大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2020年01月06日 | 植物

<2918>  大和の花 (973) エゴノキ                                                    エゴノキ科 エゴノキ属

         

 山野に生える落葉小高木で、高さは7メートルから8メートルになる。樹皮は暗紫褐色乃至は灰黒色で、ほぼ平滑。株立ちになることもあり、よく分枝する。葉は長さが4センチから8センチの卵形で、先が尖り、基部はくさび形。縁には浅い鋸歯があるか、またはない。短い柄があり、互生する。なお、葉は黄葉する。

 花期は5月から6月ごろで、新枝の先に総状花序を出し、直径2.5センチほどの5深裂する白い花冠の花を長い柄の先につけ、垂れ下がって下向きに咲く。雄しべは10個で、花冠より短く、葯は黄色。雌しべは1個で、雄しべよりも長く、花柱は実になっても残る。花は下から見ると賑やかで、虫たちがよく花にぶら下がり、虫媒花を物語る。山道などで散った花で地面が白くなっているのに出会うことがある。

  蒴果の実は1センチほどの卵球形で、灰白色。8、9月ごろ熟し、縦に割れて種子を現わす。種子はヤマガラの好物で、よく訪れる。果皮にはエゴサポニンという有毒物質が含まれ、実がえごい(えぐい)のでこの名があるという。このため、この毒性を利用し、川に流して魚捕りに利用して来た。また、石鹸代わりにもした。材はろくろに用いられ、ロクロギの別名でも知られる。『万葉集』に見えるちさやまぢさにエゴノキ説があり、この説が有力で、万葉植物にあげられている。

  なお、エゴノネコアシアブラムシの幼虫が冬芽に寄生し、虫えいを作ることで知られ、形がネコの足のようだとしてエゴノネコアシの名がある。日本全土に分布し、朝鮮半島、中国、台湾にも。大和(奈良県)では全域に見られ、公園などにも植えられている。写真は左から花期の個体、下から見た花群、花にはハチがよく来る。次は実。右端はエゴノネコアシ。 冬芽立つ立つは生きゐる証なり

<2919>  大和の花 (974) アサガラ (麻殻)                                エゴノキ科 アサガラ属

                                             

 山地の落葉樹林帯に生える落葉小高木、または高木で、高さは大きいもので10メートルほどになる。樹皮は灰褐色で、縦に浅く裂け目が入る。葉は長さが15センチ前後の広楕円形で、先が短く尖り、基部は円形に近い。縁には浅い鋸歯が見られ、鋸歯の先には腺状の突起がある。両面とも星状毛が散生し、裏面は淡緑色。2センチ前後の葉柄を有し、互生する。

 花期は5月から6月ごろで、枝先に複総状花序を垂れ下げ、白い花を多数つける。花序は10センチ前後で、花冠は長さが1センチほど。5深裂する。雄しべは10個で、花冠より長い。雌しべは1個で、花柱は雄しべより更に長く伸び出す。実は長さが1センチほどの倒卵形で、萼に包まれ、細かい星状毛が密生する。5個の稜があり、先には花柱が残る。

 アサガラ(麻殻)の名は、お盆の迎え火に用いる麻の茎であるオガラ(苧殻)の代用にされたことによる。本州の近畿地方以西、四国、九州に分布し、国外では中国。大和(奈良県)では紀伊山地に多く、標高1500メートル以上の高所にも自生する。なお、材が軟らかいので箸やマッチの軸木にされる。 写真はアサガラ。花期の姿(左)と花序のアップ(右)。 冬芽立つ冬芽は即ち希望なり

<2920>  大和の花 (975) オオバアサガラ (大葉麻殻)                              エゴノキ科 アサガラ属

          

 山地の谷沿いなどやや湿気のあるところに生える落葉小高木、または高木で、高さはアサガラとあまり変わらず、大きいもので10メートルほどになる。樹皮は灰黒色で、縦に裂け目が出来る。葉は長さが10センチから20センチの長楕円形で、アサガラより大きいのでこの名がある。先は尾状に尖り、縁には微細な鋸歯があり、裏面には星状毛が生え、白っぽく見える。短い葉柄があり、互生する。

 花期は6月ごろで、枝先に垂れ下がる複総状花序に白い花を多数つける。花はアサガラに似るが、花序が13センチから20センチとアサガラより長く、ずんぐりとしたアサガラの花序に比べ、スマートに見える。実は萼に包まれ、長さが7ミリほどの狹倒卵形で、先に細長い花柱が残る。

 本州の近畿地方以西、四国、九州の中、北部と対馬に分布し、国外では中国の中部に見られるという。大和(奈良県)では偏在し、「宇陀山地と吉野川上流部および、金剛山に分布している」(『奈良県樹木分布誌』)という。材は淡黄白色で、美しい絞り模様が見られ、床柱などにされるほか、アサガラと同じく、箸やマッチの軸木にされる。

 写真はオオバアサガラ。花期の個体(左)と枝いっぱいに垂れ下がる花群(右)。 冬芽立つ意志の姿にほかならず

<2921>  大和の花 (976) コハクウンボク (小白雲木)                           エゴノキ科 エゴノキ属

          

 山地に生える落葉小高木で、高さは4メートルから10メートルほどになる。樹皮は灰褐色または紫褐色で、平滑。老木では縦に裂け目が入る。葉は長さが5センチから8センチほどの倒卵形で、先は尖り、縁の上半部に不規則な歯牙があり、基部は広いくさび形。やや硬い洋紙質で、脈が細部まで凹むので、皺のように見える。短い柄を有し、互生する。

 花期は6月ごろで、枝先の葉腋に短い総状花序を出し、白い花を数個固めてつける。花序は長さが3センチから6センチほど。花冠は長さが2センチ弱の漏斗状鐘形で、先の部分が5中裂する。雄しべは10個、雌しべは1個で、ともに花冠より短い。葯は淡黄色。花にはアリの類がよく来ている。蒴果の実は長さが1センチほどの卵球形で、秋に熟す。

 本州の関東地方以西、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島の南部に見られるという。大和(奈良県)では西南日本を南北に⒉分する吉野川に沿って走る中央構造線の南側、外帯に当たる紀伊山地の襲速紀要素系植物の分布域に集中し、自生している。ハクウンボク(白雲木)より全体に小さいのでこの名がある。

  ハクウンボク(白雲木)については、群がって咲く白い花を白い雲に見立てたことによるという。庭木にされるほか、材は器具、彫刻、経木等に用いられる。 写真は花期のコハクウンボク(大台ヶ原ドライブウエイ沿い)。  冬芽立つ 此岸に彼岸 祈願の身