真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「看護婦日記 -わいせつなカルテ-」(昭和55/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:西村昭五郎/脚本:竹山洋・水谷龍二/製作:海野義幸/撮影:鈴木耕一/照明:新川真/録音:伊藤晴康/美術:川船夏夫/編集:西村豊治/音楽:本多信介/助監督:菅野隆/色彩計測:青柳勝義/現像:東洋現像所/製作担当:三浦増博/出演:原悦子・鹿沼えり・中原潤・浅見小四郎・朝霧友香・丹古母鬼馬二・桑崎てるお・吉原正皓・豪田路世留・笹木ルミ・小見山玉樹・庄司三郎・水木京一・井手亮三/刺青:河野光楊/技斗:鹿島研)。配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 朝の寝室にタイトル開巻、比較的静かに完遂した模様。小山田総合病院の勤務医・杉山隆(中原)が、部屋の主である交際相手の看護婦・田崎涼子(原)の、同伴の希望は拒否し先に出勤。昨晩殆ど眠らせて貰へなかつた、涼子は再び安らかに床に就く。並木道に女声コーラスとクレジット起動、「今日は誕生日の人聴いてるかな?」、第一声から日本語のおかしいラジオが流れるタクシー車内、そこは“今日が誕生日の人”だろ。兎も角双子座生まれの運命の人と出会ふ、とかいふ占ひを真に受けた運転手の明(浅見)は、豪快にUターンして車を吉方とされる東に走らせる。隣室のロックンロールに起こされた、涼子は案の定致命的大寝坊。アパートを出た超絶のタイミングで涼子が拾つたのが、上手いこと明のタクシー。後部座席でお化粧、バックミラー越しに目の合つた明にごめんなさいする、原悦子の節度が超絶に麗しくて麗しくて、もう既にこの映画百点満点で二千点。涼子が双子座である旨確認した明は、対向車線を爆走する凄まじく無防備なスタントを経て小山田総合に滑り込む。命からがら辿り着いたところで、「アタシは田崎涼子二十二歳、この病院の白衣の天使なんです」と、原悦子的にはロマポ初陣で既に習得済みの宇能鴻一郎調モノローグ、略してウノローグが起動する。
 配役残り、美貌を瓶底メガネで隠した朝霧友香は、涼子に対する呼称がお姉さんの新人看護婦・恵子。井手亮三は入院患者の末谷クン、実存主義や唯物論を捏ね繰り回す、藪蛇な造形の恵子が蔵書を借りに来る仲。桑崎てるおと笹木ルミに豪田路世留は、躁病患者にしか映らない頭の捩子のカッ飛んだ桑田と古参看護婦の弘子に、もう一人のメイン看護婦・明美。弘子が看護婦控室では、大体常に煙草を吸つてゐたりする昭和。吉原正皓は院長の小山田大五郎、明の前職・オカマのハニーちやんの常連であつたりもする、両刀の御仁。そして鹿沼えりが留学してゐたアメリカから帰国した、小山田の娘・由香。丹古母鬼馬二はこの人何で入院してゐるのか全く判らない、キッバキバに元気な堀田、脱ぐと堂々とした彫物を背負つてゐる親分。二人纏めて登場する小見山玉樹と庄司三郎は、堀田の子分衆。そして矢継ぎ早に飛び込んで来る水木京一が、由香に田崎を六本木のディスコに強奪され、約束を反故にされた夜、涼子が舌平目を二枚買ふ魚屋の大将。水木京一が商店街に恐ろしく馴染む、何気な画の強さ。この辺りで火を噴く大物脇役部三連撃が、中盤の地味な見所。
 西村昭五郎昭和55年第四作は、白鳥信一昭和54年第四作「看護婦日記 いたづらな指」(脚本:熊谷禄朗/主演:原悦子/未見)に続く看護婦日記シリーズ第二弾。「いたづらな指」と「わいせつなカルテ」がともに涼子役の原悦子が主人公、といつた程度には緩やかにリンクしなくもない一方、形式的には一応第三弾の「看護婦日記 獣じみた午後」(昭和57/監督:黒沢直輔/脚本:宮田雪/主演:風間舞子)は純然たる別物。そもそもビリング頭が看護婦ですらなく女医、何故看護婦日記で括らうとしたのか。
 父親から勧められた杉山を見初めた由香が、口約束とはいへ求婚すらした涼子との関係に横槍を入れる傍ら、偶さかをデスティニーかと錯覚か妄信し涼子の周辺に出没する明、のお尻を小山田が更に狙ふ。明の来し方に関して木に竹を接ぐ力技で周到で秀逸な相関を構築した上で、顔ぶれの豊かな俳優部にも恵まれ、演出部の地力と勢ひとでサックサク楽しく見させる、お手本のやうな見事な量産型娯楽映画。由香が涼子に飲ませようとした、媚薬の誤爆した恵子から辛うじて逃げおほせやれやれする明の、ピントの彼方でハニーちやんを発見した小山田が小躍りするカットの、他愛ないシークエンスなんだけど完璧な画面設計には身震ひを禁じ得ない。兎にも角にも、大明神が隈が目立ちながらも、由香に再強奪された田崎をあくまで信じつつ、看護婦控室にて編物で気を紛らせる涼子の健気な姿が、あまりにも愛ほしくて愛ほしくて愛ほしくて、もうそれだけでこの映画百点満点で二万点。何だか知らんけど、胸が苦しくて仕方がない、医者行けよ。最終的に男達は半殺し程度にはされる反面、恵子のクソ女が1mmの報ひも受けない点にはマキシマムに平衡を欠くものの、小見山玉樹と庄司三郎が功夫使ひと大立回りを繰り広げる、明後日ではあれエクストリームな見せ場で相殺。小見山玉樹は、この人台詞がない方が、寧ろフレームの中で映える気がする。


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