真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「熟年の性 人妻に戯れて」(2003/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督:関根和美/脚本:林真由美・関根和美/撮影:倉本和比人/照明:野口素胖/音楽:ザ・リハビリテーションズ/助監督:林真由美/照明助手:小綿照夫/監督助手:三谷彩子/出演:酒井あずさ・安西なるみ・金子みえ・町田政則・なかみつせいじ・江藤大我・天本文子)。出演者中、天本文子は本篇クレジットのみ。撮影助手に力尽きる。
 シャワーを浴びる、ラブホテルに呼ばれたデリヘル嬢・エリカ(金子)と、ベッドの上には、松岡正治(町田)が所在なさげにエリカを待つ。いい感じにモジモジする正治を画面左側に置き、イカしたフォントでドーンと入るタイトル・イン。
 正治とエリカの一戦を経て、若夫婦・山川友美(安西)と祐介(江藤)の夕食。急に友美は表情を強張らせると、「やめて」と強い調子で祐介をたしなめる。とぼける祐介からカメラがテーブルの下に潜ると、晩酌を傾けながら祐介は足の親指で妻の女陰を戯れに愛撫してゐた。ふざけた祐介が足を攣らせ七転八倒してゐるところに、正治帰宅。正治は定年退職後妻(亜希いずみ@関根和美愛妻/遺影としてのみ登場、本篇クレジットもなし)には先立たれ、娘夫婦の家に同居してゐた。若い友美と祐介には夜な夜なアテられ昼間は暇を持て余すばかりの正治は、新聞広告で見付けたホームヘルパー募集に応募してみる。正治が訪れた小田家は、完全に崩壊してゐた。タバコ片手に正治を出迎へた冴子(酒井)は昼間から呑んだくれ、家の中もすつかり荒れ放題であつた。痴呆症を進行させた冴子の姑・清子(天本)に、正治はひとまづ食事を作り持つて行く。冴子ファースト・カットの、酒井あずさの冷たく閉ざされた眼差し。正治の作つた簡単な雑炊を、夢中で口に運ぶ清子を前に、それ程腹を空かせてゐたのかと憐みや軽い衝撃を伴ふ困惑を入り混じらせた、町田政則の複雑な表情。平素のあんな関根和美こんな関根和美とは明確に訳の違ふ、強度に満ちた本格派のメロドラマが展開される。
 雑炊を食べた清子は、一時的に正気を取り戻し、正治に助けを求める。自分のことではなく、息子嫁の。元々呆け始めた清子を、息子の勝利(なかみつ)は非情にも施設に放り込まうとしてゐた、それを救つて呉れたのが冴子だつた。ただ一人で全てを背負ひ込んだ冴子も、程なく壊れてしまふ。冴子さんは本当はいい嫁だ、冴子さんを助けてあげて欲しい、清子は正治に哀願する。正治は冴子からは冷たくあしらはれながらも、小田家に通ひ続ける意を固くする。
 正治の不屈の熱意が、次第に凍りついた冴子の心を溶かして行く。逃げ場のない題材に正面戦を展開した重たい物語は、人柄の良さも感じさせる町田政則の熱演と、とても木端微塵の生活を送つてゐるやうには見えない酒井あずさの硬質な美しさにも支へられ、文句なく見応へがある。深夜の清子からの電話を機に、遂に最終的に勝利と衝突し家を飛び出してしまつた冴子を連れ戻しに奔走する正治と冴子とが結ばれる濡れ場には、単なる女の裸を見せる方便を超えた、一本の映画としての頂点が見事に輝く。リアルタイムにm@stervision大哥が四つ星をつけてをられることもあり、今作に対する世評は関根和美映画の中でも随一に高いやうである。とはいへにも関らず、いよいよ映画を畳む段には、今作は磐石を果たしてゐるとは必ずしもいへない。事後正治が冴子を家に送り届けたところから、カット変ると“一月後”。相変らずお盛んな娘夫婦の夫婦生活に読書を妨げられつつ、冴子との日々を想起する正治にエンド・クレジットが被さるといふのは、野球に譬へると映画の“抑へ”を中途で投げ出してしまつた感も漂ふ。正治が以後小田家を訪れてはゐないであらう節は何となく窺へるが、無粋をいふならば冴子がその夜家に帰つたところで、清子の痴呆が完治する訳ではないのだ。問題は何も、決して解決されたものではない。だからこそ、敢て無理矢理にでも余韻を残すやうな形で、本来のクライマックスの後に更に濡れ場を挿んでまでも、さういふ幕の引き方をしたものであるのやも知れぬが。久し振りに引き合ひに出すが、関根和美屈指のマスターピースといへば、一にも二にも「淫行タクシー ひわいな女たち」(2000)を措いて他になし。といふのが、「淫タク」をオールタイムでピンク映画ベスト1として推す当サイトの変らぬ基本姿勢である。


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