大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2020年01月14日 | 創作

<2926> 作歌ノート 感と知の来歴  未完の旅

     人生は未完の旅にほかならぬ未完のゆゑに悩みも生(あ)るる

 人生は未完の身が経験しながら時の旅をしているということであり、その経験は貴重なものであるが、未完の身ゆえにその経験はその身に思いを生み、悩みを生じさせる要因にもなる。生に悩みがつきものなのは、私たちが未完の存在にほかならないからである。

 言ってみれば、「感と知の来歴」は、未完の身による旅の経験の連なりであり、その経験に起因する思いの来歴でもあるわけで、その思いは往々にして悩みとなり、私たちの人生の旅に影響して来る。ということで、未完の身の旅、即ち、未完の旅の途上に関わる歌として以下にあげた歌などもあるということになる。 写真はイメージで、高原の草原。

                         

   目に映る広き草原あこがれの意に沿ふならば歩みゆくべし 

  晩鐘は今日の一日の証なり今日の無事ゆゑ明日は開かる            一日(ひとひ)

  この世とは過ぎてゆかねばならぬ身のありけるところ今夏のひかり 

  寡黙なる心に添ひて冬人家枇杷の花など傍らに見え

  得しものは成果こころに至りしをひとつ加ふる白梅の冴え

  灯明りの一つ一つのその心ほのかに見えてありける晩夏              灯(ほ)

  生きるとは未完の旅をゆくにありたとへば抒情の歌など掲げ

     北を指すその北よりもなほ北のありけるところ思ひとはなる

  潮騒も日差しも人の声もみないよいよ春の兆せる岬

  悲祈願の善男善女とともにあり南大門を仰ぎ潜れり

  曼陀羅の挿話に通ふ縫ひぐるみ並べて遊びゐる子供たち             挿話(はなし)

  捕らへ得ず転がるボール何処へか心焦りて追ふ夢の中

  昼夢より覚めて追ひたるボールなく炎暑に少年野球の掛け声               昼夢(ちうむ)

  万有の万の中なる一個体 個を言はば孤の一個性我

  楽天の天に転ずる悲の欠片転じ終はらば恵まれて来よ               欠片(かけら)

  在りし日の無念かくあり顕ち来たるつらつらつらき日記の部分

  翻る旗のその鳴りそのせめて半分なりの勢ひが欲し

  見果てざる夢を朧と言はれども死の後までも美しき夢

  修羅像の心における昨日今日なほ理不尽が撃てざる弱さ

  悲は鬱へ鬱はうつうつと虚しさへ庭の先々崩るる牡丹

  至り得ぬ心旅なる旅枕来し方いづこ葉桜の下                   下(もと)

  玉垣の四囲を思へば玲瓏としてあらんこと何をか嘆く

  時はゆく非情無情刻々に零されてゆくあまたの思ひ

  遙かなる彼岸へ架ける橋ひとつおぼろなりしが眺望の中

  疎かに対応出来ぬものとゐて幾日幾夜かうつうつうつつ

  越ゆるべき一つの思ひ越えてなほ行きゆく心の中の風景

  美と醜の諸刃において言ひ据ゑよ己美としてあらねばならぬ          美(び)

  回廊は神の御座に続きゐる若葉の影をともなひながら                御座(みくら)

  籠る身の一身ありて祈願あり乾坤にしてありけるところ

  人生は一歩一歩のその一歩その一歩なる歩みに如かず

  鷺一羽渡りゆくなり思ふべし夢はいづこに叶へらるるか

  我が悲願天知る地知る人も知れ行くに当たりて更なる思ひ

  丹精の樹林青々たる国に入りゆく思ひ齢を重ね                     齢(よはひ)

  無知の闇深きその淵見えて見えざるを行くべく露の身の裔

  我以外皆我師たる思ひより美しき眼よ育ちゆくべし

  あまたの身あまたの心行かしめてこの眺望にいましあるもの

  群像の胸板厚しそれぞれに自負の風貌もちて立つなり

  凌霄花昨日の明日の今日の花赤児が泣いてゐる珍しく

  倒れたる兵士が最期見し空の青永遠の青といふべし

  能力の限りを尽くしたると言へそこなる涙貴かるべし

  これやこの緑溢れて瑞々し昨日にまさる今日の通ひ路  

  魂を病むものたちよ来たるべしわが夢殿は夢見の季節

  力なき力のゆゑの思ふ身が思ひを重ね行き難くゐる 

  鶴一羽雪原に舞ふまぼろしの緋の在処なる北を思へり                在処(ありか)

  美しく死なむとならば美しく生きねばならぬこの世と思へ

  死は如何に死の後はまた夢なくて何をか言はむ人生の道

  思ふべし祈願ありしを忌過ぎてこころに取り出だせる夏物

  飢ゑ渇く左右よりなる現身と夢とを分かつ諸相の渚

  生命の初源を闇と解く科学来しかな我ら夢を費やし 

  神のみぞ知るこの世とぞたとふれば死は常ながら闇を纏へる

  それぞれに刻一刻の身の行方少壮われは沖を恋ひたり

  次章への接ぎ穂にありて夜の雨 雨に緑の増しゆく心

  罪多き世にある生よまさにして十善戒の十の戒

  都への途を断たれしものの眼になほ消え残る灯火の色                途(みち)

  さればこそ悲しきことも嘉すなり末黒の後の季節の光