グレタ・トゥーンベリさんが逮捕された。自国スウェーデンで開催された「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」決勝大会にイスラエル代表が参加したことに抗議し、<ジェノサイドをやめろ>といったパレスチナへの連帯を示すプラカードを掲げて会場を取り囲んだ数千人の中にトゥーンベリさんもいた。
欧州や全米各地の大学で大規模なデモが行われているが、前稿末にも記したように、<反ユダヤ主義>ではなく、自由と民主主義、反戦を訴えるリベラリズムに基づいている。反貧困、ジェンダー、気候正義、反ジェノサイトなど複数のカテゴリーが人々を紡いでいくインターセクショナリティー(交差性)をトゥーンベリさん体現しているのだ。
「マイ・シスター、シリアルキラー」(オインカン・ブレイスウェイト著、粟飯原文子訳/ハヤカワ・ポケット・ミステリ)を読了した。ミステリーやサスペンスは面白いのはわかっているから、<読書は修行>が染みついている俺は読まないようにしているのだが、紀伊國屋で目に留まった本作を購入した。
作者はナイジェリア出身の女性だ。文学賞を受賞した時期を考えると、30歳直前に本作を発表したようだ。ポップかつスタイリッシュな記述で短い章で紡がれており、200㌻弱を一気読みしてしまった。舞台はナイジェリア最大の都市ラゴスで、コレデ、アヨオラの姉妹が主人公だ。語り手のコレデは大きな病院の看護師長に任命されるが、優秀さは病院だけでなく、妹の殺人の後始末にも発揮される。タイトル通り、アヨオラはシリアルキラー、即ち連続殺人犯なのだ。
本作はミステリーにカテゴライズされるが、謎解きの要素はない。冒頭でコレデがアヨオラのSOSで駆けつけると、恋人フェミの死体が転がっていた。コレデは部屋を完璧に清掃し、死体を遺棄した。3度目のことである。姉妹のキャラクターは対照的で、コレデは平凡でまじめな性格、アヨオラは圧倒的な美貌で周りの男を夢中にさせる。
共依存はなぜ成立したのか、物語がカットバックしながら仄めかされる。ナイジェリアの現状や宗教についてはわからないが、独裁者の父が、14歳のアヨオラの嫁ぎ先を勝手に決めたことへの反発で、姉妹は〝共犯関係〟になる。そのメタファーはナイフで、アヨオラが凶器として用いることになる。
通常のミステリーだと鑑識や監視カメラが大活躍するが、本作では警官でさえ、アヨオラの魅力にノックアウトされて殺人を見抜けない。ブラックジョークとしか言いようがないが、最大の理由はアヨオラが贖罪の思いを持ち合わせていないことだ。コンデは医師のタデに思いを寄せていたが、予感通り妹に奪われ、刃傷沙汰を引き起こす。さらに、アヨオラとドバイを訪れたビジネスマンが不審死を遂げた。
上記したように語り手はコンデだが、ストーリーを回転させる聞き手がいた。昏睡状態のムフタールで、コンデは鬱憤や不安を吐き出すように語り掛ける。彼女の行為に効果があったかはともかく、ムフタールは意識を回復する。昏睡状態での記憶が姉妹を有罪にすることはあり得ず、ムフタールはコンデに謝意を伝えて退院した。〝共犯関係〟継続を予感させるラストも皮肉が効いていた。
俺の知人に、男たちの心を引き裂いていく女性がいた。近づいてくる男たちと恋人関係になりながら、2、3カ月経たないうちに別れていく。アヨオラのように命は奪っていないが、心を殺していたのかもしれない。幸か不幸か、俺は恋愛の対象ではなかった。
欧州や全米各地の大学で大規模なデモが行われているが、前稿末にも記したように、<反ユダヤ主義>ではなく、自由と民主主義、反戦を訴えるリベラリズムに基づいている。反貧困、ジェンダー、気候正義、反ジェノサイトなど複数のカテゴリーが人々を紡いでいくインターセクショナリティー(交差性)をトゥーンベリさん体現しているのだ。
「マイ・シスター、シリアルキラー」(オインカン・ブレイスウェイト著、粟飯原文子訳/ハヤカワ・ポケット・ミステリ)を読了した。ミステリーやサスペンスは面白いのはわかっているから、<読書は修行>が染みついている俺は読まないようにしているのだが、紀伊國屋で目に留まった本作を購入した。
作者はナイジェリア出身の女性だ。文学賞を受賞した時期を考えると、30歳直前に本作を発表したようだ。ポップかつスタイリッシュな記述で短い章で紡がれており、200㌻弱を一気読みしてしまった。舞台はナイジェリア最大の都市ラゴスで、コレデ、アヨオラの姉妹が主人公だ。語り手のコレデは大きな病院の看護師長に任命されるが、優秀さは病院だけでなく、妹の殺人の後始末にも発揮される。タイトル通り、アヨオラはシリアルキラー、即ち連続殺人犯なのだ。
本作はミステリーにカテゴライズされるが、謎解きの要素はない。冒頭でコレデがアヨオラのSOSで駆けつけると、恋人フェミの死体が転がっていた。コレデは部屋を完璧に清掃し、死体を遺棄した。3度目のことである。姉妹のキャラクターは対照的で、コレデは平凡でまじめな性格、アヨオラは圧倒的な美貌で周りの男を夢中にさせる。
共依存はなぜ成立したのか、物語がカットバックしながら仄めかされる。ナイジェリアの現状や宗教についてはわからないが、独裁者の父が、14歳のアヨオラの嫁ぎ先を勝手に決めたことへの反発で、姉妹は〝共犯関係〟になる。そのメタファーはナイフで、アヨオラが凶器として用いることになる。
通常のミステリーだと鑑識や監視カメラが大活躍するが、本作では警官でさえ、アヨオラの魅力にノックアウトされて殺人を見抜けない。ブラックジョークとしか言いようがないが、最大の理由はアヨオラが贖罪の思いを持ち合わせていないことだ。コンデは医師のタデに思いを寄せていたが、予感通り妹に奪われ、刃傷沙汰を引き起こす。さらに、アヨオラとドバイを訪れたビジネスマンが不審死を遂げた。
上記したように語り手はコンデだが、ストーリーを回転させる聞き手がいた。昏睡状態のムフタールで、コンデは鬱憤や不安を吐き出すように語り掛ける。彼女の行為に効果があったかはともかく、ムフタールは意識を回復する。昏睡状態での記憶が姉妹を有罪にすることはあり得ず、ムフタールはコンデに謝意を伝えて退院した。〝共犯関係〟継続を予感させるラストも皮肉が効いていた。
俺の知人に、男たちの心を引き裂いていく女性がいた。近づいてくる男たちと恋人関係になりながら、2、3カ月経たないうちに別れていく。アヨオラのように命は奪っていないが、心を殺していたのかもしれない。幸か不幸か、俺は恋愛の対象ではなかった。
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