真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「絶頂スクープ 生出しレポート」(2004『女子アナ秘局攻め』の2007年旧作改題版/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:岡輝男/撮影:創優和/照明:野田友行/音楽:レインボーサウンド/助監督:伊藤一平/撮影助手:原伸也・吉田雄三/監督助手:貝原クリス亮、他一名/出演:笹矢ちな・酒井あずさ・風間今日子・岡田智宏・丘尚輝・石川雄也・松浦祐也・柳東史・松田正信、他一名)。出演者中、ポスターに名前の記載のあるのは柳東史まで。
 奇癖を持つ視聴者を訪問するといふ深夜番組の1コーナー、ANL局―要はデビュー作や、この辺と同じネタ―の新人女子アナ・桜沢舞子(笹矢)が今回向かつたのは、その感触と匿名性こそが醍醐味と熱弁を振るふ全身タイツフェチ男(松浦祐也/どうもアフレコは本人ではないやうに聞こえる)の自宅。勧められるまま自らも全身タイツに身を包んだ舞子は思はず感じてしまひ、濡れ過ぎをディレクターにたしなめられたところでテンポ良くタイトル・イン。
 二人並んで局内を肩で風切り歩く酒井あずさと風間今日子は、舞子憧れの的の先輩アナ・新堂貴子と、貴子からは二期後輩の巨乳アナ・小田桐真美。岡田智宏は舞子の恋人で、ジャーナリストとしての志を若く燃やす報道局の新人記者・高杉虎鉄。絵に描いたやうなギョーカイ人ぶりを好演する丘尚輝は、プロデューサーの若林辰夫、好色で功利的なキャラクターがハマリ役。若林と不倫関係にある真美は御自慢の巨乳を駆使した肉弾工作で、貴子を押し退けアンカーウーマンの座を狙ふ。偶然その現場を目撃した、貴子は怒りに震へる。明くる日、舞子は高杉から借りて来たカメラを屋上にセットすると、その前でアナウンスの練習を始める。そこに貴子と、呼び出された真美とが現れる。ただならぬ雰囲気に舞子がひとまづ身を隠すと、貴子が真美に詰め寄り、二人は取つ組み合ひのキャット・ファイトに雪崩れ込む。すると弾みで貴子は真美を突き落とし、真美は転落死する。貴子に見付かつてしまつた舞子は、口止めを条件に貴子の口添へでの朝ワイドのレギュラーを持ちかけられる。舞子のドジながら好感の持てるキャラクターは視聴者の人気を博し、舞子は徐々に夢見た花形女子アナへの階段を上り始める。貴子&真美初登場時と同構図で局内を闊歩する貴子と舞子、高杉がそんな恋人の姿に偶さか距離を感じるカットは、変化の描き方として実に手堅い。一方、高杉は一年越しの執念の取材で遂にモノにしたスクープ映像を舞子に託すが、スクープは貴子に奪はれてしまふ。業界の体質に激昂した高杉はANL局を退職し、郷里のケーブル局に再就職する。
 語義矛盾じみても来るが、あくまでネイティブによるカタコト日本語と、最早逆に潔くすらある全身黒塗りとでキューバ人を強弁すると称した石川雄也は、舞子がインタビューする野球のホーリー選手。よせばいいのに収録後舞子にちよつかいを出し、濡れ場も展開する。ここの舞子の対ホーリー選手戦と、再び全身タイツも持ち出しての対若林戦は舞子のキャラクター設定としては、なかつた方が良かつたのかも知れない。後の展開も踏まへると、少々汚れ過ぎだ。確かに、笹矢ちなの濡れ場がひとつでも余計に見られるに越したこともないこともないのだが。柳東史は、特に濡れ場の恩恵に与ることもないアナウンサー。
 かつては憧れた、華やかさの薄皮一枚下では虚飾にまみれた世界から、半ば社会的にはドロップアウトしつつも、主人公が自分にとつて本当に大切なものを取り戻す。といふ展開は定番とはいへ今作の場合少々作り物臭くもあるが、最終的には主演の笹矢ちなの、瑞々しく輝く魅力に全て救はれる。これが新田栄監督作であつたならば、吃驚ついでにうつかり大絶賛してしまひかねないところでもありながら、加藤義一にこの水準の出来栄えで一々騒ぐこともあるまい、などといふのは少々酷であらうか。物語の鍵を握るテープの登場具合や、クライマックス舞子の衝撃的な告発を、番組は夕方の筈にしては、些か暗過ぎる部屋で固唾を呑んで見詰める松浦祐也の短いショット。細かなところでは加藤義一持ち前の技術的な論理性が冴えてゐるが、物語のスケールが一般的に大きな分、一般的ではない全体的な普請の安さは逃げ場なく災ひもする。余計な瑣末をツッコムと、ああいふスキャンダラスな跡の濁し方でキー局を後にした舞子が、地方のケーブル局とはいへ、矢張り女子アナウンサーに新天地を求めるといふのは、些か現実的ではないやうにも思へる。

 台詞も与へられず黙つて座つてゐるだけの松田正信は、ポジショニングから類推するにディレクターか。もう一人出演者としてクレジットされる田山某がどの人を指すのかは判らないが、局内スタッフとして撮影スタッフ勢も多数見切れる。


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