酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

東日本大震災と原発事故から10年~時計の針は止まったまま

2021-03-11 22:36:44 | 社会、政治
 東日本大震災で家族や友人を亡くしたり、原発事故で故郷を奪われたりした方々の悲しみと慟哭はいかばかりか。俺自身にとっても2011年3月11日は人生最大の分岐点だった。3・11直後から反原発をテーマに据えた講演会や映画会などに足を運び、感じたことをブログに書き綴った。

 阪神・淡路大震災(1995年)は故郷近くで起きたにもかかわらず、東京で自堕落で無為な日々を過ごしていた。当時の俺は〝人間もどき〟だったが、48歳で会社を辞めた頃から無常観、他者との絆に敏感になる。人間に近づいた時期に起きたのが東日本大震災だった。

 原発事故から10日後に開催された緊急報告会「福島原発で何が起きているか?」(「デイズジャパン」主催、早稲田奉仕園)は、広河隆一氏と広瀬隆氏が顔を揃えた歴史的なイベントだった。広河氏は現地で撮った写真を基に訥々と語り、広瀬氏はデータを示して危機の全体像を明晰に示していた。

 第11回「終焉に向かう原子力」(4月29日、明大・アカデミーホール)は立ち見が出る盛況で、1000人以上が入場できなかった。反原発の機運の高まりを実感した集会では、広瀬氏に加え小出裕章氏も壇上に立つ。反原発運動を長年牽引してきた広河、広瀬、小出の3氏だが最近、表舞台で見かけることは少なくなった。

 同年のGWに帰省した俺は、母、妹、義弟とともに和風レストランで食事をした。隣席では老夫婦、息子夫婦と思しき4人が卓を囲んでいたが、「新聞やテレビは信じられん。正しいのはインターネットだけや」と話すおじいさんに一同うなずいていた。「自由報道協会」を創設した上杉隆氏は記者クラブに妨害されながら東電に厳しい問いを発し続け、ネットにアップする。自身がキャスターを務める「ニュースの深層」(朝日ニュースター)に〝放送禁止物体〟広瀬氏を呼ぶなど戦闘モードだった。

 希望はたちまち潰えた。朝日新聞は「ニュースの深層」を打ち切っただけでなく、「放射能は大丈夫」を繰り返した山下俊一氏(福島県放射線リスク管理アドバイザー)に朝日がん大賞を授与する。731部隊の人脈に連なる山下氏の栄誉は、政官財+メディアからなる〝原発村〟の堅固さを物語っていた。
 
 3・11は大きなターニングポイントになり、ドイツを筆頭に再生可能エネルギー、環境保護に舵を切る動きが広まった。膠原病と闘いながら前向きに生きていた翌年の妹の死で、俺は生き方をチェンジした。立脚点を定めて世の中に真摯に向き合うことが妹への手向けになると考え、グリーンズジャパンに入会した。多様性、アイデンティティー重視など、価値観を発見するきっかけになった。

 仕事先の整理記者Yさんに誘われ、〝反原発PANTA隊〟の一員として集会に参加した。ピート・タウンゼント、ロバート・スミスと並び、俺にとっての〝ロックレジェンド〟であるPANTAさんと話す機会を得て、見識と人格に感銘を覚えた。PANTAさんと共演した故遠藤ミチロウは福島出身で、学生時代のサークルの先輩と同窓で、妹と同じく膠原病と闘っていた。「FUKUSHIMA」(2015年)は故郷への思いを歌った傑作である。

 <地震と原発事故は多くの犠牲を生んだが、日本が生まれ変わるきっかけになるかもしれない>……。俺だけでなく10年前、このように考えた人は多かった。俺は復興の兆しを確認するため、何度も東北を旅したが、そのたびに傷痕を目の当たりにした。<アンダーコントロール>の偽りで開催にこぎ着けた東京五輪は、東北を蔑ろにした国家的犯罪だったのだ。

 震災直後、体内被曝を心配する世論に<直ちに影響はない>を繰り返した枝野幸男官房長官が現在、野党第一党代表というのも理解に苦しむが、その後の安倍-菅政権で日本は出口の見えない闇に取り残された。台湾の現状に羨ましさを覚える。抵抗が市民の権利になり、ひまわり運動支持、反原発デモに数十万人が集まる。警察車両は皆無で、多くの有名人が笑顔で参加していた。

 蔡英文総統を支えるのが39歳のトランスジェンダーで無任所閣僚(IT、デジタル担当)を務めるオードリー・タンだ。台湾がコロナ禍を最小限に食い止めたのも、彼、いや彼女の功績大である。タンの影響下にある30以上のサイトは、政治の透明性確保のため政治家の発言を徹底的にチェックし、フェイクを公開する。民主主義アナキストを自任するタンの名は既に世界に鳴り響いている。
 
 今夜は東電前で犠牲者追悼と再稼働に固執する東電に抗議する集会に参加した。次稿の枕で簡単に紹介したい。原発事故は結果として風穴にならず、むしろ可能性は失われた。日本は今、エネルギー、環境、ジェンダー、選挙制度などあらゆる点で国際標準から遠ざかっている。新しい風は吹くのだろうか。
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