<2915> 大和の花 (970) キリ (桐) ゴマノハグサ科 キリ属
中国原産で、古くに渡来したとされる落葉高木で、高さは10メートルから15メートルほどになる。樹皮は灰褐色で縦に浅く裂け、枝には楕円形の皮目が目立つ。葉は長さが15センチから30センチ、幅が10センチから25センチの大きさで、浅く3裂から5裂して三角状乃至は五角状になる。基部は心形で、両面に腺毛が密生し、長い柄を有して対生する。
花期は5月から6月ごろで、葉の開出前に枝先に円錐花序を立て、淡紫色の花を多数つける。花冠は長さが5センチから6センチの筒状唇形で、先は5裂し、裂片はほぼ平開して下向きに咲く。花冠の外面には短い軟毛が密生し、萼にも茶褐色の毛が密に生える。蒴果の実は長さが4センチほどの卵形で、先が尖り、熟すと2つに裂開する。実が熟す秋には円錐花序に黄褐色の花芽がつき、実と同時に見られる。
キリ(桐)の名は、伐るとすぐ芽を出し、前よりも大きく育つので、この「きり」によるとか、木目が美しいので木理の意によるとも言われる。材は他の樹種が及ばないほど軽く、耐久、耐湿、耐乾性に富み、色白で木目が美しいことから、箪笥、下駄、琴などに用いられる。桐箪笥は高級家具としてよく知られ、昔は娘が生まれるとキリを植え、嫁入りに備える風習があった。また、樹皮は染料、葉は除虫に効能があり、桐灰はデッサンや懐炉などに用いられて来た。
キリの歴史を見ると、美しい木の花として『枕草子』に見え、『源氏物語』にも宮中に植えられていた証の記述が見られる。これは平安時代で、鎌倉時代には後鳥羽上皇によって皇室の紋章とされ、後醍醐天皇によって足利尊氏に下賜され、格式の高い紋章として臣下に広まった。太閤秀吉の「太閤桐」はよく知られる。明治時代になって皇室の正式な紋章になり、花の数が多い「五七の桐」が副紋として用いられるようになった。なお、『万葉集』に見える梧桐の日本琴について、アオギリとする説に対し、キリを推す説もある。
キリは山中でも見かけるが、植えられたものが起源と見られ、自生のものはないと言われる。大和(奈良県)でも野生状態のものをよく見かけるが、植栽起源のようである。写真はキリ。左から花を咲かせる野生状態の古木(川上村)、花序と花のアップ、黄褐色の花芽と黒褐色の実(いずれも馬見丘陵公園)。 蒼天に花芽の希望冬の桐