稿ママのほうらしく、自分が幼いころに読んだものとは肌ざわりが違う。ネット検索したら『くもの糸・杜子春』赤い鳥名作童話 2 という単行本があり、自分が読んだのはこっちの方だったのではないかと思うので確かめたくて注文した。

文士村記念館の展示は撮影禁止なのでメモを取りながらガラスに顔を近づけて見てきたけれど、三重吉の入れた「赤字のこころ」が、どうやら自分はひどく好きなのだ。

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