酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「ちいさな独裁者」をヒントに、妖怪封じを考えた

2019-03-05 19:51:30 | 映画、ドラマ
 前稿で記した供託金違憲訴訟原告側弁護団長の宇都宮健児氏は、世界の選挙制度に精通している。閉廷後の報告会で、スウェーデンの現状を語っていた。同国では18歳で参政権と被選挙権が与えられ、中高では自治会主導で各政党との公開討論会が開催される。10代のうちに政治意識が熟成され、20代前半の大臣も登場した。

 生徒たちが昨秋、〝ネオナチ〟スウェーデン民主党の来訪をバリケードで拒絶した。国会に20%弱の議席を占める同党は、<高福祉の恩恵を移民に与えてはいけない>と主張し支持を伸ばしている。ネオナチあるいはヘイトスピーチへの対応は、<言論の自由は彼らにもある>、<人道に反し、人権を否定する言動は許されない>に大別される。件の生徒たちと俺は後者に与している

 ナチズムを構成する2大要素<排外主義と差別>、<上意下達の独裁的体質>のうち、後者に焦点を当てたドイツ映画「ちいさな独裁者」(17年、ロヴェルト・シュヴェンケ監督)を見た。舞台は厭戦気分が充満した1945年4月のドイツ後方戦線だ。脱走兵のひとり、ヘロルト上等兵(マックス・フーバッヒャー)も憲兵隊に追い詰められたが、大尉の制服を拾ったことで運命は一変した。

 着替えた直後に出会ったフライターク上等兵(ミラン・ペシェル)はヘロルト〝大尉〟にすっかり騙され、従者として同行する。ヘロルトはヒトラーから綱紀粛正の密命を受けていると語るヘロルトは、強硬な姿勢を貫きつつ信奉者を増やし、アンタッチャブルな存在になった。ヘロルトは脱走者収容所で法規違反の虐殺を命じ、遂行後に尊敬を勝ち取る。空爆で収容所が壊滅した後も、「ヘロルト戦闘団」の暴走は止まらない。

 本作に「怪物が目覚める夜」(小林信彦)、「虚人の星」(島田雅彦)が重なったが、この〝なりすまし物語〟は史実に則っている。本物のヘロルトは戦後、英国軍に逮捕され、死刑に処せられた。ナチズムを体現したヘロルトは、特別な存在だろうか。否、〝ヘロルトもどき〟が世界を闊歩している。

 アメリカの歴代大統領を見てみよう。レーガンは俳優として大統領を演じた。魑魅魍魎のオハイオ民主党で頭角を現したオバマは、武器商人でありながら平和主義者を装う。トランプもWWEで鍛えた表現力で大統領の座を射止める。保守派の仮面を被った安倍首相だが、実体は矜持なき隷米主義者だ。冷酷な金正恩も機転の利く好漢を演じてみせた。

 軍事法廷でヘロルトを前線送りにした裁判官の「この異様な状況で常軌を逸する者が出てくるのは仕方ない」の言葉からも窺えるが、ナチズムには狂気、憑依、風俗紊乱、性的倒錯、カルト、神秘主義が滲んでいる。

 ヘロルト戦闘団が現在のドイツに甦り、街行く人に声を掛けるエンドロールが興味深かった。ナチズムという妖怪は、いつ封印を解かれても不思議ではない……。監督は観客にこう伝えたかったのだろう。ドイツでも排外主義が勃興している。ナチズムを食い止めるには、多様性と共生に価値観を置き、寛容の精神を軸に物事を考えることが第一だ。

 ユダヤ人がナチズム最大の犠牲者であることは言を俟たない。だが、イスラエルは今、アメリカを後ろ盾にパレスチナに対してジェノサイトを行っている。先月末に提出された国連人権委員会のリポートが恐るべき事実を明らかにした。イスラエル軍が、ガザで武器を持たない子供、ジャーナリスト、障害者を標的に実弾を浴びせていた。人類に対する戦争犯罪としか言いようがない。

 欧州で胎動しつつある反ユダヤ主義を鎮め、憎悪の連鎖を断ち切るためにも、イスラエルの方針転換を願っている。
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