酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「ファルージャ」が突き付ける罪の形

2014-01-08 23:48:32 | 映画、ドラマ
 毎日チェックしている天木直人氏(元外交官)のブログで、3日付東京新聞の記事が紹介されていた。神奈川県在住の女性が「憲法9条にノーベル平和賞を」と呼びかけ、集めた署名をノーベル委員会に送った。「抽象的なものは無理」との返答を受け、<9条を保持している日本国民>を候補に据える。国会議員や大学学長が推薦人に名を連ね始めているという。崇高な9条、そして日本国憲法の精神を守るための最良の方策と天木氏は期待を寄せている。

 仕事先の先輩Yさんが前稿のコメント欄に、衝撃の事実を貼り付けてくれた。ロシア大統領府が「福島第一原発地下で核爆発が起き、深刻な状況に陥っている」との政府令を大晦日に出し、関係機関に注意を喚起した。ル・モンドは大きく報道しているが、日本のメディアは一切触れない。原発セールスマンこと安倍首相は今月も外遊スケジュールがぎっしりだが、放射能逃れが目的かと勘繰りたくなる。

 映画担当記者に宣材用DVDを借り、「ファルージャ~イラク戦争 日本人人質事件……そして」(13年、伊藤めぐみ)を見た。04年にイラクで起きた日本人人質事件の当事者3人のうち、今井紀明さんと高遠菜穂子さんのその後に迫ったドキュメンタリーである。歪曲された当時の報道の残滓は、ウィキペディアの目を覆うような記述に表れている。

 外交下手の日本では、権力側との一元外交のみが〝正義〟になる。イラク民衆に寄り添うNGOの一員だった今井さんと高遠さんが、自衛隊撤退を要求するグループに誘拐されるという事態に、小泉首相、福田官房長官、小池環境相らから<自己責任>を追及する声が上がる。呼応したメディアは〝抗議が殺到〟という論調で報道した。

 事実はどうだったか。下村健一氏は北海道東京事務所に届いたファクスのうち抗議が500通、励ましが800通だったと証言している。今井さんが保存している手紙も、激励の方が明らかに多い。だが、誹謗中傷はやまず、今井さんは肉体的な暴力にも晒された。今井さんたちが成田空港に降り立った際、彼らを攻撃するプラカードで出迎えたのが後に在特会を結成するグループだったと、安田浩一氏は語っている。日本の空気を大きく変えた事件だった。

 今井さんはひきこもりなどで通信制高校に通う若者を支援するNPOを立ち上げた。一方の高遠さんは組織に属さず、イラクで医療活動に携わっている。対人恐怖症やPTSDに苦しみながら、<自己責任>という言葉に向き合う10年だった。この間、明らかになったのは<大量破壊兵器はイラクに存在せず、フセインはアルカイダと無関係だった>こと。侵攻を踏み切ったブッシュ前大統領、自衛隊を派遣した小泉元首相は責任を回避した。

 アメリカの無差別爆撃で亡くなったイラク人は、調査元によって異なるが12万~19万人とされる。第2次大戦時の東京やドレスデンの惨状は今も語り継がれているが、当時と比べ技術が飛躍的に進歩し、ピンポイントで軍事施設や政府関連施設を攻撃出来る。アメリカはなぜ、多数の一般人を殺戮したのだろう。

 ファルージャ虐殺の遺体から、劣化ウラン弾を含む特殊な爆弾が使用されたことが窺われる。大量破壊兵器を用いたのは実はアメリカで、ファルージャ周辺では先天異常を持って生まれてくる子供が後を絶たない。その姿を直視した俺は、自分の罪が形になっていると感じた。自衛隊派遣に反対なのに黙認した罪、侵攻がもたらした惨禍を知らなかった無知の罪……。子供たちの姿は、俺を鋭く抉った。

 今井さんと高遠さん、そしてイラクで子供たちの診察に当たる日本人医師、高遠さんとともに広島と沖縄を訪ねたイラク人ジャーナリスト……。罪深い俺と対照的に、高邁な意志を持つ者が数多く登場する。本作のような良質なドキュメンタリーも、秘密保護法で絶滅の危機に瀕しているという。

 アメリカが据えたシーア派の政権とスンニ派が血みどろの抗争を展開し、侵攻時は影も形もなかったアルカイダが、今やファルージャを支配している。そういえば、アフガニスタンでアルカイダを育んだのはアメリカだった。その事実が符合のように脳裏をかすめる。
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