真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「さすらひかもめ ‐釧路の女‐」(昭和48/製作:日活株式会社/監督:西村昭五郎/脚本:西田一夫/プロデューサー:岡田裕/撮影:萩原憲治/美術:渡辺平八郎/録音:木村瑛二/照明:熊谷秀夫/編集:山田真司/音楽:山野狩人/助監督:長谷川和彦/色彩計測:鈴木耕一/現像:東洋現像所/製作担当者:天野勝正/協力:吉永長吉郎/協力:日本沿海フェリー/出演:片桐夕子・二条朱実・宮下順子・吉田潔・高橋明・織田俊彦・島村謙次・小森道子・清水国雄・小見山玉樹・白井鋭)。出演者中島村謙次と、清水国雄以降は本篇クレジットのみ。クレジットがスッ飛ばす配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。音楽の山野狩人は小杉太一郎の変名らしいが、小杉太一郎本体を存じ上げないゆゑ通り過ぎる。
 釧路行きのフェリー、甲板に宮下順子が一人佇む。風に飛んだ純子(宮下)のスカーフを、適当に誤魔化したカットで矢崎大作(吉田)が拾ふ。矢崎は純子が、入水しはしまいかと見守つてゐた。傍らではジュークボックスで簡易ディスコしてゐたりもする、バーカウンターで矢崎が純子に改めて接触。純子は釧路に向かふのではなく、五年ぶりの帰郷だつた。天涯孤独で忽ち住む家の当てもない純子に、矢崎は懇意の純喫茶「かもめ亭」二階の空き部屋を手配、フェリーに乗せてゐた釧路運輸のトラックで送り届ける。「かもめ亭」の表で純子が浮かべる笑みから、漁港の画に繋いでタイトル・イン。凡そビリング三番手らしからぬアバン無双を繰り広げる宮下順子が、ポスターではトメの位置に座つてゐる。
 明けて監督クレ時から何気に見切れてゐる、スナックバー「釧路の女」。三組のボックス席を抜いた上で、酔客の求めを拒んだ由美(片桐)が、マスターの大沢(織田)から怒られる。「釧路の女」は、女に客を取らせる店だつた。それは兎も角織田俊彦の、甘くほろ苦いマスクが既に堪らない。店に矢崎が現れると、由美は途端に満面の笑み。二人は矢崎が発動機船を手に入れたタイミングでの、結婚を約してゐた。
 配役残り、乳尻を殆ど全く見せない片桐夕子と吉田潔による初戦が、漸く二回戦に突入。したかに思はせて飛び込んで来る二条朱実と高橋明は、「釧路の女」のエース格・蘭子と、東京から来道した岡部。蘭子が超人的な明察をザックザク爆裂し倒す形で、勝手に明かされる岡部が釧路に現れた事情。岡部は巧みな手練手管で情婦にオトしいよいよ泡風呂に沈めようかとしてゐた純子に、逃げられたのを追つて来たものだつた。普通に観てゐると底も抜ける勢ひの自動的なシークエンスを二条朱実の色香と、高橋明の凄味とで頑丈に固定する。蘭子にまんまと図星を指された、岡部が滾らせる殺気じみたインパクトが凄まじい。安定のリーゼントをキメた清水国雄は、由美の弟・良吉。父親は遭難したのかソ連に拿捕されたのかさへ判らない正真正銘の行方不明で、母親の去就は不明。良吉に話を戻すと獣医を目指し夜学に通つてゐる割に、姉に心配ばかりかけるクソ弟。あと良吉のファッションが真黄色のトレーナーにピンクのパンツと、まるで80年代を先取りしたかの装ひ。「釧路の女」を辞めた由美は、純子が働くソシアルクラブ「GIN 銀」に。小見山玉樹がウェイターで、島村謙次は造船所社長の常連客・秋田。日活公式には秋山とあるが、劇中あくまで秋田。白井鋭は、良吉とは名ばかりの悪吉が、帯広にてアゲられた件で由美を訪ねる制服警官。森みどりが昭和478の二年間一時的に改名してゐた小森道子は、「釧路の女」の矢張り女に客を取らせる阿寒湖支店「釧路の夜」を切り盛りする時子、大沢の妻。この夫婦、一見姉さん女房に映りググッてみたところ、公称を真に受ける限りでは織田俊彦が七つ上。その他フェリー船内始め、諸々一切合切ヒッ包めるとノンクレ隊が五十人は軽く動員される大所帯の中、「銀」で氷室君に呼びかける露木護がゐるのだけは辛うじて確認出来た。
 現地ロケ―恐らく全篇―を敢行した、西村昭五郎昭和48年第六作。蒸気機関車が普通に走つてゐたり、阿寒湖周りが観光地にしては、軽く引くくらゐ未舗装であつたりする。矢崎を挟む純子と由美の三角関係を上手いこと―あるいは都合よく―構築すると、案外手放しでウッハウハな秋田に、当初目的はとりあへず達成した岡部を除けば、鮮やかなほど重層的な不幸に見舞はれる由美を筆頭に、登場人物の誰一人幸せになどするものか、鋼の意思すら感じさせかねないヘビーなメロドラマが展開される。宮下順子を間に噛ませた片桐夕子と吉田潔に高橋明の組み合はせで、ラスト観客を奈落の底に突き落とすニシムラ・アタックが火を噴く予感に戦慄したのは、締めの濡れ場の力も借り大回避。尤も文字通り身を賭した蘭子と純子も献身通り越して自己犠牲的に、是が非とも何が何でも万難排して由美を幸せにしようとする姿には、調子のいい嘘臭さを覚えなくもない。そもそも由美がよくてステレオタイプ、精々惰弱な浪花節の主人公程度の馬鹿と天才ならぬ非力と健気が紙一重の、要は平板なミソジニーに容易く親和するほか能のない造形で主体性にも魅力にも、そこに片桐夕子がゐる点以外にはもう何もかも遠い。一度目は矢崎に手も足も出せず圧倒される―高橋明の戦闘力が、中途半端なハンサムでしかない青二才に引けを取るのは納得し難いが―ものの、純子が岡部に見つかるのが尺も折り返す遥か前とあつては、この映画のペース配分は果たしてどうなつてゐるのか。軽く途方に暮れてゐると一時間寸前で漸く小森道子投入、前後暫し阿寒で尺を喰ふのに加へ、矢崎が純子を矢鱈ダダッ広い大草原に半ば拉致しての、闇雲な青姦―挙句ロングが壮大すぎて、もう絡みもへつたくれもない―の辺りにはロケーションを持て余した、御当地映画的な諸刃の剣が見え隠れする感も否めない。よしんば映画を壊したとて、オッパイをおヒップを、張尺を兎にも角にも叩き込む気概は、そもそも本隊ロマポなり西村昭五郎に求めるのがお門違ひといつた奴か。となるといよいよ万策尽きようところで、伏兵が大活躍。腹に一物含んだ色男が絶品の織田俊彦に、高橋明のバクチクする重低音。ブーツを履いてゐても、足は短いけれど。ツッパッた清水国雄に、ある意味邪気のない好色漢に扮する島村謙次の憎めない呑気。そして、慎ましやかにフレームの片隅を駆け抜けて行く御存知小見山玉樹。ロマンポルノが擁する常連部のさりげなくも芳醇な見せ場の数々は、女の裸に勝るとも劣らない地味ながら大いなる見所。劣勢を男優陣で挽回可能な、裸映画は強い。

 多分曲名は歌詞の最後の「ほくれんブルース」―ホクレンの表記不明―ではなからうかと思はれつつ、クレジットに無視される主題歌にどうしても辿り着けず。


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