<2941> 大和の花 (990) シナノキ (科木・級木) シナノキ科 シナノキ属
山地に生える落葉高木で、高さは普通10メートルほどになるが、尾根では低木状になる場合があり、渓流沿いなどでは20メートル以上に達する個体も見られる。樹皮は暗灰色から灰褐色で、縦に浅く裂ける。枝ははじめ毛があるが、後に無毛。葉は長さが4センチから10センチの歪んだ心円形で、先が尾状に尖り、基部はほぼ心形で、縁には鋭い鋸歯が見られる。葉裏の脈腋には淡褐色の毛が密集する。葉柄は2センチから4センチほどで、互生する。
花期は6月から7月ごろで、葉腋から途中に1個の大きい翼状の苞葉をつけた長い花序軸を有する集散花序を垂れ下げ、芳香のある小さな淡黄色の5弁花を多数咲かせ、花期には樹冠が一変するほどになる。雄しべは多数あり、典型的な虫媒花で、良質の蜂蜜が採れる蜜源としても知られる。実は小さな堅果で、秋に熟す。
北海道、本州、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では南部の紀伊山地に見られる。シナノキ(科木・級木)の語源は、長野県に多産し、国名のしなの(科野)に由来するなど諸説がある。材は木目が緻密で、建築、器具材に、樹皮は繊維が強く、耐水性に富むので、布にし、酒や醤油の漉し袋、蚊帳などに用いられて来た。また、花からは前述のとおり、香りのよい蜂蜜が採れる。なお、西洋では同属のセイヨウシナノキが薬用に供されているが、本種における日本での薬用の話は聞かない。
写真はシナノキ。樹冠を一変させる花期の個体(左)、途中に苞葉をつけて垂れ下がる花序群(中)、苞葉と花序のアップ(右)。いずれも十津川村の釈迦ヶ岳登山口付近。 枯草に日差しの触手暖かく芽吹きはすでに始まってゐる