競馬を終えて、繁殖供用をはじめて受胎している雌馬が跛行するようになった。
競馬で繋部の靭帯や腱付着部を傷めていて、それがひどくなってきたらしい。
近位指節間関節は亜脱臼している。
おそらく基節骨(第一指骨)の遠位掌側に付着している種子骨直靭帯などを傷めて、繋を牽引できなくなったので繋が前へ突出してしまうのだろう。
まだ変形性関節症はひどくはないが、いずれもっとひどくなり、負重できなくなる。
それでは繁殖雌馬としてもやっていけないので、関節固定手術をすることにした。
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仰臥位で3穴ナローLCPと5.5mm皮質骨スクリューで関節固定した。
この馬は亜脱臼が慢性化して、靭帯が固まってしまっているので、第一指骨と第二指骨を直線状にまで整復できなかった。
それも今までの症例での経験とDr.Richardsonの指導で織り込み済み。
牽引装置を使ってできるだけ正常な位置関係になるように牽引整復した。
関節軟骨はキュレットで搔きとってある。関節面には浅いドリル孔をたくさん掘った。
骨癒合が早期に達成されるので、プレートやスクリューが金属疲労による破損を起こしにくい。
頑丈に固定されているので、キャスト固定の期間が短くて済む。
関節が完全に動かないので、術後の痛みも少ない。
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とても大きな外科侵襲を伴う手術だが、関節固定手術以外では治せないだろうと思う。
こういう思い切った治療をできるかどうかは、信頼して任せてもらえるかどうかによるところも大きい。
文献でも近位指節間関節、近位趾節間関節の関節固定術の成功率は100%ではない。
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これもディーン・クーンツのサスペンス小説で、ゴールデンが出てくる。
ただし、この小説に出てくるのは「ウォッチャーズ」に出てきたようなスーパーなゴールデンではない。
まあ、でも、なかなか面白かった。
因果関係がわからない登場人物たちのつながりが明らかにされていって、物語は行き着くべきところへ・・・・
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一年でいちばん暗い夕暮れに (ハヤカワ文庫 NV ク 6-9) (ハヤカワ文庫NV) |
松本 依子,佐藤 由樹子 | |
早川書房
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リスクもあるのでしょうけれど、おかぁさんとして生きていくこのおんまさんのこれからがいい馬生でありますように。
馬もリウマチと病名をつける獣医師がいましたが、人のリウマチと同じ病気はまずないと思います。
受胎状況で手術に突入するというのもすごいですが、生産性というよりはQuality of Lifeの面を強調したい所です。
産業動物でも淘汰の理由は経済的Quantity of Economy?というより、QOLになるべきなのかもしれません。必ずしも背反ではないわけですし、安くない外科侵襲の基本的な目的はQOLの向上だと思っていますから。
私にはとうていおぼつかないですが、この術式はhig先生の一つのテーマになりそうですね。文献上必ずしも成功裡ではないというなら取り組み甲斐もあることでしょう。
Dr.Richardson的には遠位のスクリューロッキングをぜひとも成立させたいところなのでしょうが、簡単ではなさそうですね。
第1第2指骨間で段差のつく場合がほとんどでしょうから、Z字にプレート曲げては如何でしょう。への字ではなくプレートの端々の並行を作るわけです。
段差が想定以上に整復された場合でも、中節骨がより背側に持っていかれるだけですから問題ないはずです。
この場合固定する関節面をより背側に持っていけば直線より理想的な肢軸に近づきそうですが如何でしょう。
骨のサイズに依存するでしょうけれども、プレート整形量のガイドラインも作れそうな気がします。
いずれ大動物でも望ましい器材をオーダーできるようになるかもしれません。日本人向けのプレートを作っているメーカーもありますので、クウォーターホース用とか、子馬の橈骨用の湾曲したプレートとか・・・もっと開発、製造、在庫管理コストが安くなればですが。
残念ながら結果やリスクをもたらすだけの外科スキルが産業動物で成立しているとは必ずしも言えない状況ではないかと考えています。
QOLを確保できない状況で徒にコストをかけて延命するというのが経済的に相当見合わないということを言いたいわけです。
hig先生が言っている躊躇とは同じ螺旋階段のはるか下の方に安楽死、という選択も存在してるのでしょう。
その判断が簡単か否かは獣医師の価値観でありましょうけれども。
どんなに器材オーダーが目的別に細分化されて吊るしの商品が増えても、的確に応用されなければ意味ないでしょう。
其用の資材を持ってくればいいという安易な外科が増えるだけではないかと思います。
今はだれがリーディングしているのか知りませんが、私の大学時代の小動物外科の第一人者はボール盤(これ知っているかどうかすら)までつかって自分でプレート作っていたそうです。
競走馬をそのレベルでやられてはひとたまりもないでしょうが、馬は物理的な限界も有りますし、外科スキルとしての適切な器材の応用の追求に際限はない事と思われます。
外科に限らず無効な内科療法を行ってQOLお構いなしに延命や休薬延長するという話も有りましょうけれども。
ややもすると虐待ですね。
繋靱帯損傷とのお考えですが、拘縮の果てであったりはしないのでしょうか。
牽引できないというのであれば、球節が落ちそうですが。こちらは屈腱で維持されているのですかね。
第一指骨遠位掌側を牽引している種子骨靭帯が部分断裂したのだと思います。第二指骨掌側が牽引されすぎてもこうはならないはずです。