酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「孤独な破壊者」~小泉人気を支えたイメージとは

2006-09-27 01:01:22 | 社会、政治
 小泉純一郎氏の肩書が前首相になった。タカ派、身内、論功行賞の安倍新内閣でアジア外交が改善されるのか不安を覚える。

 最近気になるのは、<小泉⇒安倍>のブレーキ役として中曽根元首相を持ち上げる傾向だ。洞察力は認めざるをえないが、変わり身の早さで「風見鶏」と評され、清廉と対極に位置する政治家だった。<日本社会の地盤は粘土から砂に変質し、ポピュリズムに規定されたナショナリズムに流されている>という趣旨の中曽根氏の分析が「ニュース23」で紹介されていたが、今日の政治の本質を穿っていることは確かだ。

 ポピュリズムについて議論されているが、小泉人気の理由について納得いく答えが提示されていない。マッド・アマノ氏は小泉首相の最後の訪米の様子に、<変人から愛人へ>と題したパロディーを作成した。一国の指導者が他国首脳の前で「ラブ・ミー・テンダー(優しく愛して)」と歌うなど醜態としか言いようがないが、支持率は落ちなかった。<恥>や<矜持>はこの国で死語になったらしい。

 <砂社会>になったからこそ人々は<絆>に幻想を抱きがちだが、小泉氏は情と無縁だ。家族はタブーで、「理想の父」「理想の上司」「理想の友」と程遠い冷徹な人間であることは、国民は承知の上だった。青木氏との関係は辛うじて保ったが、盟友の山崎氏や加藤氏を切り捨て、昵懇だった綿貫氏や野田氏も<抵抗勢力>と一括りにして追放した。

 <革命>以上に人を鼓舞する響きはない。近隣諸国と比べ政治的ダイナミズムに欠ける日本だが、一歩手前の<改革>という囃し文句に国民は踊らされてきた。小沢氏が<改革>を掲げた時期、小泉氏は<守旧派>代表だったが、首相になるや<改革>を叫び喝采を浴びた。<壊し屋>なら負けない小沢氏だが、大衆的人気を獲得していない。小沢氏になくて小泉氏にあったのは<孤独>ではなかろうか。政治家は大概、自分がどれほど多くの仲間に囲まれているか嬉々としてアピールするが、小泉氏のパブリックイメージは真逆の<絶対的孤独>だ。官邸で独り、ワインを飲みながらオペラを聴いている姿が思い浮かぶ。

 小泉氏の支持基盤は20~30代と60代以上だった。最もテレビを見る年齢層で、<ワイドショー政治>の結果と分析されているが、<最もテレビを見る=孤独>と言い換えることも可能だ。生まれながらにして乾性植物の若い世代と、かつて湿性だったが干からびてしまった老人たち……。彼らの孤独とピッタリ重なったのが、一国の宰相ではなかったか。

 話は変わるが、丹波哲郎さんが亡くなった。「キイハンター」のボス役が丹波さんとの出会いで、千葉真一、野際陽子、谷隼人、大川栄子らが脇を固めていた。ミステリー、ハードボイルド、アクション、コメディーと様々な要素が詰め込まれ、人間の愚かな欲望が抉り出されていた。10代前半ゆえ背伸びしつつ見ていた俺にとり、<人生の予習>というべき番組だった。

 個人的な好みは「組織暴力」と「続組織暴力」だが、主演、助演、脇役を問わず、丹波さんほど邦画史を飾る名作の数々に出演した俳優はいない。ファンのみならず、監督やスタッフに愛され重宝された役者だったのだろう。ご冥福を祈りたい。
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