酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「東京自叙伝」~文学の万華鏡に魅せられる

2016-04-24 20:43:46 | 読書
 シガー・ロスがヘッドライナーを務めるフジロック初日に、ビッフィ・クライロもラインアップされた。心はそよいだが、日帰りは厳しいので諦めた。ロック界では、プリンスの急死が話題を独占している。「ロッキング・オン」などメディアで神格化される一方、ブラックカルチャーに詳しい友人は、〝スモーキー・ロビンソンの焼き直し〟と辛辣な評価を下していた。一枚もアルバムを聴いてないので何とも言えないが、早過ぎる異才の死を悼みたい。

 WWEについて頻繁に記していたが、今年に入って縁を切った。日本でPPVは「WWEネットワーク」のみの視聴になり、「ロウ」と「スマックダウン」は放映時間短縮……。海外でもネットでファンを拡大したいというWWEの本音に嫌気が差した。本国アメリカでは視聴率が降下しているが、「WWEネットワーク」の加入者増でカバー出来ているはずだ。新日本で活躍したAJスタイルズは移籍後3カ月で、早くも王座戦線に絡んでいる。

 そのWWEからも訃報が。DXのメンバーとして一世を風靡した女性レスラーのチャイナが亡くなった。ギャレットやジェリコら男性トップクラスと好勝負を演じた勇姿が甦る。テッド・ターナーの莫大な資金を背景にしたWCWに追い詰められたWWEを、チャイナはオースチンらとともに支え、反転攻勢に繋げた。〝世界9番目の不思議〟の冥福を祈りたい。

 「東京自叙伝」(14年、奥泉光/集英社)を読了した。ページを繰りながら、以前読んだ小説が脳裏で交錯する。「オーランドー」(ヴァージニア・ウルフ)、「ひらめ」(ギュンター・グラス)、「狂風記」(石川淳)、「告白」(町田康)、「俺俺」(星野智幸)、そして虚実のあわいを行き来する辻原登の作品だ。メタフィクション、マジックリアリズムの手法も導入した「東京自叙伝」は、<文学の万華鏡>といっていい。

 起点は1845年で、東日本大震災直後に幕が下りる。柿崎幸緒、榊春彦、曽根大吾、友成光宏、戸部みどり、郷原聖士と、6人の「私」がストーリーを紡いでいく。輪廻転生と思いきや、上記のうち複数が同時に生存していることもある。私の周囲には無限の私(蛹状態)が蠢くが、必ずしも人間とは限らない。それぞれの私は自らが東京の地霊で群れを成す鼠が常態と認識するようになる。

 私には柿崎以前の東京の光景が脳裏に刻まれ、縄文期の無明の闇にまで溯る。地震時の高揚は鼠の私から、火への執着は八百屋お七から記憶を受け継いだ。6人は主体が変わっても東京を徘徊する。東京を愛するが故、崩壊を夢想するというアンビバレンツに引き裂かれているのだ。柿崎の因業が後の私に降りかかるなど、6人は時空を超えた輪に閉じ込められている。〝宿命の予定調和〟というべき連鎖が遠心力を生み、えもいわれぬパワーが行間に漲っている。

 平将門の意識をとどめる柿崎、そして榊、曽根、友成は表と裏から日本社会を攪乱する。榊は陸軍参謀として戦争を領導し、曽根は戦後の新宿アンダーワールドで頭角を現す。かつて〝遅れてきた戦争作家〟と評した奥泉は、本作でも国家レベルのみならず、ヤクザの抗争を鮮やかに描いている。

 奥泉をインスパイアしたのは福島原発事故だ。4人目の私である友成は裏方、プロデューサーとして様々なイベントに関わるが、正力松太郎と協力して原発事業を推進する。友成の因果に縛られた6人目の郷原は〝原発ジプシー〟として事故当時、福島で働いていた。帰京後、東京崩壊の甘美な白日夢に耽り、日本人の特性ともいえる<鼠のような無意識での集団化>を体感する。5人目の私は唯一の女性で、バブルとその崩壊を体験する戸部みどりだ。彼女の目を通じ、日本人の拝金主義、定見なき無責任な社会が描かれていく。

 友成は正力だけでなく、力道山ら歴史上の人物と友誼を結び、金閣寺放火犯や浅沼稲次郎刺殺犯などと交遊する。同時に私は、「吾輩は猫である」の主人公からジョン・レノンにまで拡散していく。デスパレードしていく過程で、戸部と郷原は同時代に起きた凶悪事件の犯人に、私を感じている。

 2000年以降に発表された小説で「彗星の佳人」、「美しい魂」、「エトロフの恋」から成る「無限カノン三部作」(島田雅彦)、「シンセミア」(阿部和重)をツインピークスと考えていた。縦軸(時間)、横軸(同時代性)で日本を捉えた「東京自叙伝」も、上記2作に匹敵する傑作だ。奥泉独特の毒とユーモアもたっぷりペイストされている。
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