真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「不倫中毒 官能のまどろみ」(2007/製作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/監督:吉行由実/脚本:吉行由実・樫原辰郎/原題:『ノワイエ』/撮影:清水正二/編集:鵜飼邦彦/音楽:加藤キーチ・小泉pat一郎/助監督:佐藤吏/監督助手:新居あゆみ/撮影助手:種市祐介・村田千夏/照明応援:広瀬寛巳/録音:シネキャビン/スチール:津田一郎/脚本協力:本田唯一/現像:東映ラボ・テック/協力:洋泉社『映画秘宝』編集部・柳下毅一郎/出演:薫桜子・内山沙千佳・吉行由実・平川文人・国沢実・柳下毅一郎・なかみつせいじ)。出演者中柳下毅一郎は、本篇クレジットのみ。
 『映画秘宝』編集部にてロケされる、文芸雑誌『さざなみ』編集部。編集者の一ノ瀬理沙(薫)と、左隣に座るお菓子好きの同僚・清水(国沢)の、説明台詞が垂れ流される開巻。国沢実が、もう少し芝居は達者であつたやうにも思つてゐつつ、これでは監督業と変らん。学生時代から劇中小説『溺れそうな僕の小島』の大ファンであつた、理沙は作者・小山内誠二を担当することに憧れ編集職に就くが、小山内は、この十年筆を断つたまゝであつた。理沙は小山内の復活を企画として上げるが、清水にも、新任編集長である東海林麻子(吉行)からも今更と反対される。ある日麻子の家に、別の作家の自筆原稿を取りに向つた理沙は驚く。妻の稼ぎで生活し、日がな趣味の蕎麦打ちに熱中する麻子の夫が、何と小山内(なかみつ)であつたのだ。恋人の大野英則(平川)との情事に、文学中に描かれる人生を狂はすやうな情欲を感じられず物足りなさを覚えてゐた、麻子は次第に小山内との関係に溺れて行く。一方、小山内も理沙と重ねる逢瀬の中から、次第に失つてゐた作家としての力強い翼を取り戻して行く。
 快楽がフィジカルなものであるのかそれともメンタルなものであるのか、などと浅墓な心身二元論に支配された他愛もない議論のために、理沙は小山内が隠れて見守る中、大野に再び抱かれる。内山沙千佳は、今度はその逆だといふ次第で、理沙が見る前で抱く目的で、小山内が呼んだ風俗嬢・洋子。純然たる濡れ場要員ながら、小悪魔ぶりを炸裂させるキャラクターは非常に悪くない。柳下毅一郎は、小山内が麻子の夫であつた事実に関して会話を交す理沙と麻子の手前で、清水と打ち合はせする男。もう一人、編集部内に若い女が見切れる。
 今作吉行由実は、従来のドラマ重視から端的なエロ本義へとシフト・チェンジしたらしいが、結果的には大いに物足りない。即物的な実用性に関しては下元哲、神野太らのエクセス重戦車軍団に遠く及ばず、同じ女流監督で比較してみた場合にも、“女帝”浜野佐知の頑丈な思想に裏支へられた馬力や、苛烈な女性美に対しての偏愛にはまるで歯が立たない。男と女、あるいは女と男の情念を濡れ場に狂ひ咲かせるには、この人の映画は最終的にどうにも軽い、あるいは弱い。今作中最も映画が強度を有したカットは、小山内が執筆を再会した旨、麻子は一応理沙に伝へる。その時点で既に本人から原稿を手渡されてゐた理沙は、何枚か読ませて貰つてゐますと口を滑らせ気味にさりげなく勝ち誇る。そんな理沙の姿に、麻子が無言のまゝ夫と部下の不貞を察する件。吉行由実の近作は、折角ピンクに於いては阻害要因としかたり得まい埒の明かぬ少女趣味も抜け、いよいよ本格派の商業娯楽作家への脱皮も果たしかけてゐただけに、余計な外野からの風にでも吹かれたか、至らん色気を出しお話も中途で投げ出されてしまつたかのやうな体たらくの一作はどうにも惜しい。ピンク映画に於けるエロと物語、何れに重きを置くべきか、何れをも欲張つての初めてピンクで初めて映画であるのか。永遠のテーマでもあるやうに見えて、実はまるで単純な話に過ぎないやうにも思へるが。少なくとも餅は餅屋にとするならば、たとへ濡れ場が挿み込まれるものにすら過ぎなくとも、穏当な起承転結と、真つ直ぐなエモーションとを誠実に希求した映画の方が、吉行由実の場合には手に合つてゐるやうに見受けるものである。

 以下は再見時の付記< 仕事終りに清水が理沙を、萩原朔太郎の朗読会に誘ふもののまんまとあつさり袖に振られる、といふシークエンスが見られる。同じく国沢実がこの時は森田りこを、成瀬巳喜男の上映会に誘ふも矢張りフラれる過去作が想起され、観客席のダメ男達は滂沱の涙を搾り取られる。


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