真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「妻たちの絶頂 いきまくり」(2006/制作:セメントマッチ・光の帝国/配給:新東宝映画株式会社/監督・脚本:後藤大輔/原題:『野川』/企画:福俵満/プロデューサー:池島ゆたか/挿入曲:コスモス by ハッピーターン/撮影:飯岡聖英/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/助監督:伊藤一平/撮影助手:邊母木伸治・宇野寛之/演出助手:中川大資/スチール:山本千里/タイミング:安斎公一/現像所:東映ラボ・テック/協力:有限会社アシスト・有限会社ライトブレーン・報映産業株式会社/出演:吉岡睦雄、千川彩菜、柳東史、結衣、なかみつせいじ、佐々木基子、本多菊次朗、川瀬陽太、エル・カヒール・ヘンリー=プーイー)。出演者中本多菊次朗と川瀬陽太に、エル・カヒール・ヘンリー=プーイーは本篇クレジットのみ。
 早朝か、薄暗い画面。出刃を片手に、千川彩菜(ex.谷川彩)が全裸でドブ川に立つ。
 シナリオ執筆中の、吉岡睦雄がキーボードを叩く。飼ひ猫・プーイー(猫セルフ)が机の上に飛び乗り、その邪魔をする。ピンクらしからぬ細やかなカット割に、「これは!?」と、この時点では思はず期待させられた、外れるんだけど。
 映画監督の加藤伸輔(吉岡)と、一緒に暮らす時雨(千川)は数年前に妊娠したものの、同時に卵管の病気が発覚、二人はその時に結婚する。ただ伸輔は現在では時雨との生活に意義を失ひ、女優の皆川悦子(結衣)と浮気してゐた。九州の実家から、伸輔に父親が倒れたとの報せが入る。兄・誠治(なかみつせいじ/ほぼヒムセルフ)から罵られながらも、不孝ばかりしてゐる伸輔は帰らない。帰りたくても、帰れない。
 中盤そこいら辺りから、伸輔と時雨の現在、ではなく正確には当時時制。当時時制からの近未来、過去時制。更には制作中の加藤伸輔新作映画内世界とが、十全に調整されるでなく観てゐる側からすれば、あくまでランダムに差し挿まれる。後藤大輔一個人の内部にあつては、時制ないし位相の移動は決して無規則なものではなく、統一され明確な何某かもひよつとすると存在するのかも知れないが、それが観客にさはりだけでも提示されはしない。無秩序はあくまで無秩序のまゝ、未整理は単なる未整理のまゝ、物語は現実の地平で一応の無理矢理な着地を果たし、降つて湧いたやうな兄夫婦―妻は基子(佐々木基子/大体ハーセルフ)―の、主を喪つた弟の部屋での夫婦生活で幕を閉ぢる。ピンク映画としては論外、ピンク外したとて面白くも何ともない。何程か高次なコンセプトのひとつある訳でもあるまい、純然たる未完成に過ぎない未完成。後藤大輔といふ人は決して、確固たる物語を明確に描く体力に欠ける映画監督であるとは思へないのだが、これはどうしたことやら、甚だしく頂けない。プロデューサーとして名前を連ねる池島ゆたかも、このやうな商業映画未満、あるいは以前を臆面もなく世に送り出してしまつた結果に対して、少なくとも自らの名を汚した不明を恥ぢるべきではなからうか。
 伸輔宅に、加藤組の皆が集まつてのホン読み。この件に関しては、画面中どれが誰であるかを識別出来る程度のピンクスにとつては、リアルに雑多な感じだけは少なくとも楽しめようか。こゝで本多菊次朗はプロデューサー、川瀬陽太がカメラマン。柳東史は俳優のヒムセルフ、ほかに悦子。なかみつせいじと佐々木基子も、それぞれ俳優部役で姿を見せる。あと二人若い男がゐるのは、片方が中川大資につき残りは伊藤一平か。
 劇中挿み込まれる―加藤伸輔新作―映画の1シーン、悦子から混乱と御都合主義とを詰られた伸輔は返して、「俺は手を汚す!」。ちなみに『俺は手を汚す』(ダゲレオ出版)とは、若松孝二自伝のタイトルである、怒るよ。
 伸輔、時雨の飼ひ猫として登場のプーイーは、後藤大輔の愛猫。ちなみちなみにプーイーとは、“ラストエンペラー”愛新覚羅溥儀の英語読みである。

 色々調べてゐて改めて思ひだしたが、映画監督の加藤伸輔と時雨夫妻が登場するのは、2004年の「夫婦交換《スワップ》前夜 ~私の妻とあなたの奥さん~」(伸輔と時雨は境賢一と夏目今日子)以来二度目。確か観た筈なのだが、殆ど全く印象に残つてゐない。


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