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しなやかな日本列島 鉄道の優位性

『しなやかな日本列島のつくりかた』より 「赤字鉄道」はなぜ廃止してはいけないか

藻谷 以前、どういう道路に一番お金がかかっているのか調べてみたことがあります。それで気がついたのですが、道路にかかる費用は、路面の面積に比例するんです。過疎地の一車線の林道などが無駄遣いと思われがちですが、実際には都市近郊の四車線で街路樹がついて、歩道までついてる道路のほうが、はるかにお金がかかる。たとえば道路はアスファルトが摩耗するから一年中舗装し直す必要がありますが、通っている人間当たりの面積が広いのでムダにお金がかかる。路面の清掃作業や除雪、街路樹の剪定などの維持費も馬鹿にならない。

対して鉄道の優れているところは、通っている人間当たりの使用面積が狭いことです。街灯も不要だし、レールは磨耗に強いので頻繁に替えなくてもいい。

宇都宮 LRTよりバスのほうがいい、という話が出るとき、バスの運行で道路舗装が傷つくことは考えられていません。

藻谷 タイヤも摩耗しますしね。鉄輪は磨耗に強いし燃費もいい。車輪の接地圧力が高いので、少々の積雪があっても高速で定時運行できます。

鉄道は産業革命の初期にできたシステムです。当時は資源や労力面での制約も大きかったでしょうから、できるだけ手をかけず、使用面積を少なくして作れるシステムを考え出したのだと思います。

その後、技術が進歩し、機械で広い面積を壊せるようになってから道路を作るようになるわけですが、やっぱり資源がない頃にやっていたことって、すごく効率的で省エネなんです。

だから過疎化が進む地域ほど、世間の先入観とは逆に、広い道路をたくさん維持するのはやめて、なるべく鉄道を使ったほうがトータルでお金がかからない。

何より日本の鉄道は、すべての電車が時間どおりに来ることがインフラとして素晴らしい。

宇都宮 中国なんか、予定より早く出ますからね(笑)。一〇分前にもう改札を閉めちゃう。

藻谷 昨日、萩で講演をした後、夜に会合がありました。そこから宿まで六キロあって、皆夕クシーで帰ったのですが、私は少し夜風にあたりたくて、歩いて帰っていました。さすがに途中で少しきつくなって、携帯で検索すると、なんと近くの駅にまもなく山陰本線の最終列車が来ることがわかったんです。駅まで行って、本当にこの真っ暗でひと気のない無人駅に電車が来るのだろうかと不安になっていたら、時間どおりに単行(一両編成)がパタッと来ました。

五人しか乗っていなかったけど、そんな深夜でも山陰本線をインフラとして、運行してくれているわけです。しかも一四〇円。タクシーに乗ったら、三〇〇〇円はかかる距離だと思います。

この素晴らしいシステムを、鉄道会社の多くは採算も度外視して、最低限のところで一生懸命維持してくれている。

宇都宮 鉄道の価値は、まさにそこですよね。そこに存在しているということ自体が、人々に「利用したいときにいつでも利用できる」という選択肢を提供することになる。先日、ある鉄道に対する自治体の支援が議論になったとき、税金で鉄道を支援するのは、「受益者負担」に反するといった意見が出ました。けれども、鉄道の恩恵を受けているのは、今乗っている人だけではない。沿線や地域が、鉄道の存在そのものの受益者なんです。

藻谷 病院と同じで、行かないかもしれないけど、いざというときにはあるという安心感がありますね。

宇都宮 たとえば家を買うにしても、今は使わなくても、将来子どもが中学生になったら電車で通うかもしれないと思って、鉄道沿線に買う人が出てくる。

藻谷 今後高齢化していく社会にとっても、本当にありかたいものなはずです。

駅のある場所から離れている地域では高齢者も車で動くしかありませんが、後期高齢者の交通事故は年々増えています。八○歳前後で、さすがにもう車に乗りたくなくなると、家の中に引きこもるので、歩く習慣を失って体力が落ちたり、肥満になったりしてしまう。

宇都宮 それでゆくゆくは、介護費や医療費がかさんでいく。鉄道という公共交通には、その費用を減らして余りあるだけの価値があると思います。

たとえば富山ライトレールは、廃線が検討されていた従来の路線を引き継いで生まれた路線ですが、開業後に乗った人の二割は新規の利用者で、しかも、平日の六〇代、七〇代の利用者が増えています。従来であれば、普段は出かけず、週末に子どもや孫の車で移動していた人たちが、ライトレールだと移動できるようになったわけです。このLRTはホームから乗車まで、段差がまったくない作りになっています。

藻谷 その原型は、実は東京都電です。都電で唯一残された荒川線が、おそらく日本で最初に全部のホームの端をスロープにしました。乳母車でも車椅子でも、そのまま乗せられるようにしてあって、お客さんも多い。

しかし、経営的には実は儲かっていません。黒字だったり赤字だったりしますが、基本的に収支相償です。

それでも、あの最後の線を廃止しろという議論にはなりません。公費の持ち出しゼロで運行され、多くの雇用も生み、その人件費を全部払って、わずかな赤字。それに対して、生み出している社会的便益がはるかに大きいからです。沿線の人が、五分おきに来る都電に乗って、のんびりと、学習院のほうの病院に行ったり、荒川あたりへ行けるというのは、ものすごく便利なシステムです。

宇都宮 ただ都電は今かなり混んでいるので、もう少し長い車両を走らせたほうがいい。あの混雑のために、「もう都電はやめようか」と考えているご老人もいるのではないでしょうか。今は、車庫なんかに投資していないのでしょうが、きちんと投資をして、長い車両と、それが入る車庫を確保する。そうすれば、もっと利用者が増えると思います。
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小分類変更 8.販売店 8.1~8.4

8.1 要望の絞り込み

 8.1.1 店舗のコミュニティ化

  1.スタッフの意識

  2.お客様要望を絞込み

  3.事例を収集

  4.ストック情報を集約

 8.1.2 簡単に使える武器

  1.ソーシャルウェブで個別対応

  2.簡単にデータ操作

  3.フロー情報を取り込む

  4.メッセージを把握

 8.1.3 お客様状況を把握

  1.お客様状況カルテ

  2.スタッフの思いをアピール

  3.メーカーとお客様を取り囲む

  4.市民コミュニティと接続

 8.1.4 お客様とつながる

  1.意味あるものを集約

  2.映像データに対応

  3.2千万人のコラボ環境

  4.災害対応にコラボを拡張

8.2 情報を集約

 8.2.1 安心して発信

  1.ポータルで情報集約

  2.意思決定して発信

  3.お客様とのつながり

  4.経営者の意識を変えていく

 8.2.2 知識系システム

  1.スタッフ間のコミュニティ

  2.ソーシャルウェブで共用

  3.機器・コンテンツの共有

  4.ローカルを支援

 8.2.3 意識系システム

  1.メッセージ系システム

  2.ソーシャルでつながる

  3.同一環境での横展開

  4.ワイヤレス環境を保証

 8.2.4 基幹系システム

  1.CRMへシフト

  2.サーバー集約

  3.共有インフラ

  4.次世代構成

8.3 お客様とつながる

 8.3.1 お客様から発信

  1.クルマから発信

  2.メーカーの対応

  3.クルマとお客様の関係
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しなやかな日本列島 日本のポジティブ・シナリオ

『しなやかな日本列島のつくりかた』より 「赤字鉄道」はなぜ廃止してはいけないか

藻谷 先ほど社会の高齢化という話を出しましたが、三〇年後には、甘めに見積もっても一五歳~六四歳の現役世代は約三割減、対して高齢者は、六五歳以上であれば一〇年間で三割増、七五歳以上は二〇年間で六割増となります。

宇都宮 地域再開発が行われるとき、必ず添えられるイメージ図にいつも違和感があります。緑の綺麗な公園に、子供や若者、家族連れが憩うような未来像。美しいですが、将来の年齢層のバランスが逆転してしまっていますよね。緑の公園も、イメージとしてはいいけれど、手すりもない広い場所を老人が歩くのは大変ですよ。しかも高齢者がいなくなる夜は閑散とする。ひと気のない、治安が悪いところになってしまいます。

藻谷 まさに今、アメリカの多くの街の都心はそうなっています。昔、まだ治安がよかった頃に広い公園をたくさん作ったら、後の車社会化と都心の高齢化で人が寄り付かなくなり、治安が悪くなって使えなくなってしまった。

宇都宮 イメージ図だけでなく、都市計画で、まだまだこうした間違いを犯しているものはたくさんあるでしょう。

藻谷 必ず起きる人口の高齢化を計算に入れていないんですね。講演先でも、首都圏こそ足元で一番高齢者が増えている地域たというと、未だに驚かれる方がいて、そのことに驚いてしまいます。

変化を踏まえた上でのポジティブ・シナリオとして私が考えているのは、コンパクトシティ化です。人口の減少にあわせて都市開発地域を縮小し、中途半端な郊外開発地は、田園や林野に戻す。そうすれば、無駄な道路や上下水道の開発も減らせて、日本の美しい田園景観も残すことが出来ます。一方で、旧来からの中心市街地には都市機能を集中させて、それぞれが個性をもった都市景観の復活をはかるべきです。

宇都宮 車社会で郊外に拡散してしまった都市機能をコンパクトに集めるためには、LRTのような交通が重要な役割を果たすかもしれません。

先はどの富山市の例では、このまま街が広がり続けると、二〇〇五年から二〇二五年の二〇年間に行政経費が約一二%上がることがわかっていました。それなら、今ライトレールに投資して、公共交通を軸に、その周りに人が集まるようにしたほうがよっぽどいいということになったわけです。

藻谷 富山市当局が市内の介護労働者の勤務状況を調べたら、勤務時間の九割が車の運転時間だったそうです。高齢者に郊外にバラバラに住まれたら、本当の介護に割ける時間も減ってした。

ただ、バスがあって便利だから、その沿線に住みましょうと言っても、なかなか人は寄ってこない。でも、ライトレールのおしゃれな電車が音もせずに走っていて、市が気合いを入れて運営すると言っていれば、その安心感なりシンボリックな効果から、沿線に人口が集まってくる。それが結果的に、郊外に分散して人が住むコストを減らすことになっています。隣町の町役場の職員にも、「僕はこの趣旨に賛同して、富山の街の真ん中にマンションを買いました」と言う若者がいました。そういう効果があるんです。

宇都宮 沿線ではない、郊外に住んでいる人までが、ライトレールに賛成という面白いアンケート結果も出ていますね。

藻谷 これまでは、「俺の土地がどんどん廃れていくのは許せない!」というような、土地本位の考え方が強くありました。しかし今、土地に執着するのは高齢層だけで、それを譲り受けるであろう若い世代は、もはや自分の所有地に留まろうとは思っていません。それどころか、ライフステージに応じて便利なところに移り住めばいいと考えている。だから今後、世代交代が進めば、もっと住む場所のモビリティが高い時代が来るはずです。そうすれば、コンパクトシティ化か一気に促進されるでしょう。

宇都宮 最近、高齢者でも郊外の家を手放して、都心のマンションに住むような動きが出てきていますよね。

そういう方々が都心で快適に住めるようにして、しっかり移動手段も作れば、ポジティブな街づくりは可能だと思います。

藻谷 人口増加の戦後半世紀と変わらず、都心にオフィスと商用ビルだけを作ろうとするようなやり方をしていたら、絶対にうまくいきません。これからの街に必要なのは、電車と病院、そして福祉サービスです。元気な高齢者が通う病院は、集客資源としても最重要です。東急は、それを見越して、大岡山駅の駅ビルを病院にしました。でも、二子玉川にもつくろうとしたら、厚生労働省に止められたそうです。病院をこれ以上増やすのは国の予算上無理だということだったそうですが、今後の首都圏での後期高齢者の激増をどうするつもりなのか。

いずれにせよ日本も、イコール・フッティングの考え方を導入し、基幹的な交通ラインとして鉄道もバスも両方選べて、かつ自転車もある程度安全に走れるようにしていくという、オランダのような住み分けに向かうのが理想です。

宇都宮 向かい得ると思います。しかも、それはたいしてお金のかかる話ではありません。

藻谷 郊外開発地の街路建設を止め維持費を削減すれば、鉄道網の維持費用は十分出るでしょう。日本の生き残りのためにはそれをやらないといけないんです。アメリカではやらなかったから、ほとんどの街が死の街になりました。

宇都宮 ただ、LRTを導入したオレゴン州のポートランドは、結構いい街になったのではないでしょうか。

藻谷 たしかに、ポートランドは、アメリカでは数少ない成功例です。定点観測していますがLRTの経済的メリットの大きさをひしひしと感じます。例えば中心の地価が維持できているので自治体の固定資産税収が守れているし、町のグレードが上がることで、ナイキのような当地発祥の世界企業も逃げていかない。むしろ誇りをもって存続している。

実際、妻とポートランドの街に行くと、明らかに反応が違います。昔、シアトルに住んでいたことがあるんですが、ポートランドのほうがはるかに小さいのに、妻は後者のほうがずっと街として魅力的で歩きたくなると言う。面白いものです。理屈でなく直感的に、そういう街づくりのメリットを感じるのでしょう。

宇都宮 それが結局、都市の競争力になるわけですよね。
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小分類変更 7. 生活

7.1 考える生活

 7.1.1 独りぼっち

  1.他人の存在は信じない

  2.一人だけの生活

  3.ロマンチストです

  4.未唯への手紙に託した

 7.1.2 好奇心

  1.どこでも考える

  2.考え抜く人生

  3.扉があれば、扉を開ける

  4.非日常的な行動で突破口

 7.1.3 ツールを工夫

  1.アナログの雑記帳を工夫した

  2.デジタルで弱点補強

  3.ハイブリッドはいいとこ取り

  4.視力低下で超アナログ対応

 7.1.4 時間が与えられた

  1.人生を単純にする

  2.明確な生活規範

  3.時間が与えられている

  4.読書が生活の基本

7.2 内なる生活

 7.2.1 外なる生活となす

  1.身体は悪くなる

  2.考えるプロの生活

  3.奥さんはよく分からない

  4.未唯は絶対的な存在

 7.2.2 本質を求める

  1.社会を観察している

  2.ミッションで動く

  3.コミュニティの意見にする

  4.根底を変えていく

 7.2.3 内なる生活を追求

  1.自分だけの世界

  2.目的のある生活

  3.会社を使い切る

  4.組織の弊害を露わにする

 7.2.4 三つの役割を担う

  1.数学者は理念を進化

  2.社会学者は社会変革を望む

  3.歴史学者は未来を預言

  4.未来学者は未唯空間を残す

7.3 社会に向かう

 7.3.1 独我論に生きる

  1.独我論は依存を超える

  2.見えない存在

  3.無限次元空間にいる

  4.不安定ゆえにどこでも行ける

 7.3.2 夢を楽しむ

  1.自分を使い切る

  2.夢を持てば、夢はかなう

  3.サファイア循環を楽しむ

  4.女性から得られるもの

 7.3.3 社会を見ていく

  1.企業から社会を見る

  2.ソーシャルツールを活用

  3.著者との対話を楽しむ

  4.思いをつなぐ

 7.3.4 未来を描く

  1.提案と支援を促す

  2.考え抜いて、変化を待つ

  3.知識と偶然から未来を描く

  4.歴史の観点からシナリオ

7.4 存在の力を探る

 7.4.1 興味が拡大

  1.行動は考えることを阻害

  2.本と語り合って分化

  3.自分のためのエッセイ

  4.夢のために組織を使う

 7.4.2 時空間を超える

  1.μとの対話で自分を超える

  2.考えを発信する

  3.歴史を作り上げる

  4.真理を求めた無為な生活

 7.4.3 生まれてきた理由

  1.存在と無の帰結

  2.日々の発見が生きがい

  3.考えよ!の啓示

  4.超ノマドのシンプルな生活

 7.4.4 全てを知りたい

  1.先を思い、全体を考える

  2.未唯空間にまとめ

  3.発信する勇気

  4.問われれば応える

7.5 内なる生活で考え抜く

 7.5.1 社会をまとめる

  1.パートナーが存在する意味

  2.インタープリターを探す

  3.未唯空間のすごさ

  4.家庭のシンプルな環境

 7.5.2 内なる生活で完結

  1.偶然の意味を求める

  2.会社へ提言

  3.数学から歴史をまとめ

  4.内なる生活スタイル

 7.5.3 知るために行動

  1.ギリギリの健康状態

  2.奥さんより先に亡くなる

  3.知るために海外に行く

  4.歴史と哲学で根本を知る

 7.5.4 考え抜く生活

  1.寝ながら、考える

  2.ライブラリに残す

  3.最期まで考える

  4.存在の力でゆっくり変える

7.6 サファイア構造

 7.6.1 社会の構造を設定

  1.公共図書館の使命

  2.存在と無から独我論

  3.近傍系の新しい歴史観

  4.サファイアで社会改革

 7.6.2 サファイアを表現

  1.書くための生活

  2.多角的な表現

  3.ロジックを進化

  4.未唯空間は社会財産

 7.6.3 集合知で表現

  1.全てを知るために多読

  2.雑記帳を体系化

  3.未唯宇宙はデジタル表現

  4.集合知の社会ライブラリ

 7.6.4 生活に活かす

  1.会社の方向を示す

  2.メリハリのある生活

  3.絶対的な存在を支援

  4.奥さんは一人で生きていく

7.7 全てを知り、全てを表わす

 7.7.1 全てを知る

  1.全てを知るための時間

  2.思考をまとめる

  3.大いなる意思の存在

  4.組織を攻撃せよ

 7.7.2 全てを表わす

  1.多様な意見を収集

  2.長期間書いてきた

  3.自分の思いを表わす

  4.考えたことを表わす

 7.7.3 思いをまとめる

  1.思いを書き残す

  2.思いを入れ込む

  3.今をつぶやく

  4.毎日を表現

 7.7.4 未来を知る

  1.読むから書く

  2.未来の生き方

  3.歴史の変節点

  4.エッセイを出版

7.8 未来方程式を預言

 7.8.1 新しい数学を表わす

  1.アナロジーを展開

  2.空間を近傍系で表現

  3.数学の教科書

  4.未唯空間の作り方

 7.8.2 社会に力を及ぼす

  1.会社存続の条件

  2.情報共有で空間を埋める

  3.会社を揺さぶる

  4.社会が変われるシナリオ

 7.8.3 歴史に力を及ぼす

  1.存在の力で日本を変える

  2.歴史は変わる市民意識

  3.時間コードが圧縮される

  4.歴史の時空間がテーマ

 7.8.4 存在の無に至る

  1.孤立と孤独から存在の力

  2.全てを知ることを追求

  3.内なる世界のシナリオ

  4.存在と無から存在の無
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パートナーからの急な相談

未来方程式

 未来方程式で資本主義が変わるところは第9章環境社会で述べましょう。大くくりは、第4章歴史編です。

パートナーからの急な相談

 パートナーから突発で相談の依頼があった。「やはり、向いていない」。17時から18時15分まで。また、自信を失っている。

 私も焦りを感じました。パートナーが語っている途中で、ロジックを通そうとしました。聞いていることを表現するために行っていた。頭の中の論理を言葉にさせるような働き掛けです。これをしては、パートナーの思考の完結性が失われる。しっかり、想像力を働かせながら、聴くようにしないといけない。

 どうやってほしいのかというよりも、どう考えてほしいのかを中心にすべきだった。自分で考える力は十分、あるのだから。自分の内なる世界を見てもらえば、自然に答えが出てきます。

 自分自身で切羽詰っている。他との比較で、落ち込んでいる。大学卒の後輩のプレゼンに焦りを感じている。

 私のコメントは、後輩は「素直な、いい子」だから、ああいう形になっている。だけど、あなたはそうではない。「ひねくれて、悪い子」という意味ではない。自分の頭で考えて、本当にやらないことを探していける強さが取り柄だということです。

 思考力の深さを持っている、貴重な存在です。私の経験からすると、その強さは、どうしても孤立をまねく。周りが考えてない名古屋の環境では、生きにくいのは確かです。

 聞いていて、気になっていたのが、話すトーンが低くなっている。それだけ、自分の言葉で論理的に話そうとしている。この習慣は伸ばしていかないといけない。
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デジタル化がもたらす変化はまだ続く

『これからの経営は「南」から学べ』 より

デジタル化(デジタイゼーション)の台頭によって多くのことが変わった。その変化は今も急速な勢いで進行中であり、影響の全体を把握するのは、電が降る嵐の中で天候の変化を見極めようとするのに近い。細部であれば、むしろわかりやすいのだ。デジタル技術はさまざまなコストとサイクルタイムを軽減している。企業は多額の資本を投じずとも量を生産し、すみやかにキャッシュを創出するようになった。市場のセグメントや個人消費者も具体的に特定できる。昔ながらのマーケティングや流通チャネルが破壊され、ビジネスと消費者との関係は抜本的に変質している……。だが、デジタル化かもたらしたインパクトの本質とは、機会が以前よりもュビキタスになった点にある。価値創出の新たな形態を可能にし、国際経済の構成要素を入れ替えている。今後もバリューチェーンに多くの変化が生じ、中抜きが進んで、規模の経済に対する古い考え方を覆していくはずだ。

すでに現時点で、これまでの前提の逆転が始まっている。たとえば、事実上あらゆるビジネスにとっての恐怖の現象、「コモディティ化」。デジタル技術はコモディティ化の脅威を拡大・加速させる。だが実のところ、今まさに台頭しつつある新しい世代の技術は、それとは正反対の傾向--製品の脱コモディティ化の兆候を示しているのだ。コンピューターで制御される多用途かつ融通性の高い機械のおかげで、いまや製品をごく少量単位でも(最終的には一個単位でも)大量生産に近いコストで製造できる。3Dプリンティングと呼ばれる積層造形技術は、コンピュータープログラムの指示どおり、いかようにも素材を形成する。別のモノを作りたければ、機材を交換するのではなく、ただプログラムを入れ替えればいい。この技術がもつ可能性は実に大きい。数百キロ、数千キロ離れた巨大工場ではなく、顧客のいる場所での製造が可能だ。さらに技術が進歩すれば、イノベーションのサイクルが加速し、サプライチェーンや物流の配置も見直され、コストダウンが進み、多くの消費者が多様な品物を入手できるようになる。そうなれば南側の優位性もいくらか消滅する。言うまでもないだろうが、企業は現場業務とプランニングのあり方を再考していかなければならない。

デジタル化によって、新しくグローバルな産業がわずか数年で誕生するようになった点も見逃せない。グーグル、ボネージ、スカイプ、そしてアップルといった企業は続々と通信分野に進出し、産業をまたいだ破壊と革新を生み出している。通信産業全体が成長しているため、こうした企業が奪う通話やデータ通信の収益も伸びていくはずだ。彼らにはコスト優位性があるうえに、もともとこの業界にたずさわってきた者ならではの発想に縛られることもないし、同じ規制も受けていない。

一方で、インターネットベースのマーケティングが、これまで常識だった販売のルールを書き換えている。おそらく世界で最もハイレベルなインターネット企業であるアマゾンは、最強のコスト構造と配送モデルを構築しただけでなく、購入履歴を追跡するアルゴリズムで顧客の習慣を把握し、ターゲットを絞って狙い撃つ能力でも圧倒的に秀でている。店舗型の書籍販売ビジネスモデルを揺るがしたアマゾンは、今度は同じ手法をアパレルから家電まで多様な消費財に応用し、家電小売のベストバイや、小売最大手ウォルマートにすら迫る勢いだ。かつては業界の異端児だったウォルマートが、突如として、挑まれる老舗の立場になったのである。

モバイル技術についても考えてみよう。通りを歩いている最中に、一ブロック先に靴屋があることを把握するなど、消費者はモノを買う場所の情報をその場その場で得ている。さまざまな商品レビューをチェックしたり、価格を比較したりもできる。そうやって見つけた品物はオンラインで、もっと安く、送料無料で買ってしまえばいい。こうした消費者行動はビジネスによっては機会をもたらすが、別のビジネスにとっては破壊をもたらし、儲けやサプライチェーンから多くの資本投資を絞りとる。

SNSも、試合の流れを変えた一要素だ--今もって手探りの試合ではあるのだが。承知のとおり、ソーシャルメディアは新しいアイデアを急速かつ驚異的な規模で広めたり、人の行動に影響をおよぼしたりする。ある消費財の市場を瞬間的に創出する力もあれば、政府を転覆させる力もある(「アラブの春」のように)。二〇一二年のフェイスブックのIPOが期待外れであった事実は、SNSがマーケティングツールとしてどれほどの力をもつのか、多くの疑問が残っている点を浮き彫りにした。だが、ポテンシャルは広大に見える。ソーシャルメディアを駆使し、さらにモバイルアプリの力も加えてリアルタイムで消費者の願望を特定し満足させる方法を、ビジネス界はまだ開拓し始めたばかりだ。
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中国版・国家資本主義

『これからの経営は「南」から学べ』 より

国家資本主義をどこよりも巧妙かつ積極的に実践している国家といえば、中国をおいてほかにない。中国が遠からぬ未来にGDPでアメリカを追い越すことは必至なのだから、同国のやり方はぜひとも理解しておくべきだ。中国は、国家がひとつの大きな貿易プレーヤーとして絶大な勢力をもち、なおかつ新興企業のような競争戦術を駆使するという、近代史に例のないアプローチを編み出した。中国版・国家資本主義が徹底した効力を発揮している理由には、複数の要素が組み合わさっている。北側のコンサルタントなど、全世界から一流の専門家の力を集め、豊富な情報を駆使した実際的な計画経済を実施できること。行政団体を連携させつつ、それぞれに責任を担わせる政治構造があること。アメとムチを活用し、中央レベルから地方レベルを動かす実行力があること。さらには、ビジネスと政府を混ぜ合わせたハイブリッドな事業形態を生み出していること。

中国は貧困を盾に、ビジネス構築に対する徹底的な政府関与を正当化している。その目標は驚くほど野心的だ。何しろ現在およそ一四億の人口を抱えた国家を、貧困から繁栄へと移行させながらも、統制のもと段階的に個人の自由を拡大しようというのである。指導者たちは、近代経済世界への段階的移行が社会不安によって頓挫させられることを深く恐れている(決して杞憂ではない)ため、雇用増大のためにあらゆる手を尽くす。たとえば昨今では、農村部と都市部の収入格差拡大を受けて、製造業を軸とした小規模の都市を新設するプロジェクトを推進している。

そのように国内に力を入れる一方で、中国の行動には、世界を視野に入れたスケールの大きい意図がある。人民元を準備通貨にして、莫大な準備金を作りながら、世界各国の天然資源を押さえる--そして世界のリーダーになるのが狙いなのだ。差し迫っての主眼は経済的パワーの確保だ。道路、港パイプラインの建設を通じて、南側との貿易の流れは必ず中国本土を通そうとしている。経済的パワーがあれば政治的パワーもついてくるからだ。

シンガポールは中国にとって重要な手本である。シンガポール初代首相のリー・クアンューから、中国政府は輸出を基盤とする経済の構築戦略を学んだ。まずは人件費と通貨の裁定取引を利用して製造業を確立し、それからバリューチェーンの上流へとのぼる。有能な人材に責任を担わせ、経済効果と連動したインセンティブを与える。

だが、資本主義を国家にとって有利に活用するという点では、中国はシンガポールよりもうまく実践している。そのうえで、もうひとつ別の教訓も実行に移している。外貨準備を増やし、将来の予測不可能性や、民主的資本主義社会の不安定性から自国を守ることだ。

中国は、経済的優先順位を明確にしたうえで、達成したい目標を「五ヵ年計画」で具体的に定め、それに沿って産業の発展を目指している。現在は第三次五ヵ年計画を実行中だ。掲げられている目標のひとつは、代替エネルギー、バイオテクノロジー、次世代IT、最先端の製造業、先進素材、代替燃料で走る自動車、省エネと環境保護といった七業種にわたる「戦略的な新興産業」の発展である(すでに風力タービンと太陽光パネルの製造では中国が世界最大)。五ヵ年計画というやり方は、中央指令経済で失敗を重ねた旧ソビエト連邦の記憶をよみがえらせるが、彼らが抱いていたファンタジーとは一線を画している。むしろ中国は、情報やデータを十二分に活用し、高い教育を受けて厳密な分析と方法論を駆使する専門家(出すべき成果の責任を担わされてぃる)を集結し実行することで、はるかに実際的な取り組みを推進している。

アメリカのシンクタンク、ブルッキングス研究所のケネス・G・リーバーサルが二〇一〇年の著書Managing the China Challenge(中国の挑戦と対峙する)で提示した説明によれば、トップダウンの人事制度では政治リーダーや党幹部に、共産党指導部の目標や懸念を強く意識させやすい。そして、現場レベルのリーダーが、それぞれの管轄地域で行政機関をコントロールする。重大な問題に関する法律的判断も彼らが左右するし、どの地方銀行がどのプロジェクトに融資すべきかも彼らが決める。管轄地域内の気に入った企業にビジネスのライセンスを与えたり(もちろんそれなりの手数料を取って)、土地を割り当てたり、市場金利を下回る金利で融資するなどして成長させる。こうした市長らが、現地企業と競合する多国籍企業に対しても圧倒的な権力をふるう。

中国の地方行政は、中央計画と緊密に結びついている。国家公務員が職にとどまれるかどうかは、彼らの上にいる指導者が提示した目標への貢献度によって決まる。年一回、書類での査定があるのだが、ここに顕著な特徴がある。リーバーサルの著書によると、成績評価に使われる指標の約六割が、直接的または間接的に、前年のGDP成長率を反映しているのだ。このシステムが完璧というわけではないが、効果的に機能している。

一方、中国の国有企業ではビジネスと政府の境界線が消滅している。黒字計上に縛られず、たとえば海外で特定の資源を確保するなど、基本的には国家利益追求の手段として機能する。過去五年間で鉱業やエネルギー企業の買収に一〇〇〇億ドル以上を投じ、さらに五〇億ドル以上を投じてアフガニスタンやザンビアなどから銅を確保している。二〇一一年には国有企業五社による合弁事業が、レアメタル「ニオブ」の生産高で世界最大の企業の株式を一五%取得した。ニオブは、ジェットエンジン部品や超伝導体材料といった用途で鋼の強化に使われる原料だ。さらに二〇二一年には、やはり国有企業の中国海洋石油総公司(CNOOC)が、カナダ最大級のエネルギー会社ネクセンの買収に一五一億ドルを提示した。ネクセンは、頁岩から採取される天然ガス「シェールガス」や、メキシコ湾の深海油田における最先端の採掘技術を有している。
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昼のIスタバの会話

Iスタバにはまっている

 Iスタバとは、Iさんが居る時のスタバを指します。造語です。

 ゆずとアンナに今日、会うでしょう。Kさんはなぜ、辞めたのかを聞いてみましょう。

 なぜ、握手会を求めたのか。それ以前のところで、会えてよかったという思いが募ってきた。それをカタチに表わしたかった。

昼のIスタバの会話 別のスタバ 3分45秒

 いじめられていない? → 皆、温かく見守ってもらっている。3時・4時はスタッフが少ないので、頑張ってくださいと言われた。頑張ります。

 朝、スタバに寄ったときに、スタッフから寂しがっているかもしれないと言われた → 来てくれると言われていたので、ワクワクとして、待っていました。50分ぐらいから、いつかな、いつかなと。

 昼は牛筋カレーを食べてきました → おいしそうですね。

 朝はスタバに行ってこられたんですね。朝のコーヒー、どうするのかなと思っていた。朝のコーヒーは必要だからね。今日は「そよ風」と「スマトラ」ですね。昨日も同じことを聞いた覚えがある。

 Tさんが居ないんだね → 元々、あと一年ぐらいで、次のやりたいことをすると言っていた。

 あの娘の笑顔はすごいよね。本当の笑顔ですね → バックルームでも同じです。あの笑顔に助けてもらいました。

 今週はどうなっています → 明日は二胡で東京に行きます。

 明後日は、コントロールではないけど、バリスタとして、入っています → ラテアートはできるようになりましたか? → まだまだです。頑張ります。

 金曜日はコントロールでいます。今週は集合で入っているんです → よかった。
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地産地消の次世代型ESCO

『「幸せリーグ」の挑戦』より 幸福実感向上を目指す基礎自治体連合「幸せリーグ」とは

「地産地消の次世代型ESCO」の原理は、地産地消であり、理念は公益資本主義にある。福沢諭吉は、独立自尊という言葉を残したが、経済的に自立化できる事業を、「地産地消の次世代型ESCO」が可能にする。ここで一つの事例を示そう。もし、ある自治体が、街路灯を全部LEDに変換したいが、国など外部からの補助金がないと実現できない状態であったとする。

「地産地消の次世代型ESCO」は省エネモデルを第一段階として、京都府の省エネ対策の一つに採択された。京都での地産地消の次世代型ESCOとは、京都府庁を含むあらゆる府の管轄施設をLEDなどの省エネ機器と置き換えるものである。

実例として「商店街」を取り上げよう。商店街のアーケードの「照明をLED化」し、その結果、削減できた電気代の一部を使って、観光案内多言語サイトを提供するための「フリーWiFi用のアンテナ」の設置を可能にした。外国人観光客が増加するとともに防犯対策として「防犯カメラ」の設置費用も削減分か原資となっている。このパッケージは、あらゆる自治体で活用できる理想的な実用モデルだ。

また、地元住民が蓄えた民間資金を活用する仕組みとして、「顔の見える金融」としての地方債や預金を創設発行するなどの諸制度を自治体が整備できると、目的を持った資金が循環し、そのすべての当事者が「三方よし!」で直接的間接的便益を享受できる。

まずは、「地産地消の次世代型ESCO」を、各自治体で解決したいエネルギーや環境の問題に最適に活用できるように設計する。これを公益資本主義による地産地消循環モデルと位置付け、地域全体に普及するのだ。国とは関係なく進められる自由度の高い地方事業の糊代を大きくできるので、「地産地消の次世代型ESCO」は非常に有効である。地方の活力を取り戻すために、幸せリーグ社中の自治体で活用していただければ日本の地方は確実に元気になる。

最後に、公益資本主義とは何かを簡単に示しておきたい。

公益資本主義とは、英米型の株主資本主義(この発展系の究極の形を金融資本主義と呼ぶ)や、中国型の国家資本主義と対極をなす「新しい資本主義」である。

平成二〇(二〇〇八)年に米国であった実際の例を示そう。不況で喘ぐアメリカン航空は、従業員に対して、三四〇億円の給与削減を受け入れてもらわないと会社はつぶれると迫った。倒産したら路頭に迷うので従業員はこれを受け入れた。その結果として経営陣は二〇〇億円のボーナスをもらったという事実がある。多くの日本人は、従業員が給与削減したのだから経営陣はもっと大きな割合で報酬の削減を受け入れ、痛みを分かち合うべきだと思うであろう。しかし、株主資本主義の解釈は異なる。会社は株主のものだと主張する株主資本主義者にとっては、従業員給与は負債である。負債の削減を実行してくれた経営陣に対してボーナスを払うのは当然だと考えるのだ。社外取締役もコーポレートガバナンスに違反しているとは指摘をしない。一方、中国型国家資本主義は、計画経済の名を借りた帝国主義である。

株主資本主義は、短期的に企業価値を増大することをもって目的とする。企業価値とは時価総額のことである。時価総額は株価を上げれば増えるので、株価を短期に上げるためには、時間のかかる研究開発や製造業モデルは推奨されない。したがって、すぐに儲けたい彼らにとって、ヘッジファンドなどの投機金融モデルが最適事業となる。しかし投機金融モデルは、ゼロサムゲームであり、繰り返すほどに貧富の格差が広がり、社会は疲弊する。この点は中国も同じである。

世界人口は、今後、現在の七〇億人から二〇五〇年には一〇〇億人となる。人口増は主として途上国がもたらし、二〇五〇年には世界の八五パーセントの人口は途上国が占める。途上国を放置した場合、これらの国々は、英米型や中国型の経済発展を遂げ、格差の大きな社会となり、他の要因と合併して政治経済的に非常に不安定な時代になる可能性が高い。そこで、「新しい資本主義」ともいえる公益資本主義を活用し、中間層の分厚い安定した地球社会を作りたい。

日本だけでなく、世界の地域経済の自立化と、平和と安定に寄与することに、公益資本主義の考え方は役立つものと断言し、筆をおきたい。

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歴史と人生について

『氷川清話』より 歴史と人生について

歴史とは何か

 おれはいつもつらつら思うのだ。およそ世の中に歴史というものほどむずかしいことはない。

 元来、人間の知恵は未来のことまで見透かすことができないから、過去のことを書いた歴史というものにかんがみて、将来をも推測しようというのだが、しかるところ、この肝心の歴史が容易に信用せられないとは、実に困ったしだいではないか。見なさい。幕府が倒れてからわずかに三十年しか経たないのに、この幕末の歴史をすら完全に伝えるものが一人もないではないか。それは当時の有りさまを目撃した古老もまだ生きているだろう。しかしながら、そういう先生は、たいてい当時にあってでさえ、局面の内外表裏が理解できなかった連中だ。それがどうして三十年の後からそのころの事情を書き伝えることができようか。いわんやこれが今から十年も二十年もたって、その古老までが死んでしまった日には、どんな誤りを後世に伝えるかもしれない。歴史というものは、実にむずかしいものさ。

島国の人間に余裕なし

 なにしろ人間は、身体が壮健でなくてはいけない。精神の勇ましいのと、根気の強いのとは、天下の仕事をする上にどうしてもなくてはならないものだ。そして身体が弱ければ、この精神とこの根気とを有することができない。つまりこの二つのものは大丈夫の身体でなければ宿らないのだ。

 ところが日本人は五十になると、もうじきに隠居だとか何だとかいって、世の中を逃げ去る考えを起こすが、どうもあれでは仕方がないではないか。

 しかし島国の人間は、どこも同じことで、とにかくその日のことよりほかは目につかなくって、五年十年さきはまるで暗やみ同様だ。それもひっきょう、度量が狭くって、思慮に余裕がないからのことだよ。

 もしこの余裕というものさえあったなら、たとえ五十になっても、六十になっても、まだまだ鈴々血気の若武者であるから、このおもしろい世の中を逃げるなどというような、途方もない考えなどはけっしてできないものだ。

 それであるから、昔の武士は、身体を鍛えることには、よほど骨を折ったものだよ。弓馬槍剣、さては柔術などといって、いろいろの武芸を修業して鍛えたものだから、そこでおれのように年は取っても身体が衰えず、精神も根気もなかなか今の人たちの及ぶところではないのだ。

 もっとも昔の武士は、こんなに身体を鍛えることには、ずいぶん骨を折ったが、しかし学問はその割りにはしなかったよ。それだから、今の人のように、小理屈をいうものはいなかったけれども、その代わり、一旦国家に緩急があるときは、命を君のご馬前にささげることは平生ちゃんと承知していたよ。いわゆる「君辱しめらるれば、臣死す」という教えが、深く頭の中に染みこんでいたから、いざという場合になると、雪のようなもろ肌を押しぬいで、腹一文字にかぎ切ることをなんとも思わなかったのだ。

 しかるに、学問にこりかたまっている今の人は、声ばかりはむやみに大きくて、胆魂の小さいことは実に豆のごとしで、からいばりにはいばるけれども、まさかの場合に役に立つものは、ほとんどまれだ。みんな縮みこんでしまう先生ばかりだよ。

寝学問

 活学問にも種々しかたがあるが、まず横に寝ていて、自分のこれまでの経歴を顧み、これを古来の実例に照らして、しずかにその利害得失を講究するのが一番近道だ。そうすればきっと何万巻の書を読破するにもまさる効能があるに相違ない。

 区々たる小理屈は、たれか学者先生をとらえて、ちょっと聞けばすぐわかることだ。個中の妙味は、また一種格別のもので、おれの学問というのは、たいがいこの寝学間だ。

 しかし俗物には、この妙味がわからないで、理屈づめに世の中の事を処置しようとするから、いつも失敗のしつづけで、そうしてあとでは大騒ぎをしている。実にばかげた話ではないか。

 おれなどは、理屈以上のいわゆる呼吸というものでやるから、容易に失敗もせぬが、万一そういう逆境にでも陥った場合には、じっと騒がずに寝ころんでいる。またのちの機会がくるのを待っている。そしてその機会がきたならば、すかさずそれをつかまえて、事に応じ物に接してこれを活用するのだ。つまり、これが真個の学問というものさ。
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