酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「キャプテン・フィリップス」に覚えた苦い後味

2014-01-14 22:42:56 | 映画、ドラマ
 安倍首相の〝大親分〟こと森元首相の東京五輪組織委会長就任が決定した。<五輪利権絡みで検察を動かし猪瀬失脚を実現した安倍政権>と記した前稿の枕は的外れではなかったようだ。一方で〝師匠〟の小泉元首相は都知事選で細川元首相を担ぎ、政権に牙をむいた。

 細川―小泉コンビのインパクトと比べたら、前回97万票を集めた宇都宮健児氏でさえかすんでしまう。「反原発票が割れるから、泡沫候補は降りるべき」と考える人もいるだろう。一方で<護憲、格差といったリトマス紙で判定したら、小泉氏が推す候補には絶対に入れない>という声もある。

 俺と同じく後者に属する知人が先ほど電話を掛けてきた。「おまえとこの新聞(夕刊紙)に評論家が書いてたけど、小泉が目指すのは細川勝利ではなく、脱原発のうねりを起こして安倍政権を揺さぶることか」と尋ねてくる。小泉氏の本音など俺が知る由はない。

 宇都宮氏にとって余計なのが共産党の推薦だ。宇都宮氏が代表世話人を務めている脱原発法制定の賛同者に、共産党議員の名はない。「反差別法」の立法化を目指す有田芳生議員に対しも、共産党は協力的とはいえない。自らがヘゲモニーを握らない運動には冷ややかという不治の病に、共産党は罹っている。

 桎梏を抱えながら、宇都宮氏を草の根的に支援するグループは多い。キックオフ集会(9日)は立ち見が出る盛況で、坂本龍一がメッセージを送り、石川セリが登壇する。坂本に加え沢田研二、菅原文太ら脱原発、護憲を訴える著名人が宇都宮氏と共に街頭に立てば空気は変わる。俺が期待しているのは、小泉氏並みの発信力を誇る三宅洋平氏(緑の党)だ。三宅氏は名護市長選と都知事選を、<3年後に政治状況をひっくり返す>ための一里塚と位置付けている。

 さて、ようやく本題。封切り終了直前の「キャプテン・フィリップス」(13年、ポール・グリーングラス監督)を有楽町で見た。世評の高い作品で、これから数々の受賞の報が届くかもしれないが、俺の正直な感想は〝肩透かし〟で、苦い後味が残る作品だった。

 実際に起きた海賊による「マークス・アラバマ号」乗っ取り事件(09年)をベースに製作された作品で、トム・ハンクスが抑え気味にフィリップスを演じている。ドキュメンタリータッチで、若者4人が乗り込むまでの経緯を丁寧に描いていた。

 同じくソマリアを起点に描いた「未来を生きる君たち」(10年、スサンネ・ビア監督)と比べると、高邁な意志と俯瞰の視点が欠けていた。「未来――」では貧困の後景に、グローバリズムと常任理事国の武器輸出を捉えていた。もうひとつの舞台であるデンマークとソマリアは、<天国と地獄>として対比されるのではなく、同じ根が張る世界の別の貌として描かれていた。

 俺が本作に期待したのは、フィリップスと4人の若者、とりわけリーダー格ムセ(バーカット・アブディ)との間に生じる、世代や生まれを超えたケミストリーだった。暴力的な傾向が強いムセだが、英語を話し、フィリップスとの折衝役になる。彼は富めるアメリカに強い憧れを抱いていた。

 本作に重なったのが、先日起きた容疑者逃走事件だ。言い逃れようのない警察の失態だったが、「マークス・アラバマ号」に起きたことも初動のミスである。フィリップスは関連機関に繰り返しSOSを発信するが、ナシのつぶてで、不慣れな海賊たちに船を支配されてしまう。フィリップスが連れ去られてから事態は急転し、最先端の技術を誇る米軍が救命ボートを取り囲む。物量の絶対的な差に若者たちは恐怖と絶望に苛まれ、フィリップスの目に傲岸と憐憫が宿り始めた。

 アメリカを筆頭に先進国に搾取され、部族長や〝将軍〟にも、代わりが無数にいる駒として扱われる。冷徹で残酷な世界の構図は最貧国ソマリアで鮮明だが、日本だって無縁ではない。リストラに成功した会社の株価が上がったというニュースを、我々は何の感慨もなく、当然のように受け止めている。
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