馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

近位指節間関節亜脱臼の関節固定手術

2015-08-03 | 整形外科

競馬を終えて、繁殖供用をはじめて受胎している雌馬が跛行するようになった。

その前肢はこんな感じ。

競馬で繋部の靭帯や腱付着部を傷めていて、それがひどくなってきたらしい。

x線画像ではこんな感じ。

近位指節間関節は亜脱臼している。

おそらく基節骨(第一指骨)の遠位掌側に付着している種子骨直靭帯などを傷めて、繋を牽引できなくなったので繋が前へ突出してしまうのだろう。

まだ変形性関節症はひどくはないが、いずれもっとひどくなり、負重できなくなる。

それでは繁殖雌馬としてもやっていけないので、関節固定手術をすることにした。

                     -

仰臥位で3穴ナローLCPと5.5mm皮質骨スクリューで関節固定した。

この手術は私は5例目。

この馬は亜脱臼が慢性化して、靭帯が固まってしまっているので、第一指骨と第二指骨を直線状にまで整復できなかった。

それも今までの症例での経験とDr.Richardsonの指導で織り込み済み。

牽引装置を使ってできるだけ正常な位置関係になるように牽引整復した。

関節軟骨はキュレットで搔きとってある。関節面には浅いドリル孔をたくさん掘った。

骨癒合が早期に達成されるので、プレートやスクリューが金属疲労による破損を起こしにくい。

頑丈に固定されているので、キャスト固定の期間が短くて済む。

関節が完全に動かないので、術後の痛みも少ない。

                     -

とても大きな外科侵襲を伴う手術だが、関節固定手術以外では治せないだろうと思う。

こういう思い切った治療をできるかどうかは、信頼して任せてもらえるかどうかによるところも大きい。

文献でも近位指節間関節、近位趾節間関節の関節固定術の成功率は100%ではない。

                  ////////////

 これもディーン・クーンツのサスペンス小説で、ゴールデンが出てくる。

ただし、この小説に出てくるのは「ウォッチャーズ」に出てきたようなスーパーなゴールデンではない。

まあ、でも、なかなか面白かった。

因果関係がわからない登場人物たちのつながりが明らかにされていって、物語は行き着くべきところへ・・・・

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松本 依子,佐藤 由樹子

早川書房

 



12 コメント

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Unknown (はとぽっけ)
2015-08-03 21:20:16
 ここ固めたら、どんなハンデ?と、最後の10完歩みてみました。が、わかりませんでした。
 リスクもあるのでしょうけれど、おかぁさんとして生きていくこのおんまさんのこれからがいい馬生でありますように。
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>はとぽっけさん (hig)
2015-08-03 21:29:06
あまり動かない関節なので、固定してしまう弊害は少ないようです。繁殖目的だけでなく、競技以外の運動なら充分耐えられるようです。しかし、変形性関節症や亜脱臼をしたままだと相当痛いです。
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Unknown (まりおん)
2015-08-04 10:28:33
ヒトの外反母趾の手術に似てるのかなあと思いました、自分のが相当悪くなってるのもあって^^ 関節リウマチになってからよりへんな形になったんですが、ウマにもリウマチってありますか?
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>まりおんさん (hig)
2015-08-04 19:08:04
外反母趾で関節固定をするのと同じですね。動かなくなるけど、その方がずっと楽。ということです。
馬もリウマチと病名をつける獣医師がいましたが、人のリウマチと同じ病気はまずないと思います。
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Unknown (zebra)
2015-08-08 01:51:35
御無沙汰で恐縮です。
受胎状況で手術に突入するというのもすごいですが、生産性というよりはQuality of Lifeの面を強調したい所です。
産業動物でも淘汰の理由は経済的Quantity of Economy?というより、QOLになるべきなのかもしれません。必ずしも背反ではないわけですし、安くない外科侵襲の基本的な目的はQOLの向上だと思っていますから。
私にはとうていおぼつかないですが、この術式はhig先生の一つのテーマになりそうですね。文献上必ずしも成功裡ではないというなら取り組み甲斐もあることでしょう。
Dr.Richardson的には遠位のスクリューロッキングをぜひとも成立させたいところなのでしょうが、簡単ではなさそうですね。
第1第2指骨間で段差のつく場合がほとんどでしょうから、Z字にプレート曲げては如何でしょう。への字ではなくプレートの端々の並行を作るわけです。
段差が想定以上に整復された場合でも、中節骨がより背側に持っていかれるだけですから問題ないはずです。
この場合固定する関節面をより背側に持っていけば直線より理想的な肢軸に近づきそうですが如何でしょう。
骨のサイズに依存するでしょうけれども、プレート整形量のガイドラインも作れそうな気がします。
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>zebraさん (hig)
2015-08-08 05:08:03
このような手術が産業動物でなりたつのは経済的にも見合う結果が得られることと、リスクが少ないことでしょうね。とくに術前の状態がひどくないときには躊躇して当然です。

いずれ大動物でも望ましい器材をオーダーできるようになるかもしれません。日本人向けのプレートを作っているメーカーもありますので、クウォーターホース用とか、子馬の橈骨用の湾曲したプレートとか・・・もっと開発、製造、在庫管理コストが安くなればですが。
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Unknown (zebra)
2015-08-08 07:52:53
相変わらず文章が変ですみません。
残念ながら結果やリスクをもたらすだけの外科スキルが産業動物で成立しているとは必ずしも言えない状況ではないかと考えています。
QOLを確保できない状況で徒にコストをかけて延命するというのが経済的に相当見合わないということを言いたいわけです。
hig先生が言っている躊躇とは同じ螺旋階段のはるか下の方に安楽死、という選択も存在してるのでしょう。
その判断が簡単か否かは獣医師の価値観でありましょうけれども。

どんなに器材オーダーが目的別に細分化されて吊るしの商品が増えても、的確に応用されなければ意味ないでしょう。
其用の資材を持ってくればいいという安易な外科が増えるだけではないかと思います。
今はだれがリーディングしているのか知りませんが、私の大学時代の小動物外科の第一人者はボール盤(これ知っているかどうかすら)までつかって自分でプレート作っていたそうです。
競走馬をそのレベルでやられてはひとたまりもないでしょうが、馬は物理的な限界も有りますし、外科スキルとしての適切な器材の応用の追求に際限はない事と思われます。
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>zebraさん (hig)
2015-08-09 05:15:08
器具器材やその使用にまつわる手技も目覚しく進歩していて、LCP、LHS、5.5mmスクリューも日本でも市販されています。そして、DCPや4.5mmスクリューの値段は下がっています。産業動物の獣医師だけがいつまでも「できない」とか「経済的にあわない」とか言っていていいのか?と思います。
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Unknown (zebra)
2015-08-10 07:06:43
コスト的に見合わないのはできない手技を応用する獣医師なのかもしれないですね。
外科に限らず無効な内科療法を行ってQOLお構いなしに延命や休薬延長するという話も有りましょうけれども。
ややもすると虐待ですね。

繋靱帯損傷とのお考えですが、拘縮の果てであったりはしないのでしょうか。
牽引できないというのであれば、球節が落ちそうですが。こちらは屈腱で維持されているのですかね。
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>zebraさん (hig)
2015-08-10 07:54:49
家畜に「被害」があったとき、それをなかったことにはできないけど、損失を最小限に抑える。その抑えるための費用よりは少ない経費を治療代としていただく。というのがわれわれの仕事でしょう。外科治療はもちろん、内科療法でも、あるいは診察だけでも、損失抑制に役立たなければ、被害は増えてしまいます。

第一指骨遠位掌側を牽引している種子骨靭帯が部分断裂したのだと思います。第二指骨掌側が牽引されすぎてもこうはならないはずです。
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