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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

第一指骨、趾骨骨折

2006-04-17 | 整形外科

 ここ数年、スクリューで内固定しなければいけないような骨折で一番多いのは、球節の下、第一指骨(これは前肢)、第一趾骨(後肢)の骨折だ。ボッキリ折れてしまうわけではなく、縦にヒビがはいる。

キャスト(ギプス)だけでも治る症例もあるが、スクリューで固定した方が、治りが早い。関節面の傷も小さくできる。ボッキリ骨折に発展する危険を減らせる。

P1 こういう風に、端から端まで割れてしまうと命の危険もある。

この競走馬は、骨折線がまっすぐ伸びたのでラッキーだった。骨折線が「人」字型になり、球節と指(趾)骨間関節をつなぐ骨がひとつもなくなると、スクリュー固定しても、キャストを巻いても体重を支えさせることが難しく、命を助けるのも難しくなる。

この競走馬は手術して繁殖にすることになった。「良い成績残したんだ?」と聞いたら「全然」と言う答え。

しかし、100回近く出走してくれたので、馬主さんはこの馬がとても可愛いのだそうだ。幸せな馬だ。

P1screw 右は手術して数ヵ月後。もう競走は引退するので、関節面近くにスクリューを入れる必要はないと考えた。スクリューも抜く必要はない。

こういうスクリューは、ねじ山1巻き半先っぽを反対側の骨皮質へ出した方が強度が強いとされている。

骨は均一な一つの塊ではない。第一指(趾)骨などは、外側だけが硬い皮質骨で、中は海綿骨あるいは骨髄と呼ばれる血液豊富な柔らかい骨組織でできている。

固定するためには、こちら側の皮質とあちら側の皮質にしっかりねじ山を効かせる必要がある。

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ほとんどの症例は第一指(趾)骨の長さの何分の一かヒビが入っているだけだ。その骨折線の長さによってスクリューを何本入れるかを決める。

最近は関節面を圧迫することを意識して、関節の近くにできれば2本スクリューを入れようと考えている。

杯のような形をしている骨なので、球節の近くは骨の面が斜めになっていてドリルで孔を開けにくい。また、繋靭帯の枝が通っていて邪魔になるし、スクリューの先やスクリューヘッドがその枝の動きを邪魔しないように気にかかる。あまり関節に近すぎると関節を取り巻く靭帯を傷つけるので良くないかもしれない。

術後はまたキャストを巻く。これは麻酔覚醒のときの安全のためのものだ。骨折の重症度にもよるが、しっかり圧迫固定できればキャストは数日ではずしても良い。

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 ドリルやねじで手術していると、「大工仕事だね」と言われることもある。大工仕事との違いを感じていただきたかったのだが、やっぱり大工仕事ですか?


4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
>けいちちさん (hig)
2006-04-18 23:18:20
>けいちちさん
 こんなに綺麗に?二つに、というのは私も1例しか診ていません。
 グチャグチャ。というのも今度お見せしたいと思います。
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勉強になります。 (けいちち)
2006-04-18 21:53:05
勉強になります。
それにしてもきれいに骨折するものですね。驚きです。
恥ずかしながらスクリュー固定などはやったことがないのですが、技術的には簡便な方なのでしょうか?どれをとっても極めるのは簡単ではないと思いますが。

先日の蹄葉炎の投稿も大変参考になりました。
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>ハピネモさん (hig)
2006-04-18 06:28:40
>ハピネモさん
 最後の違いは、失敗したとき材木(骨)の取替えがきかないことでしょうか・・・・
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音だけ聞いてれば大工さんですね・・ (ハピネモ)
2006-04-17 22:32:35
音だけ聞いてれば大工さんですね・・
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