日々のことを徒然に

地域や仲間とのふれあいの中で何かを発信出来るよう学びます

城下町の医院

2018年10月27日 | エッセイサロン
2018年10月27日 中国新聞セレクト「ひといき」掲載

 城下町の風情が残る通りの医院には、大きな病院では味わえない「待合室」がある。
 玄関は自動ドアだが、迎えてくれるげた箱は棚が数段ある木製。懐かしい昭和を感じさせる。履物をしゃがんで持ち上げ棚に置く所作は並んではできない。 「どっこいしょ、お先に」と、待っている私に高齢の女性が声を掛けた。
 受付は木枠の小さな窓である。壁に沿った長椅子に腰掛けて順番を待つ。床は板張りで、その色つやは先代から続く歴史を感じる。
 壁には、手書きのお知らせや患者寄贈の手芸品が飾られて、落ち着きと安らぎが漂う。隣り合わせた人と会話も弾む。まさに辞書通りの「患者が順番を待つ部屋」待合室である。
 先生は海外旅行が趣味のようで、盆や年末年始の休診はほかの医院より少し長めに感じるが、息抜きは患者のためになる。
 休み明けに展示される写真を楽しみにしている。今は数枚、南イタリア・シチリアの紺碧の空と海、そこに暮らす人々を見ることができる。いつも自然のままに撮られていて、親しみやすい。一枚一枚見ながら、医院の構えと先生の趣味の差異にユーモアを感じている。
 支払いを済ませた高齢の女性が「タクシーを呼んでください」と受付に頼み10円硬貨を渡した。ここ待合室ならではの光景だ。
 順番が来た。手書きのカルテを確認しながらの治療は、パソコンにはない信頼とぬくもりがある。
コメント
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