真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「人妻を狂はせた 不倫の夜」(1994『をば様たちの痴態 淫熟』の2007年旧作改題版/製作:サカエ企画/配給:新東宝映画/監督:新田栄/脚本:高山みちる/企画:中田新太郎/撮影:千葉幸男/照明:渡波洋行/編集:酒井正次/音楽:モンスター藤本/助監督:国沢実/監督助手:北村隆/撮影助手:島内誠/照明助手:藤森玄一郎/効果:中村半次郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/出演:鶴見としえ《40才》・如月じゅん《44才》・田口あゆみ《34才》・青木こずえ・清水大敬・吉永百合子・中川あきら・山科薫)。出演者中、田口あゆみまで女優名に続いて年齢が表記されるのと、吉永百合子は本篇クレジットのみ。
 後付にせよ何にせよ、ひとまづ「エロをばさま」シリーズの第二弾。
 篠宮さゆり(鶴見)は朝から、自堕落にエロマンガを読み耽る。夫の直昭(清水)が起きて来ると、朝食は袋も開けてないアンパンと、瓶牛乳一本きり。浮気の兆候を明確に示す直昭と、さゆりの関係は悪化してゐた。直昭が出張に行くのに派手な下着やコンドームを持参するある意味オネストに、さゆりは激しく噛みつく。田口あゆみ(34才)は、さゆりの想像の中にのみ登場する直昭の浮気相手・牧田かづみ。田口あゆみに別に罪はないが、清水大敬の濡れ場は何時見ても下品で汚い。
 その夜さゆりは、馴染みのスナック「いと」に向かふ。吉永百合子は、ボックス席中田新太郎の連れの女。二人とも物語には清々しく絡まない、純然たる見切れ要員。カウンターの隅に色男(山科)を見付けたさゆりは―山科薫の何処が色男なのだ、などといふ疑問は最早スルーだ―早速積極的も通り越し破天荒なアプローチを蛮行、もとい敢行。閉口した色男は俄かに女言葉になると、店にも遊びに来てねとさゆりに名刺を渡す。色男は、ゲイボーイであつたのだ。後にも先にも山科薫の出番はこの一幕のみ、何しに出て来たのだか殆ど判らない。落胆したさゆりは、直ちにマスターの和洋(中川)に矛先を向ける。さゆりと和洋とは、以前から関係を持つてゐた。そんなさゆりに、直昭に腹を立てる謂れは全くない。さゆりが店を後にしかけたところで、女子大生・前川秀美(青木)が「いと」に入つて来る。秀美は直昭の前妻・寿賀子(如月)の娘で、寿賀子には内緒で、さゆりとは以前から面識があつた。さゆりと和洋の濡れ場明け、翌日秀美が帰宅しようとしたところ、アパートのベランダが何故か開いてゐる。恐る恐る秀美が部屋に入ると、勝手に訪れた寿賀子が部屋を掃除してゐた。寿賀子が知らぬ間に秀美が直昭と撮つてゐた写真を見つけ、返せ返さないで揉み合ひとなつたスナップは、皺くちやになる。傷ついた秀美は、父親とも父親の後妻であるさゆりとも良好な関係を維持してゐる旨白状し、加へて、寿賀子にもそろそろ再婚するやう勧める。寿賀子の将来を考へて、子離れも促すべく秀美は一人暮らしを始めたものだつた。直昭との離婚後、寿賀子は女手ひとつで秀美を育て上げるべく、脇目も振らず仕事一筋に生きて来た。その夜秀美の言葉に我に帰つた寿賀子は、改めて女としての人生を顧み、自慰に溺れる。全てがセックスに直結してのけるのは、ピンクなので細かいことはいひない。
 ビリング上は一応トップの鶴見としえ演ずるさゆりは、自らの不貞は棚に上げ旦那に邪険にするやうな憎たらしい女なので、凡そ物語を背負はせ得よう筋合にはない。一方自らの母としてではなく、女としての幸せを再認識し動き出した寿賀子のドラマとしてならば、映画も成立し得ないではなかつたのだが、さゆりへの対抗心も剥き出しに「いと」を訪れ和洋に抱かれる一戦前後の、余計な濡れ場に邪魔される。風邪を引き熱を出した秀美をさゆりが看病すると称して、何故だか突入する百合の花香る絡みは意味不明。出張から戻つた直昭と、重ねて何故だか食卓狭しと並べたスタミナ料理で出迎へたさゆりとの、まるで手の平を返したかの如く順調な夫婦生活で映画を畳んでみせるといふのは全体どういふ了見か。シリーズ前作は、主演に女岡田謙一郎を据ゑながらも、物語自体は丁寧に織り込まれた極めて順当なホームドラマであつた。対して今作は、鶴見としえ(40才)も如月じゅん(44才)もともに三條俊江と比較して、といふ限定をつけなくともまあまあ普通に観てゐられはするのだが、無駄に看板を二枚―田口あゆみは純然たるエクストラな裸要員につき、さて措く―並べてしまつた分、展開の背骨が終に通らぬまゝに、地に足も着かぬ濡れ場濡れ場が漫然と連ねられるばかりのストレートな凡作に堕す。

 予想に反して現在のところ、「エロをばさま」シリーズ三作目「淫臭!! 年増女の痴態」(1995/脚本:岡輝男/主演:如月じゅん)の、再度―再々度?―の旧作改題は未だ行はれてゐない。2003年次の改題新版をこの期に小屋で観るのは望み薄ではあれ、毒を喰らはば皿まで。この際何とか、三作目も完走したいものではある。

 以下は再見に際しての付記< 中川あきら扮する和洋は芳田正浩のアテレコなのと、「いと」店内は摩天楼


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