酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

マイ・コイ、そして在日ベトナム人の苦難が穿つ日越の闇

2021-02-09 23:31:17 | 社会、政治
 今回のテーマであるベトナムは、前稿で紹介したレイジ・アゲインスト・マシーンと繋がっている。レイジの1stアルバムは、南ベトナム政府(アメリカの傀儡)に抗議し焼身自殺した僧侶の写真をジャケットに用いていた。あれから60年近く、共産党独裁に異議を唱えた女性歌手マイ・コイを追ったドキュメンタリー「マイ・コイ 反逆の歌姫」(NHK・BS1)を見た。

 発表17年後にレイジの「キリング・イン・ザ・ネーム」が全英NO・1に輝いた経緯を前稿で記したが、マイ・コイは番組冒頭、同曲をカバーしたいと語っていた。〝共産党のキャンペーンガール〟だったマイ・コイは自分に思いを正直に表現するようになり、多様性とアイデンティティーの尊重、自由への希求を歌に託す。その結果、当局の監視下に置かれるようになった。

 オバマとの対談、立候補、ハノイを訪れたトランプへの批判と積極的に活動したマイ・コイは、国内で最後のアルバムを制作した後、国外に出る。重なったのはイラン映画「ペルシャ猫を誰も知らない」(2009年、ハフマン・ゴバディ監督)だ。亡命したロックバンドを追い、監督もクランクアップ後に出国した。空港で書類を審査した担当者は「歌手の方ですね。音楽に国境はありません」と彼女を送り出すシーンに希望を覚えた。

 不明を恥じるしかないが、当ドキュメンタリーを見るまで、ベトナムが中国、北朝鮮並みの統制国家であることを知らなかった。政官財に忖度したメディアが、日本人の目を〝ベトナムの闇〟に向かわないよう操作しているのではないか……。あるリポートを読み、そんな疑問が湧いてきた。

 仕事先の夕刊紙でジャーナリストの出井康博氏が「在日ベトナム人の真実」を35回にわたって連載していた。来日したベトナムの留学生、実習生の悲惨な日々が詳細に記されている。彼らの苦難は新型コロナウイルスによって増幅されている。

 別稿(昨年6月)で紹介した「逃亡者」(中村文則)では主人公(山峰)とベトナム人の恋人アインが宿命と糸で紡がれていた。留学生であるアインは<週28時間労働>に縛られ、生活が成り立たない。連続ドラマW「夜がどれほど暗くても」(中山七里原作)でも、アジアからの留学生を搾取する派遣会社が真相に迫る糸口になっている。
 
 19年末の在日外国人の統計は、中国人81万、韓国人45万に次ぎ、ベトナム人は41万で、内訳は実習生21万、留学生9万という。ベトナム人の犯罪が、咋夏の「子豚盗難事件」を筆頭に世間を賑わせたが、背景にあるのは日越の歪んだ癒着だ。中国や韓国では国内で賃金が上がっており、日本への出稼ぎは激減している。子供を留学させるのも裕福な家庭で、都内の大学で勉強している中国人、韓国人の学生も多い。

 ベトナム人の1人当たりのGDPは日本の15分の1で、多くの実習生や留学生の出身地は貧しい農村だ。彼らは来日時、50~100万円の借金を背負っている。ベトナム政府は送り出し業者に37万円の上限を設定しているが、賄賂社会ではルールなどあってなきが如くだ。共産党関係者に金品を渡せば全て解決する。

 マイ・コイが告発した言論封殺による奴隷制は、格差拡大で国民を貧困の底に縛り付けることで補強されている。こう書くと酷い国と思われるかもしれないが、受け入れ先にも問題がある。日本側も前政権から引き継がれた「30万人留学生計画」の下、大挙して入国する若いベトナム人が低廉な労働力と把握しつつ、無審査で入国させる。日本語学校が産廃業者だった事例がネットで紹介されていた。  

 日越共犯の人身売買が出井氏のリポートで詳らかになっていく。安い労働力を必要としている建設業界の元締は森五輪組織委員長で。メインターゲットはベトナム人だ。菅首相の最初の外遊先はベトナムだし、二階幹事長も数年前、訪越代表団を率いている。関連部署でトップに立つのは自民党幹部(元を含め)だ。

 新聞販売所で働くベトナム人留学生が<28時間労働>を逸脱していることをメディアは報じない。<政官財+メディア>連合が、在日ベトナム人に塗炭の苦しみを味わわせているのだ。森発言は確かにわかりやすい。だが、ベトナム人問題もまた腐敗した構図に動かされていることを国民は知るべきだ。
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