酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

新春スペシャル「欲望の資本主義」に22年を生きるヒントを得た

2022-01-11 22:48:14 | 社会、政治
 将棋界の頂上決戦、王将戦第1局が行われ、挑戦者の藤井聡太竜王(4冠、先手)が渡辺明王将(3冠)に先勝した。1分将棋になってもAIの評価値が二転三転する大熱戦で、2局目以降も楽しみだ。

 ディープラーニングを駆使する藤井、高容量のパソコンで研究する渡辺は、ともに<人間とAIの合体型>なのだ。囲碁・将棋チャンネルで解説を務めた木村一基九段は「解説者の力量が試される時代」と語っていた。対局場で大盤解説を務めた森内俊之九段は「藤井さんだから何も言われませんが」と藤井の8六歩に衝撃を隠さなかった。藤井は今年も常識を覆す指し手でファンを驚かせてくれそうだ。

 オミクロン株蔓延により、日本でも新型コロナウイルスの新規感染者が急増している。気候変動も加わり、先が見えない2022年を読み解くヒントになる番組を見た。新春スペシャル「欲望の資本主義~成長と分配のジレンマを越えて」(NHK・BS1)である。

 様々な角度からコメントする12人の識者は、<A>資本主義の枠内で改良を目指す、<B>資本主義に変わるシステム(社会主義)を志向する……、この二つに大別できる。経済は門外漢の俺だが、アンテナに引っ掛かった持った内容を紹介する。

 ルチル・シャルマ(ストラテジスト)は生産性の低い非効率なゾンビ企業を救済する刺激策が、日本のような莫大な借金を計上する結果になると語る。<現在の資本主義は富裕層のための社会主義であり、その他の人々にとっての資本主義>と分析していた。刺激策に必要な経費を削減することが健全な資本主義の道と説く。シャルマのコメントとリンクするのは諸富徹(経済学者)らが提示したスウェーデンモデルだ。

 スウェーデンは二酸化炭素削減に成果を挙げながら、経済成長を遂げてきた。この20年で50%の賃上げを達成している。雇用調整助成金が企業に払われた日本と対照的に、スウェ-デンは企業を救わない。だが、淘汰された企業の労働者の別の職場への就職には全面的に協力する。人には優しいのだ。

 マシュー・クレイン(ジャーナリスト)の見解に、目からウロコだった。「貿易戦争は階級闘争である」との著書が示す通り、米中貿易摩擦をユニークに分析している。クレインは<中国では生産されたモノに相応しい賃金が支払われていない。中国の労働者の購買力が奪われることで、富の偏在は加速し、結果としてアメリカの労働者の雇用が損なわれる>と説く。

 ケイト・ラワーズ(経済学者)は成長や生産性といった言葉にとらわれず、ドーナツ図を提示して<循環型経済モデル>を主張する。成長より繁栄(精神的)を上位に置き、合理的経済人(資本主義信奉者)を「手には金、心にエゴ、足で自然を踏みつけている」と論難する。情報操作により、<協力や利他主義より、競争や利己主義に価値を置く>合理的経済人の考え方が広まることを懸念している。

 ラワーズの方向性を形にしているのが,成長モデルから脱却し2050年までに循環型経済モデルに転換することを目指すアムステルダムだ。バート・ファン・ソン(ジーンズ店経営者)は「廃棄されたジーンズはスペインでリサイクルされ同店に送られてくる」と言う。「リサイクルされるジーンズが増えれば綿花農家の雇用が失われるのでは」の問いに、「綿花の代わりに大豆などを栽培すれば、食糧問題に貢献出来る。大豆畑のためにアマゾンで木材を伐採することもなく、環境破壊をストップ出来る」と循環経済の意味を強調していた。

 この番組のハイライトは、トーマス・セドラチェク(ストラテジスト)と斎藤幸平(経済思想家)のリモート対談だった。セドラチェクは<A>、斎藤は<B>を主張するが、ともに成長にとらわれることを批判している。共通点もあるが、相容れない点も明白になった。

 東欧革命を経験しているセドラチェクには譲れない部分がある。かつての東欧圏がマルクス主義を継承しているとは見做さないが、壁の崩壊によって息吹を知ったセドラチェクは資本主義以外に希望はないと確信している。さらに、欧州で資本主義の枠内で有意義な改革を見聞している。上記したスウェーデンモデルの推進者、アンダース・ボルグ(元財務相)は<市場経済と社会福祉を組み合わせた同国の市場経済は資本主義でも社会主義でもない>と語っていた。

 当ブログで頻繁に取り上げてきた斎藤については、書き尽くした感がある。俺は数年前からグリーンズジャパン会員発プロジェクト「脱成長ミーティング」に足を運び、脱成長、シェア、循環型経済、ローカリズム、<コモン=共有材>の意義を学んできた。だから、マルクスが最晩年に行き着いた境地にインスパイアされた斎藤の<脱成長コミニュズム>には共感を覚えている。

 だが、苦難の歴史を知るセドラチェクは、斎藤の焦りを感じているかもしれない。この番組を見て、スウェーデンのみならずバルセロナやアムステルダムなど様々な改革が試みられる欧州と比べ、余りに貧困な日本の現実に愕然とする。とはいえ「人新世の資本論」は40万部を超え、斎藤は昨年末、多くのメディアに登場した。ひとつのきっかけになることを期待している。
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