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中国版・国家資本主義

『これからの経営は「南」から学べ』 より

国家資本主義をどこよりも巧妙かつ積極的に実践している国家といえば、中国をおいてほかにない。中国が遠からぬ未来にGDPでアメリカを追い越すことは必至なのだから、同国のやり方はぜひとも理解しておくべきだ。中国は、国家がひとつの大きな貿易プレーヤーとして絶大な勢力をもち、なおかつ新興企業のような競争戦術を駆使するという、近代史に例のないアプローチを編み出した。中国版・国家資本主義が徹底した効力を発揮している理由には、複数の要素が組み合わさっている。北側のコンサルタントなど、全世界から一流の専門家の力を集め、豊富な情報を駆使した実際的な計画経済を実施できること。行政団体を連携させつつ、それぞれに責任を担わせる政治構造があること。アメとムチを活用し、中央レベルから地方レベルを動かす実行力があること。さらには、ビジネスと政府を混ぜ合わせたハイブリッドな事業形態を生み出していること。

中国は貧困を盾に、ビジネス構築に対する徹底的な政府関与を正当化している。その目標は驚くほど野心的だ。何しろ現在およそ一四億の人口を抱えた国家を、貧困から繁栄へと移行させながらも、統制のもと段階的に個人の自由を拡大しようというのである。指導者たちは、近代経済世界への段階的移行が社会不安によって頓挫させられることを深く恐れている(決して杞憂ではない)ため、雇用増大のためにあらゆる手を尽くす。たとえば昨今では、農村部と都市部の収入格差拡大を受けて、製造業を軸とした小規模の都市を新設するプロジェクトを推進している。

そのように国内に力を入れる一方で、中国の行動には、世界を視野に入れたスケールの大きい意図がある。人民元を準備通貨にして、莫大な準備金を作りながら、世界各国の天然資源を押さえる--そして世界のリーダーになるのが狙いなのだ。差し迫っての主眼は経済的パワーの確保だ。道路、港パイプラインの建設を通じて、南側との貿易の流れは必ず中国本土を通そうとしている。経済的パワーがあれば政治的パワーもついてくるからだ。

シンガポールは中国にとって重要な手本である。シンガポール初代首相のリー・クアンューから、中国政府は輸出を基盤とする経済の構築戦略を学んだ。まずは人件費と通貨の裁定取引を利用して製造業を確立し、それからバリューチェーンの上流へとのぼる。有能な人材に責任を担わせ、経済効果と連動したインセンティブを与える。

だが、資本主義を国家にとって有利に活用するという点では、中国はシンガポールよりもうまく実践している。そのうえで、もうひとつ別の教訓も実行に移している。外貨準備を増やし、将来の予測不可能性や、民主的資本主義社会の不安定性から自国を守ることだ。

中国は、経済的優先順位を明確にしたうえで、達成したい目標を「五ヵ年計画」で具体的に定め、それに沿って産業の発展を目指している。現在は第三次五ヵ年計画を実行中だ。掲げられている目標のひとつは、代替エネルギー、バイオテクノロジー、次世代IT、最先端の製造業、先進素材、代替燃料で走る自動車、省エネと環境保護といった七業種にわたる「戦略的な新興産業」の発展である(すでに風力タービンと太陽光パネルの製造では中国が世界最大)。五ヵ年計画というやり方は、中央指令経済で失敗を重ねた旧ソビエト連邦の記憶をよみがえらせるが、彼らが抱いていたファンタジーとは一線を画している。むしろ中国は、情報やデータを十二分に活用し、高い教育を受けて厳密な分析と方法論を駆使する専門家(出すべき成果の責任を担わされてぃる)を集結し実行することで、はるかに実際的な取り組みを推進している。

アメリカのシンクタンク、ブルッキングス研究所のケネス・G・リーバーサルが二〇一〇年の著書Managing the China Challenge(中国の挑戦と対峙する)で提示した説明によれば、トップダウンの人事制度では政治リーダーや党幹部に、共産党指導部の目標や懸念を強く意識させやすい。そして、現場レベルのリーダーが、それぞれの管轄地域で行政機関をコントロールする。重大な問題に関する法律的判断も彼らが左右するし、どの地方銀行がどのプロジェクトに融資すべきかも彼らが決める。管轄地域内の気に入った企業にビジネスのライセンスを与えたり(もちろんそれなりの手数料を取って)、土地を割り当てたり、市場金利を下回る金利で融資するなどして成長させる。こうした市長らが、現地企業と競合する多国籍企業に対しても圧倒的な権力をふるう。

中国の地方行政は、中央計画と緊密に結びついている。国家公務員が職にとどまれるかどうかは、彼らの上にいる指導者が提示した目標への貢献度によって決まる。年一回、書類での査定があるのだが、ここに顕著な特徴がある。リーバーサルの著書によると、成績評価に使われる指標の約六割が、直接的または間接的に、前年のGDP成長率を反映しているのだ。このシステムが完璧というわけではないが、効果的に機能している。

一方、中国の国有企業ではビジネスと政府の境界線が消滅している。黒字計上に縛られず、たとえば海外で特定の資源を確保するなど、基本的には国家利益追求の手段として機能する。過去五年間で鉱業やエネルギー企業の買収に一〇〇〇億ドル以上を投じ、さらに五〇億ドル以上を投じてアフガニスタンやザンビアなどから銅を確保している。二〇一一年には国有企業五社による合弁事業が、レアメタル「ニオブ」の生産高で世界最大の企業の株式を一五%取得した。ニオブは、ジェットエンジン部品や超伝導体材料といった用途で鋼の強化に使われる原料だ。さらに二〇二一年には、やはり国有企業の中国海洋石油総公司(CNOOC)が、カナダ最大級のエネルギー会社ネクセンの買収に一五一億ドルを提示した。ネクセンは、頁岩から採取される天然ガス「シェールガス」や、メキシコ湾の深海油田における最先端の採掘技術を有している。
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