細川元首相が「脱原発」を掲げ都知事選に立候補する意思を固めた。五輪利権絡みで検察を動かし猪瀬失脚を実現した安倍政権にとって、藪蛇の事態になった。舛添相乗りから細川支持と、一夜で豹変した民主党に愕然とする。原発再稼働、TPP参加、消費税アップ、弱者切り捨てと、野田政権は地均しに徹して安倍政権にバトンを渡した。そんな民主党に脱原発を主張する資格はない。
細川氏を支援する小泉氏は首相在任時、日本の空気を大きく変えた。前稿で紹介した「ファルージャ」はイラク日本人人質事件に焦点を当て、当事者のその後に迫っていた。小泉氏が高らかに叫んだ<自己責任>はたちまち社会に蔓延する。成田に降り立った人質を罵声で出迎えたのが、在特会の原型というべきグループだった。
在特会に対抗するため昨年9月、辛淑玉氏の呼びかけで「のりこえねっと」が結成された。軌を一に出版された「ヘイトスピーチとたたかう!」(有田芳生著、岩波書店)を遅ればせながら読了する。有田参院議員の指摘は極めて真っ当と感じたが、自分なりに咀嚼して以下に記したい。
「のりこえねっと」共同代表である河野義行氏は、松本サリン事件の被害者でありながら犯人扱いされ、誹謗中傷の餌食になった。ヘイトスピーチの実態を知った河野氏の目に、<在特会=匿名の攻撃者、在日韓国・朝鮮人=当時の自分>と映ったようだ。
差別を露骨に表現するスピーチやネットへの書き込みを法で規制するか否かで、意見が異なる。規制しなければ司法の判断に委ねることになるが、在特会のデモを警察が守っているという指摘もあり、権力に阿りがちな司法や警察の姿勢を危惧する声もある。
有田氏は立法化を訴え、他の議員に働きかけている。拡大解釈される危険性も承知の上だが、規制する法律は必要ではないか。麻生副総理の「ナチスに倣え」発言、特定秘密保護法、安倍首相の靖国参拝に対し、世界で〝日本異質論〟が浮上している。言論の自由と反差別を調和させる法律を作ることが、グローバルスタンダードを獲得するためのひとつの道筋になると思う。
俺がヘイトスピーチを論じるのは無理がある。多様性と寛容に価値を見いだすファジーな日本人の典型だからだ。「ヘイト」の裏側には常に強いラブが存在するが、在特会支持者にとって対象は<日本>に相違ない。俺はアイデンティティー拒否症候群で、国であれ会社であれ学校であれ、帰属するものに距離を置いてしまう。水平思考に徹しているから、上から目線での否定とも無縁だ。
総選挙直前の一昨年12月、俺は有楽町で安倍支持集会に遭遇した。排外主義的なプラカードが林立し、中韓を批判するアピールが相次いだ。自民圧勝は確実な情勢で、暗澹たる気分になった。と当時に、ある疑問が頭をもたげた。安倍首相は以前から軍備だけでなく〝強い日本〟を主張しているが、排外主義は桎梏になるのではないかと……。
CIAの元日本分析官は「少子高齢化の日本が強くなるのは不可能」と断じていた。現在の日本を五木寛之は「下山の季節」と評していた。高坂勝氏(緑の党共同代表)の言葉を借りれば「ダウンシフターの時代」である。日本を唯一強くする手段があるとすれば、移民の受け入れだと思う。村上龍の「歌うクジラ」にも登場したが、〝移民による日本軍〟まで想定しないと、安倍首相の夢は実現しないだろう。
「探検バクモン」(NHK)で爆笑問題が大久保を訪ねていた。在特会が練り歩いた一帯は2万2000人中8000人が外国人という国際色豊かな街で、彼らの差別的な言動はアジア、アフリカ、イスラム圏にも発信されたはずだ。
女性やアジアの人々への侮蔑発言を繰り返した日本維新の会の石原共同代表、党総務会で差別をあらわにした麻生副総理も、心情的に在特会と近い。政治家をも規制し罰するような形で反差別法が成立することを願う。
枕で記した都知事選だが、反貧困ネットワークの一員である俺は、もちろん宇都宮健児代表を応援する。宇都宮氏は「のりこえねっと」共同代表のひとりでもあり、本書にはヘイトスピーチ批判で攻撃に晒された有田氏に手を差し伸べたエピソードが紹介されていた。都知事選が政治ショーになることは確実だが、護憲、弱者への思い、脱原発を総合的に考えれば、適任者は宇都宮氏以外、見当たらない。
細川氏を支援する小泉氏は首相在任時、日本の空気を大きく変えた。前稿で紹介した「ファルージャ」はイラク日本人人質事件に焦点を当て、当事者のその後に迫っていた。小泉氏が高らかに叫んだ<自己責任>はたちまち社会に蔓延する。成田に降り立った人質を罵声で出迎えたのが、在特会の原型というべきグループだった。
在特会に対抗するため昨年9月、辛淑玉氏の呼びかけで「のりこえねっと」が結成された。軌を一に出版された「ヘイトスピーチとたたかう!」(有田芳生著、岩波書店)を遅ればせながら読了する。有田参院議員の指摘は極めて真っ当と感じたが、自分なりに咀嚼して以下に記したい。
「のりこえねっと」共同代表である河野義行氏は、松本サリン事件の被害者でありながら犯人扱いされ、誹謗中傷の餌食になった。ヘイトスピーチの実態を知った河野氏の目に、<在特会=匿名の攻撃者、在日韓国・朝鮮人=当時の自分>と映ったようだ。
差別を露骨に表現するスピーチやネットへの書き込みを法で規制するか否かで、意見が異なる。規制しなければ司法の判断に委ねることになるが、在特会のデモを警察が守っているという指摘もあり、権力に阿りがちな司法や警察の姿勢を危惧する声もある。
有田氏は立法化を訴え、他の議員に働きかけている。拡大解釈される危険性も承知の上だが、規制する法律は必要ではないか。麻生副総理の「ナチスに倣え」発言、特定秘密保護法、安倍首相の靖国参拝に対し、世界で〝日本異質論〟が浮上している。言論の自由と反差別を調和させる法律を作ることが、グローバルスタンダードを獲得するためのひとつの道筋になると思う。
俺がヘイトスピーチを論じるのは無理がある。多様性と寛容に価値を見いだすファジーな日本人の典型だからだ。「ヘイト」の裏側には常に強いラブが存在するが、在特会支持者にとって対象は<日本>に相違ない。俺はアイデンティティー拒否症候群で、国であれ会社であれ学校であれ、帰属するものに距離を置いてしまう。水平思考に徹しているから、上から目線での否定とも無縁だ。
総選挙直前の一昨年12月、俺は有楽町で安倍支持集会に遭遇した。排外主義的なプラカードが林立し、中韓を批判するアピールが相次いだ。自民圧勝は確実な情勢で、暗澹たる気分になった。と当時に、ある疑問が頭をもたげた。安倍首相は以前から軍備だけでなく〝強い日本〟を主張しているが、排外主義は桎梏になるのではないかと……。
CIAの元日本分析官は「少子高齢化の日本が強くなるのは不可能」と断じていた。現在の日本を五木寛之は「下山の季節」と評していた。高坂勝氏(緑の党共同代表)の言葉を借りれば「ダウンシフターの時代」である。日本を唯一強くする手段があるとすれば、移民の受け入れだと思う。村上龍の「歌うクジラ」にも登場したが、〝移民による日本軍〟まで想定しないと、安倍首相の夢は実現しないだろう。
「探検バクモン」(NHK)で爆笑問題が大久保を訪ねていた。在特会が練り歩いた一帯は2万2000人中8000人が外国人という国際色豊かな街で、彼らの差別的な言動はアジア、アフリカ、イスラム圏にも発信されたはずだ。
女性やアジアの人々への侮蔑発言を繰り返した日本維新の会の石原共同代表、党総務会で差別をあらわにした麻生副総理も、心情的に在特会と近い。政治家をも規制し罰するような形で反差別法が成立することを願う。
枕で記した都知事選だが、反貧困ネットワークの一員である俺は、もちろん宇都宮健児代表を応援する。宇都宮氏は「のりこえねっと」共同代表のひとりでもあり、本書にはヘイトスピーチ批判で攻撃に晒された有田氏に手を差し伸べたエピソードが紹介されていた。都知事選が政治ショーになることは確実だが、護憲、弱者への思い、脱原発を総合的に考えれば、適任者は宇都宮氏以外、見当たらない。