真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「縄姉妹 奇妙な果実」(昭和59/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:中原俊/原作・脚本:石井隆『作品集・夜に頬よせ』《竹書房刊》/プロデューサー:斉藤信幸/企画:山田耕大/撮影:米田実/照明:矢部一男/録音:伊藤晴康/美術:中澤克巳/編集:井上治/選曲:小野寺修/助監督:堀内靖博/色彩計測:佐藤徹/現像:東洋現像所/製作担当:服部紹男/出演:美野真琴・北見敏之・萩尾なおみ・伊藤昌一・早乙女宏美《新人》・片岡五郎・玉井謙介・遠山牛・小金井宣夫・横田明宏・阿部勉・鷲津秀行/緊縛指導:浦戸宏)。早乙女宏美の括弧新人特記は、本篇クレジットのみ。配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 高層ビルの夜景から、空にティルトするカメラと擦れ違ふが如く、下りて来たタイトルが画面中央で止ま、らずに。上から下にそのまゝフレーム内を通り過ぎる斬新なタイトル・イン、ならぬタイトル・パッシング。走行する電車越しに、公園でボサッとハイライトを咥へる北見敏之に寄る。冴えない外交販売員・村木(北見)が脳裏に浮かべる、ちやうど中央に村木挿んで、セールスマン計九人が整列する朝礼?風景。上司(遠山)が一人一人にゴツンと拳骨を入れた上で、「頑張つて下さい」と鼓舞するとか前時代的、でも案外ないクソさが清々しい。余程成績がいゝらしく、四人目の男が遠山上司から抱擁されるのに対し、ビリの村木は鼻を抓まれ捩じられる。こゝで同僚とされる横田明宏以下三名のうち、特定可能なのは三人目の阿部勉のみ。結論を先走ると、公式の配役には“セールスマン風の男”とある小金井宣夫が、どうしても何処にも見当たらない。閑話休題、もそもそパンを食したのち、ベンチに新聞紙を敷き―結局インクで衣服が汚れないか?―昼寝する村木は、前の会社の年功序列を厭ひ転職したものの、仕事が合はずボーナスも貰へない夫との仲を拗らせ気味な、妻・陽子(二年後に二代目一条さゆりを襲名する萩尾なおみ)との夫婦生活を夢に見る。その要は回想の中に、陽子から軽く詰られたのに朝礼を重ね合はせるフラッシュバックを更に捻じ込むのは、素人考へにほかならないが徒に時制を錯綜させる悪手に映る。さて措きピーピー鳴るポケベルに叩き起こされた村木は、電話ボックスでぺこぺこ謝るロングを経て漸く再起動。往来から路地に折れ、電線から坂道を歩く村木を舐める。結構な豪邸の表で落ちてゐる学生鞄を目にした村木が、開いてゐた通用門を潜つてみるとおパンティも露はに女高生の明香(早乙女)が倒れてゐて、姉の助けを求める明香の言葉に従ひ村木が庭に入つたところ、驚く勿れ、姉の博美(美野真琴/a.k.a.よしのまこと)は本格的に緊縛された状態で吊られてゐた。
 父親の仕事の都合で月の半分は広い屋敷に姉妹二人暮らしの博美と明香は、“変態”からの嫌がらせを度々受けてゐた。だなどと底しか抜けてゐない方便に則り、村木はガードマンを乞はれる格好に。その夜、不穏な気配を感じた村木が居室に不在の姉妹を捜し再び庭に出てみたところ、特機感全開の雨に打たれ、又しても博美が吊られてゐた。衝撃を受け直した村木は、背後から殴打され昏倒。俳優部残り伊藤昌一は、村木が意識を取り戻すと一緒に拘束されてゐた、どころか博美に尺八を吹かれてゐた内田。片岡五郎と玉井謙介は、一旦脱出したのち、改めて奇妙な果樹園に忍び込んだ村木に、声をかける二人組の刑事。片岡五郎が藪蛇な強面造形で、官憲といふより寧ろ筋者にしか見えない、藪蛇な東映臭を放散する。
 ロマポの手前勝手な新人特記に引き摺られてか、今作を以て早乙女宏美のデビュー作とする誤つた認識もちらほら散見されつつ、早乙女宏美は前年既に東活で初土俵を踏んでゐる、中原俊昭和59年第一作、中原俊的には通算第六作。早乙女宏美であれ誰であれ、東活の映画なんてこの期にどうやつて観るなり見るんだよといふのも兎も角、そもそも買取系とはいへ同じロマポで、中村幻児の「下半身症候群」(脚本:吉本昌弘・高原秀和/五月女弘美名義)が二週間前に封切られてゐたりもする。この辺り如何にも本隊の尊大な態度が看て取れるといふのは、果たして当サイトの穿ちすぎかしら。
 ドロップアウトすれすれの男が、住宅地に忽然と現れ―て消え―た、縄姉妹の司る迷宮に彷徨ひ込む。夜伽話、もとい御伽噺にも似た肌触りの物語を、監禁生活に関し村木との温度差を窺はせる、内田の正体あるいは去就含め何時種明かしに入るのか如何なる着地点に畳み込むのか見守つてゐると、最終的にも謎は謎のまゝ残し、エピローグ的なラストの手前まで一息にサドマゾ一辺倒で駆け抜けてみせる、予想外に豪快な構成には軽く驚かされた。かと、いつて。そこそこ以上にハードであつたり大掛かりな責めも敢行してゐる割に、資質的な問題なのか意図的な匙加減か、中原俊の場数を踏んでゐないゆゑ量りかねるのを素直に認めるが、何れにしても腰から下にゴリゴリ響く、煽情性にも馬力にも些かならず遠い。とかくSMとなると暗さなり重さを求めるのも、最早時代錯誤に片足突つ込んだ、ある種の偏向であつたにせよ。例によつて緊縛重視のブッキングにさうゐない、早乙女宏美も実も蓋もない言ひ方を平然としてのければペッラペラのピンクならばまだしも、もしくはグルッと一周した奇跡の親和を果たす余地も残されてゐなくもないとはいへ、ロマポの分厚さの中に放り込んだ場合、貧相なルックスが画を安くするきらひはどうしても否めない。一方男優部に目を向けると、アナグラムじみた木村に扮した、ナミならゐる菅野隆第一作から三年。遂に晴れて北見敏之が本家石井隆脚本による金看板の村木役―「天使のはらわた」第一作が六年前―を得こそすれ、名美がゐないとあつては狂はされるだけの運命にも結局縁遠く、精々蹴躓いてズッ転けるのが関の山。さうぞんざいに捉へた時、村木一人の片翼ながら、スター・シズテムの中でいつそ珍品の部類に放り込んだとてさして差支へないやうな一作、ともいつてしまへるのではなからうか。


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