真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「女銀行員 暴行オフィス」(昭和60/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:西村昭五郎/脚本:桂千穂/企画:八尋哲哉/プロデューサー:桜井潤一/撮影:杉本一海/照明:木村誠作/編集:奥原好幸/選曲:山川繁/美術:菊川芳江/助監督:北村武司/録音:福島信雄/製作担当者:秋田一郎/出演:麻生かおり・清元香夜《新人》・木築沙絵子・横田楊子・三上伸之・手塚英明・益富信孝)。配給に関しては事実上“提供:Xces Film”。
 その日の業務の終了した銀行、続々と退勤する他の行員を尻目に、上司への点数稼ぎの書類作成に追はれる係長の加藤進(三上)と、それに付き合はされた坂本眸(麻生)と三上泰子(清元)。仕事も片づかないまゝに、泰子はデートの約束があるといふので退勤を申し出る。即座に無下に却下する加藤ではあつたが、眸の庇ひ立てと、デートの相手といふのが得意先の矢島幸三郎(益富)であることから、渋々承諾する。一頻り二人きりで作業したのち、目処をつけた眸は先に上がることにする。煙草に火を点け、深く一息つく。無防備に組んだ足の隙間に、加藤の凝視が注がれる。何かが、外れた。更衣室で私服に着替へる眸を、加藤が襲ふ。廊下を逃げる眸を行内に追ひ込んだ加藤は、カウンター内で服を引き裂き陵辱する。
 冒頭から迫真の描写は実に迫力がある。正直そこから先は、映画は現象論レベルでの出来事を順になぞつて行くだけで、特に何程かの主題が語られるでなければ深みが生まれて来る訳でもないのだけれど。映画としての基本的な分厚さが、尺を最後まで飽きさせず充実して観させる。それがその限りに於いてはピンクを完全に凌駕するロマンポルノの強み、といつてしまふならば正しくそれまでである。と同時にピンクは映画としての規模がミニマムを通り越してなほ小さな分、却つて純化されて来る部分といふものもある。それがピンク映画の面白さであり、醍醐味であらう、話は全く今作からは反れたが。
 初登場時には演劇部の練習のメイクを落として来なかつた、とかいふ方便で感動的に不必要な積み木くづし時代のスケ番メイクで登場の木築沙絵子は、眸の妹・恵。当代のド真ん中を驀進してゐたにさうゐないアイドル的可愛らしさで、この時初めて、加藤文彦の「三十路色情飼育 -し・た・た・り-」 (2002)がもたらした衝撃といふものを理解した。あくまで極私的な嗜好としては「三十路色情飼育」の木築沙絵子がホームラン・ボールであるものだが、この当時の木築沙絵子を知る諸兄に当たられては・・・・ここから先は流石に書けぬ。当サイトとて、幾ら吹くにも憚る与太もある。
 配役残り、手塚英明は眸の婚約者・井沢紀彦。ひ弱な東大出のエリートでマザコンでもある加藤の判り易い対比として、野性味溢れる男として描かれる。車に乗り込むワン・カットだけ見切れる横田楊子は、矢島の妻。
 クライマックス二度目の加藤の凶行へ重層的に張られた伏線と、ラストを桃色にガッチリ締める二段構へのどんでん返しは正しく磐石。しつかりとした娯楽映画が与へて呉れる、安定感を伴ふ確かな満足感が味はへる。
 <通用口の合図>の伏線は容易に予想もついたが、もう一本の方はあれ(<泰子が矢島から頼まれた両替>)が伏線として機能するとは思はなかつた。今更ながらに映画の観方といふもののひとつを、教へられたやうな気がする。


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