酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「東京難民」~どん底からの帰還を託した物語

2014-03-09 23:15:09 | 映画、ドラマ
 本日(9日)、日比谷野音で開催された「原発ゼロ大統一行動」に参加した。集会ではこれまで、著名人の空疎な言葉に辟易してきたが、今回は違った。福島、八幡浜、福井と現場で闘う方の、たどたどしいが説得力あるアピールに接し、身が引き締まる思いがした。

 ゲストで登壇した坂本龍一は、チェルノブイリと福島への鎮魂を込めた曲で会場を和ませ、「脱原発を掲げるなら福島と繋がるべき」と短いスピーチを締めくくった。不調の膝が悲鳴を上げたので、請願デモ終了後、国会前集会をパスして帰路に就いた。3・11から3年を経た自身の思いは次稿に記したい。

 脱原発、護憲(=反秘密保護法)、反辺野古移設と並び、現在の日本にとって大きな課題は<格差と貧困>だが、ブログ、HP、フェイスブック等で言及している識者は少ない。反貧困ネットワークの一員である俺にとって残念な状況だ。

 例外のひとりは星野智幸で、<生命を維持しているだけとしかいいようがない若者の貧困、孤立する高齢者の一人暮らしや夫婦等々、今この一瞬が死活問題として、生死の瀬戸際に立たされている人がものすごくたくさんいる>とブログに記し、福祉こそ都知事選の最大のテーマと綴っていた。

 有楽町で先日、「東京難民」(14年、佐々部清監督)を見た。Yahoo!のユーザー評価も高く(4・19)、<格差と貧困>を掲げた作品ゆえ期待は大きかったが、肩透かしというのが正直な印象である。<いかに普遍性を獲得出来ているか>が映画を測る俺の物差しだが、「東京難民」は<貧困と格差>を描き切ったとは思えず、ツッコミどころも満載だった。ネタバレは最小限に、以下に感想を記したい。

 主人公の修(中村蒼)は福岡出身で、東京の私立大に通っている。矛盾を覚えることなく生きてきた修だが、没交渉だった父親が失踪し、家賃も学費も支払われていないことが判明する。アパートから放り出され、大学は除籍処分になった修に手を差し伸べる友はいなかった。

 辺見庸の講演会などで訪れた大学の変貌に衝撃を受けたことは、ブログに何度も記した。<怪しい連中(宗教団体や左翼セクト?)が声を掛けてきたら学生課に一報を>……。そんな風に書かれたコピーがあちこちに貼られたキャンパスは、〝無菌の温室〟といった雰囲気である。本作でも驚いたシーンがあった。修の通う大学では、講義の出欠がIDカードでチェックされている。

 本日の集会も、平均年齢は高かった。霞ケ関駅のトイレは中高年でごった返し、野音で座った列を見回すと、俺(57歳)が一番若かった。だが、若者を馴致して羊の群れにしたのは、俺を含めた50歳以上である。都知事選で宇都宮候補の応援に駆け付けた若者たちに未来を託したい。

 11年秋、俺は自業自得でパソコンをぶっ壊した。修理から戻ってくるまで、ブログ更新のため、新宿、代々木、中野のネットカフェに通う。本作の修同様、寝泊まりする若者の中に女性もいた。ナイトパック(12時間で1000円前後)でシャワールーム付き、フリードリンクである。「ネットカフェを利用できるのは恵まれている連中」と修に話すのが軽部(金井勇太)だ。

 ティッシュ配りで知り合った軽部は「この世の中、終わっている」と修に同意を求め、「爆弾を作っている」と鞄の中の時限装置を見せる。怨嗟と破壊衝動に満ちた軽部をW主人公にしたら、本作は遥かに面白くなっただろう。ホストになった修と偶然再会した時、軽部は「君も向こう側に行ってしまったのか」と寂しそうな表情を浮かべた。軽部が後半フェードアウトし、爆弾が不発に終わったのは、制作費を援助してくれた文化庁への配慮なのか。

 本作の舞台は俺にとってホームといえる新宿で、見慣れた光景に親近感を覚えた。中盤以降、歌舞伎町がメーンになって、物語はダークな色彩を帯びてくる。ひょんな経緯でホストになった修は、裏社会の実態に触れる。金がすべてのホストクラブは、世間を数倍引き延ばした格差社会で、酷薄な論理に貫かれている。

 看護師の茜(大塚千弘)はホストクラブを訪れ、修と心を通わせるが、2人の愛も非情と暴力で汚れていく。清純と妖艶を併せ持つ大塚の表現力に魅せられた。吹越満、津田寛治ら馴染みの役者が脇を固めていたが、記憶に残ったのが鈴本役の井上順の抑揚の利いた演技だった。

 <絶望の淵を知った者は、勇気や優しさを身につける>と「ダラス・バイヤーズクラブ」の稿を結んだ。ホームレスの鈴本はまさにそのような存在で、瀕死の修を助け、再生への足掛かりを掴ませる。辛めに評した本作だが、ラストにカタルシスを覚えた。
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