酔生夢死浪人日記

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「シャドー・ディール」&杉原浩司氏の講演~「憲法映画祭」で知る戦争の現在

2021-04-21 21:28:56 | 社会、政治
 先週末、3部構成の「憲法映画祭」(武蔵野公会堂)第2部に参加した。映画「シャドー・ディール~武器ビジネスの闇」(2016年、ヨハン・グリモンプレ監督)、杉原浩司氏(武器取引反対ネットワーク=NAJAT代表)による<軍産共同体が九条をこわす>と題された講演がセットになっていた。

 「シャドー――」の原題は「シャドー・ワールド」で、キャッチコピーは<戦争に資金が流れ、血は金に換えられた>だ。100年にわたる戦争や内戦の衝撃的な映像、ジャーナリスト、告発者、武器取引関係者らの証言を織り交ぜて構成されている。ラストには公開前年に亡くなったエドゥアルド・ガレアーノへのオマージュが捧げられていた。

 冒頭、第1次大戦時の貴重なフィルムが流れた。クリスマス休戦でドイツ兵が「きよしこの夜」を歌うと、敵味方がともに踊ったり、サッカーに興じたりした。束の間の出来事で、銃砲の合図で白兵戦は再開したが、当時はまだ、戦場においてもヒューマニズムの欠片が残っていた。

 平和が常態になる可能性を奪ったのは、欲望に駆られた軍需産業と金融機関の連携だ。一部の人間が巨万の富を築く一方、世界中の人々が傷つき、格差が拡大する。政権トップでさえ軍需産業の営業部長クラスで、その典型がオバマだ。〝史上最悪の武器商人〟として世界を闊歩する様子を本作は捉えていた。アメリカのイラク侵攻に与したブレアは引退後、軍需産業の役員に収まっている。

 本作で槍玉に挙がっていたのがサッチャーとレーガンだ。サウジアラビア王室とサッチャーとの黒い癒着が、数々の証言で詳らかになっている。サウジからの莫大な資金が、サッチャー政権と軍需産業を結ぶ円滑剤になっていた。サウジは現在、非人道的なイエメン空爆をUAEとともに支えるシャドー・ディールの担い手である。

 〝反テロ〟とは自らを〝正義〟の側に仕掛けで、メディアのコントロール下、人々の脳に刷り込まれている。ブッシュは単なる操り人形で、軍需産業と一心同体で30年にわたり主要閣僚を歴任したラムズフェルドとチェイニー(副大統領も)が米政権の元締であったことを、本作は示していた。
 
 上映終了後、5分ほどのインタバルで杉原氏が壇上に立った。背後のモニターには進行に合わせて写真やデータが映された。杉原氏はかねて「シャドー・ディール」をネット上で薦めていたが、映画好きの同氏とは、ドローンの脅威を描いた「ドローン・オブ・ザ・ウォー」や「アイ・イン・ザ・スカイ」の感想を語り合ったことがある。日本と朝鮮半島の近現代史を背景に据えた帚木蓬生著「三たびの海峡」を薦めてくれたのは杉原氏だった。

 杉原氏は最近の変化にポイントを置いて論を進めた。コロナ禍で経済活動は停滞しているが、世界の軍事費は昨年、約194兆円で前年比3・9%増だった。ちなみに日本は8位だ。トレンドも変化し、自国生産にシフトしつつある。経団連の肝いりで、武器を扱う商社も活動している。

 コロナワクチンは典型的な例だが、技術力で後塵を拝している日本は、武器輸出でも成果を上げていない。米国製武器を爆買いは止まらないが、ヒラリー・クリントンが「空軍が計画したものは全て不要」と指摘したF35もその中に含まれている。だが、政府は手をこまねいているわけではない。

 佐藤優、池上彰両氏が「中央口論」誌上で推奨した、敵基地攻撃能力を飛躍的にアップさせる「スタンドオフミサイル」の開発を川崎重工と三菱重工が進めている。日本は米軍を後方支援してきたが、米国は自衛隊に〝共犯者〟になることを求めているのだ。

 核を所有しパレスチナでジェノサイドを推し進めるイスラエルに、NAJATは厳しい目を向けていた。「NEW23」(TBS系)はイスラエル大手軍需産業担当者から、<我々の武器は戦場(ガザ地区)で実証済み>との発言を引き出していた。同番組でコメントした杉原氏は、軍事のみならずセキュリティー面での日イ連携を糾弾していた。

 NAJATは日イ連携を掲げるイベントのスポンサーであるソフトバンクに文書で抗議した。孫正義氏は「レピュテーションリスク」を勘案したのか、少し距離を取った。各企業、グループにとって軍事関連部門が占める割合は小さいが、川崎、三菱、そして武器取引に前のめりの商社に抗議し、〝武器商人〟と認知させることが、市民運動にとって大きな武器になる。

 杉原氏は今、ミャンマー問題に取り組み、国軍への資金源を断つことを政府・関連部署に求めている。ODAの源泉は税金だから、私たちの手が気付かないうちにミャンマー人の血で汚れているのだ。想像力こそが、世界を俯瞰する際の最大の武器なのだ。
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