酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

<自己責任論>克服が民主主義への道

2019-03-02 21:49:14 | 社会、政治
 将棋のA級順位戦最終局が昨日、一斉に行われ、久保利明九段を破って8勝1敗でトップをキープした豊島将之2冠(王位・棋聖)が佐藤天彦名人への挑戦権を得た。世代交代を決定付けるフレッシュな名人戦になりそうだ。先日放映された「われポン」で個性的な打牌を見せた藤田伸二が、吉田豊にエールを送っていた。1年3カ月ぶりに復帰した今日の初戦は⑬着だったが、今後の健闘に期待している。

 トランプ大統領が追い詰められている。大統領選(2016年)でロシアとの共謀を捜査しているモラー特別検察官は、近日中に司法長官に報告書を提出する。側近6人が訴追されたが、マイケル・コーエン顧問弁護士の証言は、トランプにとって致命傷になりかねない。

 安倍首相は差別と対立を煽る〝危険因子〟をノーベル平和賞に推薦したが、文在寅韓国大統領までエールを送るとは思わなかった。世界は狂い、軋み、歪みつつある。翻って日本も十分危うい。この国が民主国家になるプロセスを、<自己責任論>をキーワードに考えてみた。

 まずは先月末、第12回裁判を傍聴した供託金違憲訴訟から。選挙区で300万円の供託金は民主国家の常識を逸脱している。繰り返し記しているが、OECD加盟35カ国中、23カ国で供託金はゼロ、残りの国も韓国を除き10万円以下だ。貧困や障害に苦しみ、公正と平等を訴えたい者がパージされている以上、国会が貴族院の如き様相を呈するのは当然だ。

 これまでの司法の判断をぶっちゃけて言えば、〝間違っているのは制度ではなく、お金を用意出来ないおまえの方〟……。根底にあるのは自己責任論だ。主要メディアはこの裁判の本質を理解せず、永田町の腐った地図を眺めている。判決は5月24日だが、原告が勝ったとしても被告(国)が控訴するので、参院選に適用されることはない。ちなみに被告の弁護人は公務員(検事)である。

 武器取引(輸出改め)反対ネットワーク(NAJAT)の3周年記念集会における高端正幸埼玉大准教授の講演で、自己責任論が日本の民主化の最大の阻害要因であることに思い至った。<分かち合う社会へ~財政を「共同の財布」とするために>というタイトル通り、高端氏は格差と貧困の実態を緻密なデータで提示し、消費税にも言及する。

 北欧で高い消費税率への批判の声が小さいのは、使途が高福祉社会の礎になっていることが認知されているからだ。高端氏は民主主義の成立条件に情報公開を挙げ、森友・加計、統計不正と公文書改竄、データ隠蔽が相次ぐ日本の現状を憂えていた。

 さらに深刻な問題と高端氏が指摘したのは自己責任論だ。中間層から脱落しているのに、自らを下層と認める人は5%以下という調査結果もある。生活保護受給者への不当なバッシングを含め、国民は自己責任論に毒されている。欧米では、〝生活が苦しいから抗議する〟という自然の流れで抵抗が広がっているが、日本人は悪政を批判せず、自分が悪い(自己責任)と思い込む傾向にある。
 
 日本政府が自信をもって世界の権力者に〝輸出〟出来るのが自己責任論だ。小泉純一郎元首相の十八番で、現政権にも受け継がれているが、長い歴史を誇る〝悪しき日本の伝統〟だ。最たる例を以下に挙げる。

 第2次世界大戦末期、ソ連参戦を知った関東軍は日本に向けて遁走する。満州に残された居留民の途端の苦しみはご存じの通りだ。国家的<棄民>だが、〝勝手に残った〟といわんばかりに<残留>に言い換えられた。敗戦時、人々が皇居前で跪く光景が歴史教科書に載っていたが、星新一らも証言しているように、玉音放送前に撮影されたものである。<悪いのは陛下ではなく、力及ばなかった私たち国民の責任>……。このトリックが戦後の空気を変わった。

 東日本大震災直後の東北を取材して「春を恨んだりしない」を著した池澤夏樹は<どうして自分がこんな目に」という恨み言と一切出合わなかった>と綴っていた。石牟礼道子の「苦海浄土」にも、冷酷な行政やチッソを責めず、病を業のように受け止める患者の心に迫っていた。

 自己責任論と集団化……。この国最大の病理が克服されない限り、民主主義の道は遠いだろう。テーマがなかったので、今稿は普段以上に書き殴ってしまった。
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