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デジタル化がもたらす変化はまだ続く

『これからの経営は「南」から学べ』 より

デジタル化(デジタイゼーション)の台頭によって多くのことが変わった。その変化は今も急速な勢いで進行中であり、影響の全体を把握するのは、電が降る嵐の中で天候の変化を見極めようとするのに近い。細部であれば、むしろわかりやすいのだ。デジタル技術はさまざまなコストとサイクルタイムを軽減している。企業は多額の資本を投じずとも量を生産し、すみやかにキャッシュを創出するようになった。市場のセグメントや個人消費者も具体的に特定できる。昔ながらのマーケティングや流通チャネルが破壊され、ビジネスと消費者との関係は抜本的に変質している……。だが、デジタル化かもたらしたインパクトの本質とは、機会が以前よりもュビキタスになった点にある。価値創出の新たな形態を可能にし、国際経済の構成要素を入れ替えている。今後もバリューチェーンに多くの変化が生じ、中抜きが進んで、規模の経済に対する古い考え方を覆していくはずだ。

すでに現時点で、これまでの前提の逆転が始まっている。たとえば、事実上あらゆるビジネスにとっての恐怖の現象、「コモディティ化」。デジタル技術はコモディティ化の脅威を拡大・加速させる。だが実のところ、今まさに台頭しつつある新しい世代の技術は、それとは正反対の傾向--製品の脱コモディティ化の兆候を示しているのだ。コンピューターで制御される多用途かつ融通性の高い機械のおかげで、いまや製品をごく少量単位でも(最終的には一個単位でも)大量生産に近いコストで製造できる。3Dプリンティングと呼ばれる積層造形技術は、コンピュータープログラムの指示どおり、いかようにも素材を形成する。別のモノを作りたければ、機材を交換するのではなく、ただプログラムを入れ替えればいい。この技術がもつ可能性は実に大きい。数百キロ、数千キロ離れた巨大工場ではなく、顧客のいる場所での製造が可能だ。さらに技術が進歩すれば、イノベーションのサイクルが加速し、サプライチェーンや物流の配置も見直され、コストダウンが進み、多くの消費者が多様な品物を入手できるようになる。そうなれば南側の優位性もいくらか消滅する。言うまでもないだろうが、企業は現場業務とプランニングのあり方を再考していかなければならない。

デジタル化によって、新しくグローバルな産業がわずか数年で誕生するようになった点も見逃せない。グーグル、ボネージ、スカイプ、そしてアップルといった企業は続々と通信分野に進出し、産業をまたいだ破壊と革新を生み出している。通信産業全体が成長しているため、こうした企業が奪う通話やデータ通信の収益も伸びていくはずだ。彼らにはコスト優位性があるうえに、もともとこの業界にたずさわってきた者ならではの発想に縛られることもないし、同じ規制も受けていない。

一方で、インターネットベースのマーケティングが、これまで常識だった販売のルールを書き換えている。おそらく世界で最もハイレベルなインターネット企業であるアマゾンは、最強のコスト構造と配送モデルを構築しただけでなく、購入履歴を追跡するアルゴリズムで顧客の習慣を把握し、ターゲットを絞って狙い撃つ能力でも圧倒的に秀でている。店舗型の書籍販売ビジネスモデルを揺るがしたアマゾンは、今度は同じ手法をアパレルから家電まで多様な消費財に応用し、家電小売のベストバイや、小売最大手ウォルマートにすら迫る勢いだ。かつては業界の異端児だったウォルマートが、突如として、挑まれる老舗の立場になったのである。

モバイル技術についても考えてみよう。通りを歩いている最中に、一ブロック先に靴屋があることを把握するなど、消費者はモノを買う場所の情報をその場その場で得ている。さまざまな商品レビューをチェックしたり、価格を比較したりもできる。そうやって見つけた品物はオンラインで、もっと安く、送料無料で買ってしまえばいい。こうした消費者行動はビジネスによっては機会をもたらすが、別のビジネスにとっては破壊をもたらし、儲けやサプライチェーンから多くの資本投資を絞りとる。

SNSも、試合の流れを変えた一要素だ--今もって手探りの試合ではあるのだが。承知のとおり、ソーシャルメディアは新しいアイデアを急速かつ驚異的な規模で広めたり、人の行動に影響をおよぼしたりする。ある消費財の市場を瞬間的に創出する力もあれば、政府を転覆させる力もある(「アラブの春」のように)。二〇一二年のフェイスブックのIPOが期待外れであった事実は、SNSがマーケティングツールとしてどれほどの力をもつのか、多くの疑問が残っている点を浮き彫りにした。だが、ポテンシャルは広大に見える。ソーシャルメディアを駆使し、さらにモバイルアプリの力も加えてリアルタイムで消費者の願望を特定し満足させる方法を、ビジネス界はまだ開拓し始めたばかりだ。
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