真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「希望ケ丘夫婦戦争」(昭和54/製作:日活株式会社/監督:西村昭五郎/脚本:桂千穂/原作:実相寺昭雄《問題小説・徳間書店刊》/プロデューサー:結城良煕/撮影:山崎善弘/照明:新川真/録音:高橋三郎/美術:渡辺平八郎/編集:西村豊治/音楽:高田信/助監督:池田敏春/色彩計測:杉本一海/現像:東洋現像所/製作担当者:岩見良二/出演:片桐夕子・山口美也子・本郷淳・三谷昇・矢崎滋・青空はるお・坂本長利・島村謙次・ちばくみこ・八代康二・大江徹・茜ゆう子・八城夏子)。この頭数にしては珍しく?ポスターと、本篇クレジットのビリングが完全に一致する。クレジットがスッ飛ばす、配給に関しては事実上“提供:Xces Film”。
 長閑なアコーディオンが鳴り、タンポポ畑越しの住宅地にタイトル・イン。厳密には希望ケ丘の“ケ”が、ポスターが小文字であるのに対し本篇タイトルでは大文字。念願のマイホームを建てた猫田千吉(本郷)がタンポポを刈り集め、更に深いまるで海の如きタンポポ畑の中を、妻の弘子(片桐)と娘の弥生(浜村砂里らしい)が泳ぐやうに分け入る。食卓に出来上がつたタンポポのサラダに西村昭五郎の名前が入る、端整なタイトルバックが美しい。
 土曜ゆゑ起こされなかつた千吉が、「親子三人の朝食が家庭の幸せのルーツなんだぞ」だなどと、この期には清々しいほどの家父長制を吹き吹き遅れて食卓に着く。小学校は半ドンであるにも関らず、お絵描きのお稽古がある弥生は大好きなカツサンドのお弁当を持たされ、弘子も弘子で、お隣の宝石デザイナー・夏海テル(山口)が家を出る時からパッツンパツンのトップスと、キワッキワに短いスコートでテニスのお迎へに来る。一人家に残された、大閤食品総務部に勤務する千吉はといへば、総務部唯一の文学部卒とかいふ雑な文脈で任された社史『大閤食品三十年の歩み』の執筆に、角瓶を喇叭でグビグビやりつつ苦心する。中略してテルから勧められた、モーテル「ヴィラプリンス」に弘子が千吉と入つてみる。ところが湯船からグワーッと上昇するゴンドラ―これ、安全基準どうなつてゐるのだらう―の、弘子が見下す画を見る限り普通に屋根から落ちたくらゐの結構な高さから千吉が落下。腰を強打した千吉は、以来不能になつてしまふ。
 配役残り大江徹は、何をやつても許されるのか的にベッタベタ弘子の体に密着するテニスのコーチ・江木徹。屋外でクララ・シューマンをおかずにワンマンショーに耽つてゐたところを、千吉に恐々声をかけられる矢崎滋は、顔見知りの御近所・近藤満洲夫。達する瞬間の、「クララ、クララ、クララララー」が捧腹絶倒。クララララーw、天才のメソッドだろ。物理的には広角だけれど視覚的には鋭角さも併せ持つロンパリが地味に映える三谷昇は、千吉の上司・中村一郎。八城夏子は、千吉の浮気相手で専務秘書の松本貞江。弘子に千吉のインポを泣きつかれた、テルが紹介するセックス・カウンセラーの川口知也が坂本長利。何故か弘子に催眠療法を施して、貪欲に主演女優の裸を銀幕に載せる。八代康二が、秘書を愛人にしたのか、愛人を秘書にしたのかは不明な専務の池山稔。近藤は千吉を、限りなくミソジニーな秘密クラブ「MASS」“Masturbation Adult Self Service”に勧誘。青空はるおが「MASS」の会長・清洲悠造で、島村謙次が集会室に本物の女にしか見えない超高性能ダッチワイフ(演者不明)を持ち込み、一同の顰蹙を買ふ単なる好事家。後述するVIPな三人飛ばしてちばくみこと茜ゆう子は、「MASS」で鑑賞するブルーフィルム「乙女と蛙」に出演する女、眼鏡をかけた松井理子似がちばくみこ。
 ロマポの底力が火を噴く、西村昭五郎昭和54年第三作。その後の人生を住宅ローンに支配された男達と、呑気に貪欲な女達との対立を描く。と、いふよりは。家内は物に溢れた戸建を建て、スポーティーな自家用車を所有し、十二分な書斎さへ持つ猫田家の生活が、平成の三十年を少なくとも政治的と経済的にはドブに捨てた果ての今なほ、潮目の変る気配すら窺へぬ現在の目からすると眩くて眩くて仕方もないのは、全く以て実に情けない話でしかない。潤沢ないし隙あらば執拗に濡れ場を敷き詰めるにしては、完遂率の低さに小癪さも否み難いのは一種の偏好であつたとしても、純粋オナニストの集まりである「MASS」に草鞋を脱いでおきながら、弘子は欺く反面、テルなり貞江には普通に執心する千吉の姿には、根本的な疑問も残る。比較的漫然とした始終の中で、突発的に映画が爆裂するのは「MASS」集会の件。これは食用なのか、生きた蛙を鍋に入れて煮てみたり、毒々しく絵具を塗りたくつてみたり。大絶賛動物虐待の「乙女と蛙」、よりも更に凄まじいのが別の意味で完全にイッた目線で一心不乱に扱き続ける、箍の外れた矢崎滋の歪(ひず)んだエモーション。をも超える真のハイライトが、クレジットレスの「MASS」成員役でコミタマ×影英×水京―小見山玉樹と影山英俊に水木京一―が飛び込んで来る、ロマポが誇る大物大部屋部・ストリーム・アタック。正直水京は見切れるのみではあれ、コミタマは会長の傍らマスマスのる栄に浴し、影英には会場後方映写機側に控へ、新たな来場者をチェックする重要な役目も与へられる。本隊作ならではの、地味な分厚さが個人的には最も琴線に触れた。碌に数もこなしてゐないのに何だが、良くも悪くも実直な印象の西村昭五郎と、飛び道具的な桂千穂との相性や如何にとも思つたものの、近藤の振り切れた造形や、寧ろこんなものでヌケる方がどうかしてゐる、アート系すれすれにサイケデリックな「乙女と蛙」の内容を見るに、奇矯な脚本を、あくまで奇矯なまゝストレートに演出したといふ見方も、成立し得るのやも知れない。


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